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異世界に転生したら最強になって無双できるんじゃないんですか!?  作者: イサキ
第1章 始まりの森

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「…………ん?」


 頬に硬い感触を感じ、シェルアは目を覚ます。


「え?」


 そこは森だった。

 どこを見ても木しかなく、生き物の気配なんてどこにもありはしない、漆黒に包まれた空間。


「なんで、私、確か…………」


 ついさっきまで私は自室にいた。

 お茶の用意を片付け、一冊の本を手に取り、椅子に腰かけた。


 だが、そこからどうやってここに来たのか、そもそもここがどこなのかまるで見当がつかない。

 誰かに鋏で切られたかのように、記憶が途切れていた。


「どうしよう…………あ、そうだこういうときは確か星を…………」


 愛読書であるイデアの冒険譚において、主人公イデアが山中で遭難した際、夜空に浮かぶ星を頼りに現在地を割り出したのを運よく思い出す。

 そこで、見晴らしのいい木の上に上ることに決めた。


 幸いなことに、木の登り方は幼い頃のリーゼに教わっている。

 ここら辺の木であれば容易であるはずだ。


 体を固定し、足を引っかけ、ゆっくりと木に登る。

 体力の衰えのせいか、昔より上がるのに時間がかかった。

 やっとの思いで登りきると、周囲を一瞥しほっと息を吐いた。


「よかった…………お屋敷が見える…………それほど離れてない…………」


 少し距離があるものの、お屋敷の灯りが光っているのが見える。

 となれば、ここは周囲に広がる森林の中であり、歩いて帰ることができる距離だ。


 再度ゆっくりと木から降りると、記憶した方向を頼りに歩き始める。

 星を頼りにしようと思ったが、これなら必要なさそうだった。


 と、その時だった。


「──────っ!?」


 突如、悪寒が全身を貫いた。


 そう思った時には、既に頭を抱えしゃがみこんだ。

 直後、巨大な何かが頭上を通り抜け、周囲の木々が音を立てて倒れていく。


「なっ…………」


 振り返ると、そこにいたのは一体の生物だった。

 暗がりの中にいるそれは自分より三倍は大きく、四肢は筋肉で隆起している。


 姿は雌の獅子と酷使しているが、牙が口に収まっておらず、なにより目が二対も存在している。

 その眼は暗闇の中でも煌々と輝き、今まさに自分のことを見ているのが分かった。


「なんで、こんなところに…………」

 

 それは本来であれば、森の奥深くに生息している存在だ。

 普段は決して人を襲わず、己のテリトリーに足を踏み入れた相手のみを襲うとされている。

 本の中でしか読んだことのない存在が、よもやこんな館近くの森の、すぐ目の前に現れるはずがない。


 そんな疑問も、対話の余地もなく。


 それはいきなり大振りな右前足での薙ぎ払いを放つ。

 狙いはもちろん、シェルアだった。


「きゃ…………」


 後ずさった拍子に木の根っこに足をひっかけ、運よくギリギリでそれを躱した。

 頭上を通り抜けた右前足は近くの木に当たり、メキメキと音を立てて倒れていく。


「あんなのが直撃したら、ひとたまりも…………」


 物語の中でしか知らないそれを間近にして、シェルアの全身が完全に動きを止めてしまっていた。


 無理もない話だ。

 これまで、殆ど外に出たことのない少女に、迫る危険を対処しろというのは酷な話だった。


 だからこそ、この直後に起こる出来事を、彼女は全く予知できていなかった。


「おぉぉぉぉぉぉぉりゃぁぁぁぁあああああ!」


 叫び声と同時に、背後から何かが飛んでくる。

 それは真っすぐそれの顔面に直撃し。


 パァン!!


 けたましい音と光を発生させた。


「よっしゃ顔面どストライク!シェルア!無事か?」

「サトーさん!?」


 そこにいたのはあの青年だった。

 青年はシェルアの手を取ると、怪物とは逆の方向に走り出した。


 暗闇の中、足元はあまり見えないはずなのに、青年は器用に走り抜ける。

 何度かよろけながらも、転ぶことはなく。

 掴んだ手は、一度も離すことはなかった。


「てか何あの怪物!?めちゃくちゃ怖いんだけど!なんかすげーでかい気がしたし、それに牙とかてっかてかに光ってね!?」

「あの!どうしてここに?」


 枝葉を手に持つ小刀で切りながら、サトーは言う。

 その小刀にも見覚えはなかった。

 少なくとも、前に会った時にはなかったはずだ。


「リーゼさんが異変に気付いてすぐに駆け出したの!とりあえず適当に探そうとしたら、木が倒れる音がするから慌てて駆けつけた!とりあえず無事でよかった!」


 握られた掌はよほど急いでいたのか、汗でびっしょりだった。

 よく見てみると、身に着けている服もまたあちこちがこすれている。

 それだけで、きっとあちこちを駆け回ったのだと理解できた。


 会って数日の私のことを、彼はこんなにも真剣に探してくれた。

 その事実が、どうしようもなく嬉しく思えてしまった。

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墜星のイデア ~生まれついて才能がないと知っている少女は、例え禁忌を冒しても理想を諦められない~
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