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異世界に転生したら最強になって無双できるんじゃないんですか!?  作者: イサキ
第6章 回廊

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5

 ソレに気づいたのは、昼の休憩を挟み、しばらくしたころだった。


「キャッ」


 可愛らしい悲鳴と共に、エティが思いっきりすっころんだ。


「おいおい、大丈夫かよォ…………」

「随分派手に転んだねぇ」


 シャグラが手を貸すと、その手を思いっきり掴み勢いよく立ち上がった。

 わあ元気、などとサトーが呑気に思っていると。


「ちょっとヴァン!足掴まないでくれる!」

「はァ?」


 今まさに羊と格闘していたヴァンが呆れた様子で声を上げた。

 抑えていた羊は拘束を抜け出し遠くに行ってしまう。

 そのまま毛刈りの済んでいない群れに突っ込んでいき、瞬く間にどこに行ったのか分からなくなってしまった。


「なんもしてねェよ」

「ウソ!絶対今足掴まれた!」

「いや、マジで掴んでねェって」


 エティは凄い剣幕でヴァンを責め立てるが、ヴァンは完全に困り顔だった。

 いつものようなおらついた感じはどこにもなく、本気で戸惑っている様子だった。


「まぁまぁ、とりあえず着替えよっか」


 シャグラが割って入り、その場はどうにか収めることができた。

 エティは半分涙目で奥へと引っ込んでいく。見事に転んだので、全身が泥だらけだった。

 汚れてもいい服装とはいえ、あれだけ派手に泥を被るのは嫌だろう。

 自分も気を付けようと思いつつ、未だ納得の言ってないヴァンに声をかける。


「大丈夫か?」

「あ、うっす。ただ、掴んだつもりなかったんで…………」

「まぁ、だって俺と一緒に作業してたしなぁ…………」


 ペアの変更はなく、ヴァンとサトーは極めて近い位置で一緒にいた。

 だから彼が何かしたのなら、真っ先にサトーが気づける。


 だけどそんな素振りも予兆もなかった。

 少なくとも、嫌がらせで人にちょっかいをかける人間ではない。


「なんだったんすかね」

「分からんけど、とりあえず進めようぜ」


 エティの離脱はかなり大きい。

 一番慣れているのが彼女に加えて、午後から参戦してきたシャグラも劣らず手慣れていたのだ。


 そんなペアが離脱するのは、はっきり言って状況は厳しい。

 ヴァンはやはり納得できてない様子だったが、顔を振って気持ちを切り替え、作業を再開した。


 シェルアとリーゼはよどみなく作業を進めているらしい。

 堅実な毛刈りだが、午前中よりもペースが上がっているように見える。

 負けてられないな、とサトーは考えながら作業に集中する、


 次の瞬間だった。


「わっ!?」


 なんとも可愛らしい悲鳴が聞こえてきた、と思った直後。

 今度はシェルアがすっころんだ。


「おいおい!今度はシェルアかよ!」

「あいたたた…………」

「大丈夫ですか、お嬢様!?」

「ええっと、怪我はないけど…………」


 見れば全身が泥だらけになっていた。

 その姿も可愛いな、とぼんやりと思いつつ、慌ててヴァンの方を見る。

 その隙に、また羊が逃げ出してしまう。


「いや!オレじゃねェっすから!」

「本当ですか?」

「いやマジで!ホントに!」


 ジリジリと真顔で距離を詰めるリーゼに、ヴァンが必死に弁明する。

 またしても同じ出来事に、流石のサトーも思わず疑問を抱いてしまった。


 確かに地面の状態は良くないものの、いくらなんでもこの短い期間で転びすぎな気がする。

 それに、シェルアの転んだ時の体勢は中腰で、足元を取られるような姿勢ではなかった。


「ひとます、お嬢様も着替えにいきましょう」

「う、うん。それじゃ、ごめんね」

「いや、こっちこそスンマセン。多分オレのせいです」

「気にしないで。私の不注意だと思うから」


 シェルアはリーゼに連れられ、いそいそとその場からいなくなる。

