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突如として起こりえた大騒動により街は騒然となった。
誰もが言葉を並べ、その原因と理由を噂し口にする。
そんな彼らの意識は崩壊した建物に向けられており、
密かに街を出た一台の荷車の存在に、誰も気づくことはないのだった。
「危機一髪、ってところかなぁ」
ローブで顔を隠していたシャグラがそう言うと、荷車の幕から顔を出す複数人の顔があった。
「しっかし、まさかエティが助けにくるとはな…………」
「な、なに!?助けちゃダメなわけ!?」
サトーの呟きに、エティが顔を真っ赤にして反論した。
「ううん。ありがとね、エティ」
「────ッッ!!べ、別にいいわよそれくらい!」
シェルアの言葉に、顔をそむけるエティ。
(…………コイツ、もしかしてちょろいかもな)
サトーは内心そんなことを思いつつ、遠ざかっていく街をぼんやりと眺めていた。
「にしても、流石にやりすぎだったかもなぁ…………」
「なにか文句が聞こえた気がしましたが?」
「なんでもないでーす」
その言葉にヴァンは小さく吹き出し、気づけば一同は笑みを浮かべていた。
彼らは宿で荷物を回収すると、そのまま街を脱出していた。
街は大混乱に陥っており、急ぎ外を出る彼らを疑問に思う人は誰もいなかった。
「すいませんでした」
遠ざかる街を眺めていると、リーゼが静かにそう切り出した。
「今回の一件は、全て私の責任です。私が、あなたたちを信頼できていなかった。その結末がこれです。本当に申し訳ございません」
「…………ま、いいんじゃない?」
リーゼの謝罪に、サトーはさらりとそう答えた。
「リーゼは無事だし、これで境遇は同じになったわけだしね」
「間違いないッすね」
「ですね」
シェルアとヴァンが同意する。
これでめでたく、全員がガダル王国から追われることになるだろう。
顔や恰好は、ギルドを通せばすぐにばれる。
特定され、手配書が出されるのは時間の問題だった。
「あの、さ…………」
おずおずと手を挙げたのはエティだった。
一行は不思議そうにエティの顔を見る。
「成り行きでここにいるけどさ、アタシここにいてもいいわけ…………?」
エティは袖をギュッと握りしめながら、視線を下に向け話し続ける。
「だって、皆に嘘ついてたし、それに、リーゼさんのことも助けに行かなかったし…………」
「最後に来てたじゃねェか?」
「違う!あれはその、なんていうか…………」
エティはもごもごと何かを言っていたが、サトーはさらりをこう提案した。
「実は魔術師が足りてなくて困ってるんだよね」
「……………………は?」
リーゼが不審そうにサトーを見つめるが、シェルアがそっとリーゼの肩を叩いた。
「だから、しばらく手を貸してくれない?まだ依頼も完了してないしさ」
「そういや依頼受けてたなァ」
「あれって、期間とかあるの?」
「ないかと。制限時間があるのなら、もっと下に配置されてます」
そんなやりとりをしている横で、サトーはエティを真っすぐ見つめた。
エティは、一瞬目を見開くと、躊躇いながらも帽子を外した。
「えっ!?」
「猫耳だ…………」
「実はその、アタシ…………」
エティは今にも泣き出しそうになりながら、か細い声でそう呟いた。
サトーからすれば、見かけたことがあるのでそこまで驚きはしなかったが、それでもその姿は少しだけ驚きだった。
いると知っているのと、身近にいるのは大きく違う。
やたら大きな帽子は耳を隠すためにものなのだと今更ながら気づいた。
多分、相当に勇気を振り絞った行為なのだろうが、一行の反応は淡白なものだった。
「まァ、知ってたからなんとも思わねェけど」
「だねぇ」
「え!?お前ら気づいてたの!?」
さも当然のように言うシャグラとヴァンに、サトーとエティが驚きの表情を浮かべる。
「なんで…………!?」
「…………実は私も気づいてました」
「同室でしたし、寝ている時帽子を外してましたからね。睡眠用の帽子を被ってましたが、朝には外れてましたので」
そりゃ気づくわ、とサトーは内心突っ込みつつ、エティはどこか居づらそうに耳を伏せた。
なんとなく察するが、エティはこのことでも嫌われていたらしい。
確かにあの街に人じゃない姿の人は少なかった。
それなら仕方ないと思わないでもないが、
「…………そもそもさ、リーゼは巨人族の末裔で、ヴァンはエルフの里の出身だし」
「まぁ、なんていうか、その」
「ぶっちゃけどうでもいいッすよねェ」
なんならもっと大変なことを言い出すのかと不安になったが、蓋を開ければ大したことなくてホッとしている自分がいた。
リーゼを助けるために滅茶苦茶した後なので、できればゆっくりしたのが正直なところだった。
エティは何かを言いたそうにしていたが、他の連中の顔を眺めると、小さく耳を動かしてから、帽子を横に置いた。
隠さなくてもいいのだと、彼女はそう判断したらしい。
その姿をシャグラは幕越しに眺めていた。
「んで、次はどうします?」
ヴァンがそう言うと、シェルアが口を開いた。
「一つ、提案があるのですが」
「ん?どうした?どこか行きたいとことかあるのか?」
シェルアは一度深呼吸をすると、真っすぐに前を見据えた。
「私、一度お姉さま達と話がしたいのです。これ以上、うやむやにするわけにはいけないと思うんです」
「それってつまり…………」
全員が緊張の面立ちをしている中、エティは不思議そうに首をかしげている。
「エルフィン王国の首都。私はそこに行きたいです」
そうしてシジマの引く荷車は真っすぐに東に向かう。
たくさんの荷物を載せたまま、それでも力強く、真っすぐに。




