ex.6
第5章は完結です。
第6章は4/24(日)21時に更新します。
ここまでお読みいただき、ありがとうございました。
感想、レビュー、ブクマ、評価など、お待ちしております。
和那の国、東の海域。
ダンジョン名『星眠る都』
第11区域。
二人の人物は整然と並ぶ遺跡の屋上を飛ぶように走りながら、とある人物の捜索をしていた。
「ったく、なにが『用があるのなら自力で探すがよい』だよ!全然いねぇじゃねぇか!」
そのうちの一人であるザハが悪態をつくのも当然であった。
既にここに到着してから一週間も経過している。
地上に残してきた雇ったエルフのあんちゃんも心配だが、それ以上に地上での進展が気になって仕方なかった。
「しかし、あの子がそこまで移動できるとは思えないが」
隣を走るメツバがそう告げる。
その表情は涼し気なままだが、どことなく呆れているようにも映った。
彼女とて今の状況に多少なり苛立っているらしい。
下手なこと言わない方がいいなとザハはそう考えると、敢えて明るく努めて返事をした。
「それなんだよなぁ。アイツそういう感じじゃねぇし」
二人の探す人物は、二人と同じ八傑の一人だった。
だが、加入した背景や経歴は些か異彩というべき代物だった。
口にするのも憚るような、そういった類の過去を持っている。
「てか、さっきからしつこいんだよなぁ!」
ザハはそう叫ぶと、足元近くに這って出てきたそれを一刀で切り捨てた。
ヤモリのような見た目のそれは、体長が五メートルを超す巨体だった。
そしてそれは隙間に数えきれないくらい存在している。
両の目で真っすぐこちらを見ているその様は、あまりに気持ち悪いとしか言えない。
「やめとけ。ここの特性を知らないわけではないのだろう?」
メツバは大量のヤモリらしき生物に構うことなく走り続ける。
着地点に出てきても、それを殺すのではなく踏みつけて移動を繰り返していた。
一週間。
二人はこの生物にひたすらに追いかけられていた。
その体力に驚愕すべきか、それとも一週間同じ獲物を狙い続ける彼らを褒めるかは人によるだろう。
どちらにしても、平和とは程遠い状況であるのは間違いなかった。
「だとしても、そろそろきっついだろ」
流石のザハにも疲れが見えていた。
いくら『虹の剣』で自身を強化しているとはいえ、一週間不眠不休での高速移動はそれなりに消耗する。
それもこれも、探す人物が見つからないのが原因だった。
「…………相変わらず、と評価すべきか悩むところだな」
「…………なにがっておいおいマジか」
その直後、奇妙な事象が発生した。
二人をひたすらに追いかけていたヤモリらしき生物が、突如その動きを止めた。
その直後、雲の子を散らすように姿を消してしまう。
まるで何かに怯え逃げるかのように。
「だ、だれ…………?」
か細く、愛らしい声だった。
あまりの小ささに一瞬空耳かとメツバが思うほどであった。
一方のザハは、じりじりと距離を縮めながら、現れた人物に声をかける。
「よ、よう。久しぶりだな、トウツ。元気にしてたか?」
いかにも警戒してます、と言わんばかりの距離の詰め方に、トウツと呼ばれた人物は物陰に隠れてしまう。
それでも、その陰からこちらをちらちら見ているということは、多分誰かは分かっているらしい。
「おい、流石にどうかと思うぞ」
「いやだって、あんま親しげに行くのってよくないじゃん?」
「なんだその配慮は?いつもの感じはどうした?」
「オレあれくらいの子供苦手なんだよ!正しい接し方なんて知らねぇし!」
「あとでスーに伝えておこう」
「ごめんなさい」
ザハの怒鳴り声で、トウツの体がびくりと揺れる。
トウツ、と呼ばれるこの人物はおおよそ十歳前後の少女だった。
羊の毛皮のようなモコモコした可愛らしい服装と、それとはあまりに不釣り合いな全身に巻かれた包帯が特徴的だった。
片目を隠すように巻かれた包帯から見える白い髪から赤い瞳が見え隠れしている。
彼女はギルド『曙光の鼬』に所属する冒険者、ということになっているが、そのほとんどをここ『星眠る都』で生活をしている。
その理由はスラウスとは全く異なるものだが。
「しかし、これは大丈夫なのか?」
そう言ってメツバは周囲に視線を向ける。
ヤモリらしき生物は、トウツの周囲に近づいているようだが、見るからに怯えている。
全身を激しく振るわせながらも、それでも何かに引き寄せられるようにトウツに近づいている。
「…………う、うん。もう少ししたら、平気だと、思う」
震える声でそう言った直後、何かから解き放たれたかのようにその生物は姿を消してしまった。
そんな様子を見ていたザハは内心失敗だったかも、と後悔していた。
彼女の権能は『変換』と呼ばれる代物だった。
効果は自身の受けた傷や感情を、そのまま相手に返すことができるもの。
ある程度の精神力があれば防ぐことができるため、ザハやメツバくらいになれば何も問題はない。
なにより、基本的に彼女は穏やかな性格だ。
やや臆病だと言わざるを得ない場面もあるが、それでも害はない。
彼女が身に着けている指輪がなければ、だが。
『災禍の腕輪』
自身の放つ攻撃を自動的に増幅、増長させてしまうS級遺物。
本来であれば制御できるはずなのだが、不幸にも彼女にはそれができない理由がある。
そのため、人の生活環境にいるのがあまりに危険なのだ。
ほんの僅かな感情ですら、彼女がいるだけで過剰とも言える反応になってしまう。
先ほどから起きている事象はトウツの怯えが伝播していた事象だ。
増幅された感情は、ほぼ全てのヤモリらしき生物に反映され、ほんのわずかに感じていた人と会えた喜びを増幅させ反映させていた。
「随分と苦労しているようだな」
メツバがそう語り掛けると、トウツは申し訳なさそうに口をつむんだ。
「あー、いや、オレらは平気だから、こっち来たらどうだ?」
トウツは既に三十メートルは離れている。
会話自体はできなくもないが、なんというか、絵面はあまりよくないのは確かだ。
あと精神的にもよくない。
「そ、そういってくださるなら…………」
トコトコと小走りでこちらに近づく姿を、メツバとザハは心配そうに見つめていた。
もしここで転んで泣き出したら、恐らく収拾がつかなくなるのは二人とも理解できていた。
「えっと、うん、このくらいで、どうかな…………?」
恐る恐るといった様子でトウツが尋ねてくる。
ほど良い距離感だとは思うが、メツバの視線が割と痛い。
分かる、分かるが正しい接し方が分からないのだからどうしようもないだろうよ。
「そ、それで、今回はどうしたんですか…………?定例会は、まだですよね…………?」
八傑は定期的に集まっている。
あくまで次期ギルド長になるための集会なのだが、参加者はいつも同じで、半数も集まらないことが殆どだ。
ここにいるザハも気が進まないが、とある事情で参加するこおtが多い。
「あー、いや、実はちょっと色々あってな…………」
歯切れの悪いザハに代わり、メツバが口を開いた。
「重要な話だ。心して聞け」
「ひっ…………!?」
そう悲鳴をあげた直後、周囲がとたんに騒がしくなる。
ザハがおもむろに口を開いた。
簡潔に言うなら、キレた。
「テメェはもうちょい優しく話しかけられないのかよ!!」
「不可能だ」
「偉そうに言うんじゃねぇ!!」
「ご、ごめんなさーい!」
その後、三人がとんでもなく面倒なことに巻き込まれるのだが。
そのことを知る者も、知ろうとする者も。
話を聞く者すら一人としていなかった。




