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異世界に転生したら最強になって無双できるんじゃないんですか!?  作者: イサキ
第5章 白日の虎

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 奴隷管理センターの長らしき男を倒したサトーは、その背後にあった扉の先へと進んだ。


(これじゃ何も見えないな…………)


 そこはさっきまで通ってきた場所よりも更に暗く、驚くほどに何もない空間だった。

 そのあまりの暗さに、少し先が見えないほどである。


(…………そうだ。確かシェルアに貰ったあれが)


 ふと思い出し、ポケットから取り出したのは屋敷で見してもらった魔器だった。

 発光魔術、と呼ばれる代物らしく、魔術の基礎の基礎で習う、文字通り魔術を使える者なら誰でも扱える代物らしい。


 使い方は簡単で、一定の衝撃を複数回加えることで起動するらしく、魔術の心得のないサトーでも容易に扱うことができる。


「…………ってて、ってやば!?」


 取り出した直後、ズキリと体が痛んだ。

 先ほどの雷撃は、間違いなく致命傷だった。


 だからこそ彼の『不死』の権能が発動することができ、こうして倒すことに成功したのだが、それでも体に残ったダメージは深刻だった。


 その結果、使おうとした魔器をうっかり手から滑り落としてしまったのだ。

 コロコロと奥へと転がるそれは、丁度反対側で音を立てて止まった。


「──────いた!」


 その姿を見た瞬間、サトーは思わず声を出してしまった。


 彼女は泣いているようだった。

 涙は流していないものの、それを寸前のところでこらえているようだった。


 身なりはボロボロで、それだけで自然と怒りが満ちる感覚がした。

 自分の無力さを、ただただ痛感するしかない。


「………………サトー?」


 彼女は、まるで幽霊でも見たかのような表情を浮かべ、こちらを見ていた。

 何もそこまで驚かなくてもいいのに、とサトーは内心思いつつ、精いっぱいの笑顔を浮かべてこう告げた。


「ちょっと待ってろ。すぐに助ける」


 リーゼにとって、彼の姿は想定外だった。

 どうしてここにいるのかとか、なにをしているとか、そんなことを今更思うことはなかった。


 彼がここにいる理由。

 間違いなく私を助けにきたのだ。


 無造作に伸びている髪から、容易にはここに来れなかったことが分かる。

 暗がりのなかでも、彼の体調が万全ではないことも理解できた。

 少なくとも、彼は気丈に振舞っていることが見て取れるくらいには、彼のことを理解できていた。


「つか、これどうやって…………」


 彼は音を立てて檻を揺らす。

 当たり前だがそんなことでは檻は開かない。

 彼は困った様子で髪を掻くと、何かを思い出したかと思えば、直後に不機嫌な表情に変わった。


「…………嫌だけど。そんなこと言ってる場合じゃないか」


 彼はそう呟くと、そそくさと目の前からいなくなった。

 一体何が、とリーゼが思っていると、何かを持って戻ってきた。


「あれだ。明るいとこから暗いとこくると、全然見えないやつだな…………」


 彼は檻の目の前にしゃがみ込むと、何やらガチャガチャと何かに触れ始めた。

 すると。


「きた」


 ガチャン!と音を立てて、何かが落ちる音がした。

 少しさび付いた音と共に檻の扉が開かれる。


「よっしゃ!ちょい待ってろよ!」 


 彼は姿勢を低くしながらリーゼに近づくと、右手首を固定している金具を操作し始めた。


 不意に焦げ臭い匂いが鼻につく。

 リーゼは即座に、何があったのか理解した。


「まさか、彼を倒したのですか…………」

「あ、うん、一応ね。向こうが油断してくれたからだけど」


 サトーは恥ずかしそうに微笑むと、再度真剣な表情に変わった。


 どうやら暗くて見えないらしい。

 既に三日拘束されているリーゼはともかく、サトーは途中で明るい所を通っていた。

 光を放つ魔器があるものの、鍵を開ける動作には両手が必要になる。

 そのせいで手元を照らすことができないのだ。


「どうして、こんなことを…………」

「それ聞く?言わなくても分かってるでしょ」


 分かっている。

 分かっているが。


「…………理解できません」


 分かりたくなかった。


「私は自分の意志で離れました。自分の意志でここに来て、自分の意志でここにいたのです。あなたに助けを求めた覚えも、助けてほしいと言った覚えもありません。それなのに、どうして…………」

