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「…………はー」
六畳余りの部屋に、深いため息をつく少年がいた。
ベットの上で大層座りをする少年は何度もため息を繰り返していた。
ひときわ目を引くアフロ頭は顔面の倍くらいの大きさもあるため、膝に顔を埋めているのか、押し付けているのかまるで見当がつかない。
少年の全身に包帯が巻かれている。
肌がほとんど見えないことから、傷の多さがよくわかる。
実際問題、少年はかなりの重症だった。
常人であれば十回以上は死んでいてもおかしくない状況を乗り越えて、今ここにいる。
だが、
「俺、完全にやっちまったよな」
この少年はとあるお姫様の従者として働いている。
それなのに、咄嗟にため口で話しかけ、名前を呼び捨てで連呼してしまったのだ。
更に、なんか色々恥ずかしいことを連呼した気がするし、挙句の果てに魔獣を倒してもらった後、そのまま気絶し現在に至る。
もうなんというか、全体的に封印しておきたい印象しかない。
「良くて追放、悪くて処刑ってとこか…………」
いや、確かに非常事態だったし、それなりに活躍できたとも思う。
ため口だって、そもそもは彼女からの提案だ。
であれば従わない選択肢はない。
だが、問題はもう一人のほうだった。
あの冷酷無比のメイドは確実に許すはずがないだろう。
なにより、ここに来るまでの記憶がまるでない。
記憶喪失が更に記憶を失うとかよくわからない文章だが、どうして自室の、ベットの上で寝ているのかまるで分からない。
しかも服には血の痕跡のかけらもなく、包帯を自分で巻いた覚えはない。
いくらなんでもこれをシェルアにやらせるとは到底思えない。
つまり例の、あの冷酷非情なメイドがやったことになる。
要するに迷惑をかけた上に、更に世話になったのだ。
どんな処罰が下されても何も言えないだろう。
そうこう怯えていると、ガチャリと部屋のドアが開いた。
ビクリと体を揺らし、恐る恐る振り返ると例のメイド姿の女性、リーゼが立っていた。
「ようやく起きましたか。まったく、随分と手間をかけさせますね」
手にはスープとパン、それと水の入った容器とコップがあった。
どうやら食事を運んできてくれたらしい。
普通ならば感謝する場面だが、先ほどの妄想があったからかそれが最後の晩餐にしか見えなかった。
「どうして私を見て怯えているのか分かりませんが、特にあなたを責めるつもりはありませんよ」
「…………え?」
思わずそう聞き返すと、リーゼは心底あきれた様子で口を開く。
「あれだけの状況であれば、おおよその検討はつきます。それこそお嬢様の命の恩人であるあなたに対し、感謝以外の言葉があるのですか?」
「…………」
やばい。なんだろうこのこの気持ち。
胸がきゅっと締まりながらも、無性に暖かくて、目頭が熱くなっていく。
あかん。これは我慢できないやつだ。
「まったく、その自己評価の低さはお嬢様とそっくりですね。私はそれほどまでに冷たい人間だと思うのですか?」
呆れつつ、小さく笑みを浮かべるリーゼは、ひとまずこれをと食事をベットの近くの机になった。
その机は片方に足がなく、自由に動かせるため、寝たまま食事ができるように工夫されていた。
「あの、その…………ありがとうございます」
「こちらこそです」
短く言葉を交わし、サトーは勢いよく食事を食べ始めるのだった。




