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異世界に転生したら最強になって無双できるんじゃないんですか!?  作者: イサキ
第6章 回廊

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3

 そんなサトーの姿を、シェルアは一人静かに眺めていた。


「…………」


 何か考え事でもしているのか、口元に手を添えながら歩いている。

 視線は少し下を向いているけど、きっと何かを見ているわけではないのだろう。


(やっぱり、そうだよね…………)


 改めて見ても、ごく普通の青年だ。

 シェルアはサトーのことを、少なくともそう思っている。

 そんな彼が、ひどく困難なはずのことを成し遂げてきた。


「…………」


 リーゼの救出は、はっきり言えば上手く行き過ぎていた。

 易々と救出できたことも、その後逃げることもできたのも、全てが理想とする状況だった。

 いくら襲撃することを想像しないからといって、あそこまで上手くいったのは奇跡だ。


 だがそれを、彼は掴んで見せた。

 偶然でも幸運だとしても、彼はそれを掴めたのだ。


(…………分からない、ですね)


 シェルアにとって、彼は特別な相手だ。

 仲間である以上に、彼に特別な何かを感じている。

 勿論、全員が愛しいし、ずっと一緒にいたいと思ってる。


 でも、彼へのこれは、何かが違うのだ。


 それが何か、今まで分からなかった。

 分かろうとしなかったのか、もしくは分かりたくなかったのか。

 どっちだとしても、私はそれをそのままにしていた。

 それでいいのだと思っていた。


(でも、きっとこれは、それではダメなんでしょうね…………)


 目尻を細めた先には、柵に腰かけるサトーが見える。

 太陽の光を一心に浴びる彼は、どこか遠くにいるように映った。


「お嬢様、どうかなさいましたか?」


 リーゼに声をかけられたシェルアの意識もまた、少し別の位置にあるように遠かった。


「…………え、あぁ、うん。ちょっとね、サトーが歩いてるなぁって」


 少し遅れてなんてことないように答えるシェルアだが、それでも普通ではないのは確かだった。

 リーゼは、シェルアが僅かに右手を動かしていることに気付くと、そっと耳元で囁く。


「彼の手は、逞しいものでしたか?」

「──────ッ!?!?!?何を言ってるの、リーゼ!」


 顔を真っ赤にしながら、シェルアが抗議の声を上げる。

 そんな姿も可愛いらしいと、リーゼは内心思いつつ、


「別に構わないのでは?事実、彼の手は逞しいものですので」

「えっ!?そ、そうかな…………?サトーの手って、やっぱり逞しいよね?」

「えぇ。これまでの経緯が良く分かる手かと」


 リーゼがそう言うと、シェルアは「そうかぁ…………」と呟きながら、しきりに右手を開いては閉じる。

 そんな姿を見ていると、リーゼですら悪戯心が顔を出してしまった。


「一つ、言うことがあるとすれば」


 シェルアがきょとんと顔を上げる。


「私は一度も、誰の手かを告げておりませんので」


 少し間を置いて、シェルアの顔が沸騰するかのように真っ赤になる。

 では、と短く言い残して、リーゼはその場を後にした。

 その後ろで、ジタバタと暴れているシェルアを置いたまま。


(物は試しと思いましたが、まさかこうなるとは思いませんでした…………)


 言うまでもないが、リーゼは全てを知っている。

 サトーの考えも、シェルアの理解できていない胸の内も。

 全て分かったうえで、敢えてリーゼは誘導していた。


(恩返し、というほどのことではないですが、想像以上に効果がありそうですね)


 ガダル国での一件を、他の仲間は当然のことのように受け入れてくれた。

 本当なら仲間になる前にきちんと話して、そのうえで同意してもらうべきことだ。

 それをしなかったのは、ひとえにお嬢様の立場が危うくなるからではなく。


(保身、ですか。まさか仲間に拒絶される瞬間を見たくなかったなんで、自分のことながら笑える話です…………)


 結局、私は私のことしか考えられないのだ。

 お嬢様に仕えるのも、ただ私がそうしたいから。

 私は、誰かの為に行動できる人間ではない。


「ならばこそ、報われてほしいと思うのは、少しだけ傲慢ですかね…………」


 二人の道が交わり続ける保証はどこにもない。

 だが、それでも、少しでも幸せであってほしい。

 それが私の我が儘だとしても、そう願わざるを得ないのだった。

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