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異世界に転生したら最強になって無双できるんじゃないんですか!?  作者: イサキ
第1章 始まりの森

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 もし仮に、分岐点というものがあるとすれば。


「……………………ァ」


 それがきっと、間違いなくこの瞬間だった。


 突如、彼女がかきむしるように両手で胸を抑えつけた。

 

 魔獣も、サトーも。

 お互いにその動きに視線が向く。


 息が荒く、全身から汗が噴き出ているのか、ポタポタと汗がしたたりおちる音がした。

 段々と吐く息の速度が加速していく。

 そしてそのまま、その場でうずくまってしまう。


「シェルア…………」


 近くに駆け寄りたいのに、既にここで踏ん張っているので精いっぱいだった。

 一歩でも動き出せば、その時点で立つことすらままならなくなる。

 この死なない事象を繰り返すたびに、何故か体調は急速に悪化していた。


 倒れて楽になるのは簡単だが、そうすればこの魔獣が彼女を襲う。

 それだけはなんとしても避けないといけない。


 だから、これができる最善策だった。


 すると、吐く息に合わせて、青い光が彼女から発せられた。

 それはよく見ると彼女の中心から発せられているようだった。


 暗闇の森の中でそれは、一等星よりも煌々と周囲を照らす。

 そして、その青い光がより一層輝きを増した瞬間。


 突如として彼女の体が直立姿勢になった。


「…………は?」


 瞬く間に髪が白く変化し、瞳が青く、それでいて様々な色を湛えた光を放つ。

 なにより、まるで操られているかのように、彼女の体が宙に浮いた。


「しぇ、るあ?」


 その瞬間だけ、全身の痛みを忘れていた。

 それは対峙する魔獣も同じだっただろう。

 目の前で起きている事象に、静かに魅了されることしかできない。


「…………、」


 まるで天使のように宙に佇む彼女は、まるで別人のようだった。

 顔には感情はなく、冷酷な瞳は静かに虚空を見据えている。


 そうして彼女は静かに片手をあげ、魔獣へと向けた。


 結果は、即座に起きた。


「…………え?」


 瞬きする間もなく、魔獣の体が巨大な岩で貫かれていた。

 それは半透明の水晶のような岩石だった。


 魔獣は抵抗する隙も、反撃する隙も、回避する隙もなかった。

 最後の悲鳴をあげることすらできず、その体は塵に消えていった。


「…………冗談、だろ?」


 その言葉を言い終わる前に、顔面の横を岩の柱が通り抜けていった。

 それは背後の木々を次々になぎ倒し、やがてどこかに突き刺さったのかズン、という音が響いた。


 途端に全身に冷や汗が溢れた。


 本能的に分かる。

 これはダメだ、と。


 多分、というか絶対に勝てない。

 俺が死なないからといって、彼女に負けない要素にすらならない。


「…………ヵ…………ァ」


 身動きが取れない。

 息が苦しい。

 少しでも動けば死ぬことが痛いほど理解できる。

 血液の流れる音が、全身から弾け飛びそうになる。


「…………?」


 だが、彼女の動きもまた止まっていた。

 いや、何者かに止められているようだった。

 全身が小刻みに動いているのが僅かに見える。


 それはまるでなにかに抵抗するかのようだった。


「…………」


 それを見て、俺は静かにその一歩を踏み出した。

 そこが死地であると理解しながら。


 それでも真っすぐ歩きだした。


 彼女の瞳が爛々と青く輝く。

 それでも、何も起こらず。

 変わらぬまま動かずにいた。


 また一歩。

 更に一歩。


 全身が激しく痛み、酷い吐き気と眩暈がするが、そんなことは細事だった。

 そんなことで、この歩みを止めることはできなかった。


 もう数歩。


 腫れた瞼でも彼女の顔がよく見える。

 どうすればいいか、何をすればいいかは、体が自然と答えを出していた。


「ありがとう。もう、大丈夫だから」


 その言葉で、彼女の瞳は輝きを失い、髪が一気に白から黒に変化する。

 彼女はふわりと着地すると、数度瞬きをして、こう尋ねた。


「あの、サトーさん?」

「…………ったく、ほんと、いい身分なこった」


 最後の言葉はまさかの嫌味で、

 彼の意識は急速に落ちていったのだった。

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