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幼い頃の記憶は、あまりない。
父の顔も母の顔も、思い出そうとするとどこかぼんやりとした印象でしかなくなる。
ただ、毎晩髪を梳いてくれたこと。
その度に「綺麗だね」と言われたことはよく覚えている。
その記憶だけが、両親とのたった一つの繋がりで。
今でも夢に見るたびに、枕が少しだけ濡れていた。
「仕方ない」
リーゼとは、初めての友達で、昔はとてもやんちゃだった。
二人で王宮を探検して、怒られて。
その時に他に姉妹がいると聞かされた。
会ったことはそれほどない。
恐らく、向こうもかなり小さいころだ。
私は覚えていても、向こうが覚えているとは思えない。
そして気が付けば、リーゼは私に対して敬語を使うようになっていた。
立場上仕方ないとはいえ、一番の友達であったリーゼにそういった態度を取られるのは少しだけ寂しかった。
「仕方ない」
私は私にそう言い聞かせるように、心の中でそう唱えた。
そして、私はリーゼと二人で、この森の館に来ることになったのだった。
不要な存在なのだと、幼いながらそう思った。
自分の故郷がなくなったのは、なんとなく察していた。
それくらいのことがなければ、母が私を迎えに来なくなることなんてないはずだから。
父が私を迎えに来ないはずがないから。
「仕方ない」
だから、そう思うことにした。
誰かが悪いわけでもない。
ただ、条件が悪かったのだと。
時期が悪かったのだと。
運が悪かったのだと。
「仕方、ないよね」
同じように、何度も何度もそう思った。
そうして月日が流れた。
背丈は大きくなっても、置かれた状況は変わらなかった。
「仕方ない」
「仕方ない」
だってしょうがないのだ。
家族が何か悪いことをしたわけでもない。
私の知らないところで何かが起きて、私には何も教えてくれなくて。
唯一の親友とは会話が減って。
誰とも会うことなく、ただ一人部屋で本を読むだけで一日が終わる。
「仕方ない」
私のせいなのだ。
私が関わったから、みんなが可哀想な目に遭う。
私と関わったから、みんなの人生が滅茶苦茶になる。
だから、これは正しいことなのだ。
誰も不幸にしない、みんなを幸せにすること。
だから。
「仕方ない」
「仕方ない」
「仕方ない」
繰り返し。
繰り返し。
繰り返し。
唇が切れるほどに、その言葉を繰り返すのだった。




