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異世界に転生したら最強になって無双できるんじゃないんですか!?  作者: イサキ
第5章 白日の虎

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33

 ──────記憶を辿る。


 ガダル王国の兵士による殺害。

 彼女の死は、王都においても大きな騒ぎになった。


 だが、それは彼女が死んだからではなく。


「聞いたか、シャグラ団長補佐が、単身でガダルに殴り込みに行ったらしいぞ」

「本当か?確か近いうちに停戦協定を結ぶんじゃなかったか?」

「どうすんだ?もし協定が破棄されたら商売あがったりだぞ…………」

「ほんとだよ。勘弁してくれっての」


 当時、騎士団長補佐になっていたシャグラが、単身でガダル王国へ報復行為を行ったこと。

 それは国一つを揺るがすのに十分すぎる話題であり、幼いながらリーゼの耳にも届くほどだった。


 リーゼにとって、彼女の死は受け入れられないものだった。

 彼女の強さを、ここに来てから嫌というほど教えられた。

 シャグラの強さも、同じくらいだと訓練で体感していた。

 彼らに戦いの稽古をつけてもらっていたリーゼにとって、彼らは強さの象徴だった。


 その片方を失う。

 それだけで十分なほどに衝撃的だというのに。


 彼女は一瞬にして、両親のような存在を同時に失ったのだ。


「…………その様子だと、貴殿も聞いているようだな」


 リーゼはその話を聞いた足で、プレサスのいる部屋を訪れていた。


 ゆくゆくは、シャグラが引き継ぐはずだった部屋。

 シャグラが戦線の収束させてから引き渡すことになっていた場所だ。


「スカーレットは死亡。シャグラは規約違反により除籍、追放になった。近いうちに、辞令が交付されるだろう」


 淡々と語るプレサスの目には、一寸たりとも光が宿っていなかった。

 そこにあるのは人ではなく、元騎士団長という何かだった。


「貴殿の立場は問題ない。近いうちに適任な者を用意しよう」

「…………シェルア様は、どうなるの?」


 この時、既にシャグラはシェルアの傍付きに選ばれていた。

 これもまた、戦線の収束を得てから、正式に引き継ぐはずだったものだ。


「新たな者が担当になることになるだろうが、今のところは不明でしかない。彼女の生い立ちを考えれば、適任者の選定は難儀するだろうな」

「…………そう。ここにはいられないのね」


 その言葉に、プレサスがピクリと眉を動かした。

 そして顔を上げると、深々と息を吐いた。


「随分と耳が効くのだな。まさかそのことまでも知っているとは」

「近衛兵は口が軽い。しかも情報通」

「で、あろうな。下手な諜報員よりも、情報を有しているのは間違いない」


 近衛兵、とは主に王宮に配属され、王族を護衛する兵士のことだ。

 エルフィン王国では兵隊を有することを禁じられている。


 なので、様々な生活の雑務をこなすメイドが、その近衛兵を担っていた。

 表向きには、武装した兵士がいないことにすることで、外交関係を円滑にするのが目的である。


 だが、実際は騎士並みの戦闘訓練を受けており、ここ王宮での戦闘では騎士すら圧倒できるほどの武闘派が揃っている。


 メイドであるなら、あらゆることに精通するべし。


 それがここエルフィン王国における、近衛兵の絶対則だった。


「それで、どうする?まさかついていくとは言わないだろうな?」

「ついていく」


 はっきりと、一切の躊躇いなく言い切ったリーゼに対し、

 プレサスは眉間の皺を濃くした。


「その意味を理解しているのか?少なくとも、貴殿の居場所はここにはあるはずだが?」

「もうすぐなくなる。私は『羅刹』だから」


 その言葉に、プレサスは静かに両手を組んだ。


 リーゼの待遇は、やや複雑と言っていい。

 スカーレットの独断で強引に近衛兵に押し込んだのだが、リーゼはそこで結果を出せてしまった。


 分かりやすく言えば、ぽっと出の子供に、長年勤めてきた大人が仕事を奪われているのだ。

 そんな状況を許していたのは、スカーレットの推薦だからに他ならない。


「改めて聞くが、本当によいのだな?貴殿と彼女は確かに友人だ。そのことはシャグラ達に聞いている。だが、尽くすほどの相手でも、そういった間柄でもないはずだ」


 その後ろ盾がなくなる今、リーゼの立場が悪くなるのは明確だった。 

 そして、そのことを明確に理解できている彼女は、そうなる前に手を打つことにした。


 シェルアと共に、王都から去ることを。

 メイドとして、彼女の傍にいることを。


「故に、今と同じ関係ではいられなくなる。貴殿が思うより、規則は多く、縛りは厳しい。決して、華やかな生活が待っているわけでもなく、穏やかな生活が待っているわけでもないのだぞ?」


 メイドとして彼女の世話をするということは、彼女が言われたくないことを言わないといけない場面があるということだ。

 嫌われることを覚悟して、彼女に接する必要だって出てくる。


 ただ一緒にいるだけで楽しい、そんな間柄ではなくなる。

 それは、友を失うことと同義だった。


「問題ない。嫌われるのは慣れてる」


 それでも、リーゼの意志は変わらなかった。

 彼女の死生観は割とさっぱりしている。


 スカーレットの死は悲しく、悔しい。

 それでも死んだものは還らない。


 なら、残されたものを守ることに注力したい。

 そう考えたからこそ、リーゼの考えは明確だった。


「私は、シェルアを、お嬢様を守る。それが、私の生き方」


 『羅刹』でもなく、ただの少女でもない。

 そこにいたのは、主のために尽くすメイドであった。

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