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「──────ガハッ」
全身に走るような痛み。
思わず盾を持っていた手が震えだすほどの激痛に、サトーは息を吐き出すことしかできなかった。
「ある国に一人の魔術師がおりましてね。これはその者から譲り受けたものなのですが」
再度、インターホンを推すような気軽さでスイッチを押す。
直後、躱す余裕すらないまま、激痛が体を貫いた。
「どうです?光属性の魔器なのですが、特定の対象にのみ電撃を当てることができる代物なのですよ」
「──────」
サトーは盾をつっかえにして、どうにかこらえることに成功する。
だが、ダメージは甚大だった。
少なくとも僅か二回で、瀕死の状態にまで追い込まれていた。
視界はぼやけ、言葉すらも不規則に聞こえてくる。
「やはり、男ではよく鳴きませんか」
その言葉を看過できるほど、サトーは平和ボケしていなかった。
「どういう、意味だ…………?」
「おや、まだ意識がありましたか。それでは、耐えられるのならお聞かせしましょう」
男は再度スイッチを入れると、物語の語り部のように話し始めた。
「実に簡単な話です。彼女は巨人族と人のハーフ、頑丈さは折り紙つきです。そんな彼女に雷撃など、普通は効きません。ではどうするか?ここが重要だったわけですよ」
サトーは沈黙したままだった。
男はサトーを見ることなく、スイッチを押したまま話し続ける。
「簡単な話です。彼女につけた腕輪も例の魔術師から賜ったものでして、これがなんと種族特有の権能を封じ込める代物だったわけです。それを嵌めた彼女は、ただの人、ということになります。そしてその状態で三日、絶えずこの雷撃を当て続けた」
男はくるりとステップを踏むと、サトーに向けて高らかに宣言した。
「するとどうなると思いますか?彼女は苦悶の表情を浮かべるわけですよ!あぁ、なんて素晴らしい!あの、あの『羅刹』を追い詰めている!これがどれだけの偉業か、あなたは理解できますか?否、できないでしょう」
男は語る。
どこまでもどこまでも、語り続ける。
「そうそう、どうして彼女が我々の元に来たのか教えてあげましょう。えぇ、話のついでです。答えは簡単。ギルド『白日の虎』に討伐依頼を出す、と言ったのです。羅刹とその部下がギルドの本部がある街にいる。治安維持も業務の一つであるギルドとしては無視できませんからね。そうしたらなんと、自らここに来たわけですよ!間違っても、誘拐なんてしてませんのであしからず」
もはや語っているのか、歌っているのか分からないほどに、
男の顔は恍惚の表情に変化する。
「ですが、私も鬼ではありません。ですのでこう伝えたのです『もし、一度も巨人族の力を使わなければ、アナタたちを見逃す』と。その力を抑えられるのでしたら、まぁ危険ではないですからね。ですがまぁ、結果は御覧の通りでしたがね。ですので」
「──────もういい。その臭い口を閉ざせ、カス野郎」
ふと、そう言う者がいた。
男はピタリと動きを止めると、さび付いた機械のようにその方向を向いた。
そこにいたのは、奇抜な頭をした青年だった。
先ほどまでの地肌が見える髪型ではなく、さながら獅子のたてがみのような髪を貯えていた。
「……………………は?」
「ずっと不思議だった。どうしてアイツがこんなことをしたのか。事実を並べても、どうしてもアイツらしくなかったからな」
全身から煙が出ている。
服や皮膚ですら焦げている。
どう見ても、誰が見ても、死んでいる量の電撃を浴びせた。
彼女を弱らせるために、致死量にならないように威力を調整なんて一切していない。
文字通り、雷撃の量は致命的のはずだ。
「アイツはもう選ぶこともできないくらいに追い詰められていたんだな。そのことに気付かれないよう、必死に隠し続けた。それに気づけない俺も大馬鹿だけど」
その者は、グッと、確かに一歩を踏みしめた。
瞬間、男の体から冷や汗が噴き出る。
ありえない。
そんなことはありえない。
なのに。
「だから、アンタもきっと被害者なんだろうな。アイツに振り回された、ただの善良な奴隷商人なんだろうな」
そう言われ、男の口がようやく動き出した。
「ええそうです!私も迷惑してたんです!もとはと言えばリゼが」
「うるせぇ屑が。その口でアイツの名前を呼ぶんじゃねぇ」
その者は何を思ったのか、両足で踏ん張ると、大きく体をひねって背中を見せた。
チャンスだ、と男がスイッチを押そうとした瞬間。
その者と目が合った。
そして、視てしまった。
酷く冷酷で、怒りに満ちた瞳を。
「うらぁぁぁぁぁぁああああああああ!」
その者は大声で叫ぶと、グリンと捻った体を勢いよく動かした。
足。
腰。
腕。
手。
そして、その先にあったのは、
「……………………へ?」
巨大な盾だった。
グォォォォォオオオオオオンンン!!
車と車の衝突事故すら生ぬるいほどの、衝撃と轟音が部屋に響いた。
その者が行った行為は単純明快。
背丈ほどの大きさの盾をぶん投げ、男諸共扉に叩きつけたのだ。
重量の乗った一撃は、男の意識を刈り取るくらいは造作もない威力を誇っていた。
否、下手すれば殺しかねないほどの威力を誇っていた。
「…………死に晒せ、クソ野郎が」
めり込んだ盾を引っこ抜き、サトーは小さくそう呟く。
そして気を失っている男を蹴り飛ばし、扉の奥へと進むのだった。




