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「で、どうなの実際?」
干し草の上で休憩していたヴァンは、その真下から声をかけられた。
「何がだよ?」
「手、貸してくれる?アタシも座ってみたい」
真っすぐに手を伸ばすエティを見て、ヴァンはため息をついたまま風で上まで運んだ。
「ありがと。アンタの権能、ホントに便利よね」
「まァな」
ヴァンにとって、彼女はなんともやりにくい相手だった。
リーゼとは好き勝手言えるし、師匠やシェルアともそれなりに腹を割って話せていると思う。
シャグラはあんな性格だから、これでもまだいい方なんだと思っている。
問題は、エティとの接し方だった。
最初、気の強さからそれに負けないようにと張り合ってみたのだが、蓋を開ければただの強がりだった。
本当は弱くて、必死に自分を大きく見せようとする姿は、なんていうか、サトーらと出会う前の自分と似ている気がするのだ。
エティはちょこんと座りこむと、おもむろにこう尋ねた。
「で、どうなの実際?」
「…………何がだよ?」
何を言いたのかまるで分からず、苛立ちながらそう尋ねてしまう。
エティは気にする素振りを見せることなく、再度こう聞いてきた。
「だから、サトーとシェルアの事よ。シャグラに聞いてもはぐらかされるし、リーゼはなんだか聞きにくいし…………」
「んで、オレのとこに来たってか」
「そういうこと。で、ヴァンはどう思う?」
目を輝かせながら、何かを期待しているようにヴァンの方を見つめている。
これはいわゆる、恋の話とやらだろうか。
男なら一切関係のない話だろうと思っていたのだが、機会は思ってたよりもずっと容易くくるらしい。
だからといって、特に何も思うことはないが。
で、だ。
ここで適当に返事をすればエティが暴れる可能性がある。
オレが最後ということは、それなりに期待してるのか、他に当てがないのだろう。
じゃなければ、わざわざヴァンのところに来ないはずだ。
(クソ面倒だな…………)
そうは思うが、退散したところで余計に面倒なことになるのは確かだった。
なにより、変にはぐらかして話が拗れるのは望むところではない。
「…………そうだなァ」
ヴァンはそう呟くと、胡坐をかいたまま頬杖をついた。
「師匠はまァ、いい人だよなァ」
なんでかは知らないが、一人で牧場の中を黙々と歩いている。
羊に不審そうに近づかれている姿は、そんなに凄い人なのか不安に思われるだろう。
だけど、土壇場の強さと判断の早さはこの中でも群を抜いている。
戦闘能力が低いというのもあるかもしれないが、それを差し引いても咄嗟の判断は目を見張るものがあるし、尊敬している点の一つだ。
「んで、シェルアさんもお姫様だとは思えねェくれェいい人だよなァ」
なんか一人でジタバタしているが、あれでも一国のお姫様なのだから間違いなく普通ではない。
最初見た時、どこのお金持ちかと思ったが、流石にお姫様だとは思えなかった。
正直、親しみやす過ぎるからか、今でもあまり思えていない。
「で?どうなのよ?」
「んー…………」
仲はいいだろう。
ここに来る間も一緒に行動していたのだから、険悪な関係ではないはずだ。
だけど、だからと言ってあの二人が恋仲だとは、あまり思えなかった。
距離が近すぎるとか、仲が良すぎるとか、理由は色々ある。
でも、実際のところ、言えることは一つだった。
「なーんか、そんな感じがしないんだよなァ…………」
「はぁ?なにそれどういうこと?」
エティが不思議そうにそう言うが、はっきり言ってそうだとしか言えないのだ。
恋仲。
恋人。
夫婦。
自分がそういうのとは無縁だからなのかもしれないが、彼らの関係がそういう方向に進んでいくイメージがまるでしないのだ。
もしくは、自分の中にそういうイメージがないのか。
「……………………答える方が面倒だわ」
「あ!ちょっと!」
エティの制止を無視して、ヴァンはひらりとその場を後にする。
自力で降りることができず、半泣きのエティがいじけていることに気付くのは、それから少し後のことだった。




