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異世界に転生したら最強になって無双できるんじゃないんですか!?  作者: イサキ
第5章 白日の虎

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 地上での戦況は、三人がやや不利になりつつあった。


「ったく!次々とキリがねェなァ!」

「ごめんなさい、ヴァンさん」

「気にしすぎッス!それよりも、怪我だけは気を付けてください!」


 三人がいるのは正面入り口のホールの真ん中だった。


 あちこちに破損個所があるものの、倒壊にはまるで及ばないだろう。

 ただ、修繕するとなると一体どれほどのお金がかかるのか、考えるだけで眩暈がするのだけは確かだった。


 戦況の遷移の要因は、シェルアの魔器のストックが切れたことだった。

 シェルアは魔術師だが、魔術陣を自在に操るタイプではなく、事前に用意したものを活用するタイプだった。

 準備が整っていれば強いものの、それが尽きると途端に何もできなくなる。


 無論シェルアもきちんと準備を整えてはいた。

 ただ、耐久戦となると話は別だ。


 ストックに上限がある以上、いずれ不利になるのは明確であり。

 その前に彼が必ず助け出すという、絶対の信頼から生じた危機だった。


「これは、ちょっとまずいかもねぇ」


 シャグラはそう呟きながら、肩で息をしていた。

 長距離を走るマラソン選手ですら、走る距離は事前に決まっている。


 今三人がしているのは、例えるなら終わりのないシャトルランのようなものだった。

 徐々に、首を絞めるように疲労のみが積みあがってくる。


 なにより、警備兵の服装は全て一律のものだった。

 倒しても倒してもキリがないことに加え、視覚的な心労が彼らを追い詰めていた。

 三人は警備兵に囲まれ、ジリジリと距離を詰められていた。


「なにか策とかない?」

「ねェに決まってるだろ!」

「こうなったら私が…………」

「それオレらもやばいヤツじゃないっすか!?」

「死ぬだけで済めばいいけどねぇ」

「ちょ、マジで言ってます!?」


 そうして迫る死を意味する壁が、もうすぐまで来た瞬間。


「お待たせっ!…………って」


 バン!と音を立てて、ホール正面、吹き抜けになっている階段の上に、二人組の男女がいた。


 男は鳥の巣のような髪に巨大な盾を背負い、女の右手には奴隷の紋章があった。

 二人とも服はボロボロで、心身共に疲弊しているのが誰の目にも明らかだった。


「出る場所、間違えてませんか?」

「やー…………迷っちゃった☆」


 てへぺろとお道化る彼に対し、彼女は容赦なくわき腹に拳を突き刺す。

 強烈な一撃に悶絶する彼を見下ろすと、そのままホールの真ん中に視線を向けた。


「やっと来たか…………!」

「ったく、ずいぶんと時間がかかったねぇ」

「リーゼ!」


 そう呼ばれた少女、リーゼは勢いよく二階から飛び出りた。


「はぁぁぁぁぁぁぁああああああ!」


 そしてそのまま真っすぐ飛び降りると、拳を地面に向けて放った。


「ッの、バカたれ!」


 ヴァンが即座に風のベールで二人を包んだ直後に、周囲を囲んでいた警備兵が紙吹雪のように周囲に吹き飛んだ。

 地面のヒビがそのまま建物へと広がっていき、ガラガラと音を立てて崩れ始める。


「オイ、リーゼ!やるなら最初に言えっての!遅れたらやばかったろ今の!」

「……………………」


 ヴァンの抗議に、リーゼはフンと鼻を鳴らすと。


「…………お待たせしました、おじょ──────」


 パン!と。


 シェルアの平手打ちが、リーゼの頬に当たった音が響いた。


「なにもそこまでしなくても…………」


 驚いているヴァンの口を、さっとシャグラが塞いだ。

 呆然とするリーゼが見たのは。


「……………………どれだけ、心配したと思うのですか」


 涙を浮かべる、シェルアの顔だった。


「あなたがいなくなって、私が、私たちが、どれだけ心配したと思うんですか!」


 彼女は怒っていた。

 それは彼女に対してもであり、自分自身に対してもであった。


「もう、もう二度と、勝手にいなくならないでください。一人でどこかに行かないでください。私はもう、あなたがいないとダメなんです。あなた無しでは生きていけないのです」

「お嬢様…………」

「そんな私にしたのはあなたなんです。だから、どうか責任を取ってください。この先もずっと、私と一緒にいてください」


 そしてシェルアは、リーゼに抱き着き咽び泣いた。

 迷子になった子供が、親と再会できたような、安堵とよく似た泣き声だった。


「わ、わたしこそ…………」


 リーゼの声も、彼女のものでないように震えていた。


「わたしのほうこそ…………ごめんなさい…………たくさん迷惑かけて、ほんとうに…………」


 彼女の目には大粒の瞳が浮かんでいた。

 せき止められたいたように、瓦解している建物のように、どこまでも零れ落ちていった。


「いや、マジで感動的なシーンかもしれないけどさ!今めっちゃピンチなの分かってる!?」


 その光景に水を差すように、落ちてくる瓦礫を躱しながら近づいてきたのはサトーだった。

 あちこちで躓きそうになりながらも、どうにか仲間の元に合流することができた。


「これどうすんの!?確かそのまま逃げるって話だよね!?」

「師匠…………」

「君はもうちょい、空気を読むことをした方がいいかもねぇ」

「え、これ俺が悪いの!?どう考えても俺が正しくない!?だって生き埋めになっちゃうよ俺ら!」

「少し黙ってください」

「うぼぁっ!?」


 リーゼの容赦ない蹴りにより、サトーが悶絶したまま膝をついた。

 リーゼは指で雫を弾くと、周囲を眺めてこう言った。


「どうやら、迎えが来たようです」

「どういう…………?」


「あ!やっぱりここにいた!」


 少し離れた地面から不意に声がした。

 一斉にその方向を見ると、何かの蓋を持ち上げるエティの姿がいた。


「急にこんなことになってたから何事かと思ったけど、その様子だと救出はできたみたいね!」

「────なるほどなァ」

「え、どういうこと?つかなんでここに?」

「話は後!皆ついてきて!ヴァン!アンタなら分かるでしょ!」

「え?なに?なにがどうなって?」

「ま、それはとりあえず置いといて」

「話してる余裕はないみたい…………!」


 シェルアはサトーの手を取ると、続く形で一斉にエティのいる穴へと飛び込んだ。

 直後、ひと際大きな音を立てて、建物は崩壊していった。


 奴隷管理センターの崩壊。


 それが一組の冒険者によってもたらされたことを知るのは、もう少し後のことであり。

 この事件以降、物語が急速に動き始めることを、サトーらは知る由もなかった。

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