 こうして六人から二人になってしまった牧場は、なんだか妙に寂しく見えた。


「師匠、一ついいっすか?」

「ん?どうかしたか?」


 これ終わらないかもな、などと思っていると、ふとヴァンが口を開いた。


「そこの羊、さっきから逃げてません?」


 そう指を指したのは、なんてことない、羊の群れだった。

 まだこんなにいるのか、と辟易しつつも、言葉の真意を聞こうと顔を向ける。


「おかしいんすよ。最初から、あの羊だけこっちを妙に避けるんです。しかも、エティとシェルアさんが転んだのって、あの羊を抑えている時なんです」

「え?見分けつくの?」

「あの羊だけ、纏ってる空気が違うんで。なんていうか、明らかに別物なんです」


 そう言われてみても、隣にいる羊と見分けがつかないくらい、どこにでもいる羊だった。

 すると、その羊らしき個体がトコトコと近づいてくると。


「ふむ。やはり其方(そなた)は気づかれるか」


 いきなり人の言葉を話し始めた。


「しゃ」

「喋ったぁ!?」


 あまりに唐突なことに、思わずヴァンとサトーが口を揃えて驚く。

 するとそれが不満なのか、前足で地面を蹴ると。


「なんだ。気づいてはいけないのか。確かに此方(こなた)を正しく認識できる人はそうおらずが、些か落ち込むぞ」


 声は老年の、やや渋みの弱い感じ、と言えばいいだろうか。

 プレサスを連想させるような声だが、それにしてはまだ声が幼いように思える。

 だが、シャグラくらいと言われたらあまりに老いている声だった。


 つまるところ、非常に曖昧などっちつかずな音域をしている。


「それにしても、『風龍(ふうりゅう)御子(みこ)』とはな。実に珍しい。久々に姿を見たな」

「風龍の」

「御子だァ?」


 その言葉に一番驚いたのはヴァンだった。

 声のトーンが完全に新興宗教に勧誘されたときの感じで、明らかに何言ってるんだコイツ、という意思がヒシヒシと伝わってくる。


「なんだ?知らぬのか。確かに継承時に記憶は損なうらしいが、その調子だと『回廊』にも行ったことがないのだな」

「回廊?なんだそれ?」

「確か、三大秘境の一つ、だったが」


 ヴァンの言葉に、目の前の羊は一つ頷くと。


「左様。回廊、世界樹(せかいじゅ)煉獄(れんごく)。これが三大秘境と呼ばれる、忌々しい鍛冶師が作った都の、更に昔から存在する場所であるな」

「忌々しい鍛冶師が作った都ってのは、ダンジョンのことで合ってる?」

「今はそう呼ばれているのか。時代とは残酷だな」

「ちょっと待て。そしたらテメェいくつなんだァ?」


 ヴァンが幽霊でも見るかのような目で羊を見つめる。

 羊はしばらく真顔で固まり、その場でクルクルと回りだし、やがて顔を上げこういった。


「覚えてない」

「覚えてないのかよ」

「無理を言うな。これでも数万年は生きているのだ。寿命なんて概念は此方ないのでな」


 なんてことないように言っているが、その事実をすんなりと飲み込めるほどの胆力はなかった。

 この短い対話で初めて聞いた単語が多すぎるし、なにより一番気になるのは。


「オレが風龍の御子ってのはどういうことだ?」


 ヴァンは真剣な表情でそう尋ねる。

 その真っすぐな眼差しに、思わずサトーですら圧倒されかけた。

 だが、目の前の羊はそよ風のように受け流すと、


「言った通りだ。此方のことを認識できた時点で、既に其方が風龍の御子なのは確定しておる。此方と其方の関係は、いわばそういうものだ」

「…………ちょっと色々聞きたいんだけどさ」


 サトーが話に割って入ると、羊に向けてこう尋ねた。


「アンタ、何者なの?」

「納得。知らぬのなら無理もない。であれば言うのが道理だな」


 そう言うと、羊は信じられないことを口にする。


「此方に名はないが、其方らは『四賽(しさい)』の一つ『()てるモノ』と呼ばれておる」

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