「ごめん。さっきのは訂正。全然分かってないじゃん」


 サトーの声は、怒っていた。

 怒られる理由がないと、リーゼは思ったが。


「言ったとか求めたとか、そういうのじゃない。俺は、俺らはリーゼと一緒にいたいと思った。そしてそれは、リーゼも同じだと思った。だから助けに来た」

「ですがそれは…………!」

「それにもう一つ」


 サトーは一度言葉を区切ると、こう続けた。


「だってリーゼなら、もし本心でいなくなったのなら、あんなに分かりやすい証拠残さないでしょ?」

「証拠、ですか?」

「置き手紙はもちろんだけど、一番の要因はダンジョンに一緒に行ったこと。もしシャグラに言ってたことが本当なら、わざわざ失態を見せたりしないでしょ?そんなリスク、わざわざ見せる理由がある?」


 結局さ、とサトーは言うと。


「リーゼは離れたくなかったんだよ。俺たちと一緒にいるのが楽しい。だから、僅かな可能性に賭けてあの場に現れた。でも、失敗しちゃって、それでも諦めきれなかった。だから、置き手紙を書いた」


 リーゼにとって、それは単なる成り行きでしかなかったのかもしれない。


 いつかいなくなる自分の代わりだったのかもしれない。

 彼女を守るための都合のいい存在だったのかもしれない。


(実際、その通りっちゃその通りだし…………役に立った記憶はないけど)


 だけど、それ以上の意味を彼女は持ってしまった。

 抱いてしまった。


 彼女にとってそれは、失い難い物であってしまった。

 そしてそのことに気付いた時に、彼女はこう思ったのだ。


 別れたくないと。

 まだ、一緒にいたいと。


「つか、侮りすぎなんだっての。俺もそうだけど、シェルアもシャグラもヴァンも、あとエティもかな?皆リーゼが思ってるよりずっと、リーゼの事が好きなんだよ。一緒にいたいって思ってる」


 だから、言葉を交わさなくても考えは同じだった。

 まるで指し示したかのように、ある一点に集まったのだ。


 サトーはどうにか片方の鍵を開けると、一旦足元の魔器を拾うと、リーゼに握らせた。


「ちょい持ってて。できればここらへん照らしてくれると助かるんだけど」


 サトーは申し訳なさそうにそう言うと、再度鍵穴との格闘に挑み始めた。 

 そんな横顔を、リーゼはただ見ているしかなかった。


「だから、あんまり気にすんな。国だろうがギルドだろうが、どっからでもかかってこいってな。まぁ、俺って全然強くないから頼りにならないけどさ」


 灯りがあるからか、もう片方の鍵はすんなりと開錠できた。

 不意に、支えを失ったリーゼの体がフワリと前に倒れこむ。


 それをサトーが、優しく抱きかかえた。

 その姿は走り終えたマラソン選手を迎えるかのような、優しさに満ちた抱擁だった。


 いつの日かみた彼の体を思い出す。

 ひょろっくて、白くて、なんとも情けない体だと内心嘲笑していた。


 だが、支えられる体は、どこまでも逞しく、揺るがないほどに強い。

 そして、その体が僅かに不自然に震えていることも。


「…………お願いします」


 だからこそ、彼女から零れたそれは。


「私を、助けてください」


 初めて聞けた、リーゼ自身の言葉だった。


 サトーは、彼女を支えながら、足を固定している器具を解錠する。


「…………当たり前だっての」


 そして。

 どこかふてくされたように、そう答えるのだった。

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