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リーゼの姿が消えて、三日が経った。
最初はどこかに用事があるのかと、そう勘繰って宿に待機していたのだが、夜になっても姿を見せることはなかった。
そこでようやく、彼女の身に何かが起きたのだと察した一行はダンジョンに行くことを中止。
エティの承諾のもとで、リーゼの捜索を開始した。
だが。
現時点では足取りすら追うことができず、無益に時間だけが経過していった。
「…………もう、朝か」
それに気が付いたのは、シェルアではなくエティだった。
胸にわだかまる思いを消化できないまま、浅い眠りから目を覚ました彼女は、とりあえず顔を洗おうと洗面所に向かう際に、空のベットに目が向いた。
(今日で四日目。見つけることは難しいかもしれないけど、せめて手がかりくらいは見つけないと…………)
リーゼが彼らにとってどういう存在なのかは、この短い時間でも十分に理解できた。
ダンジョンでの失態を挽回したいという思いもあるが、一番大きかったのはシェルアの存在だった。
少し戻ってシェルアのベットを見ると、幼子のように眠りについていた。
この三日間、シェルアは日中の捜索とは別に夜中に出歩いているらしく。
そして明け方になるとベットに眠っている生活を繰り返していた。
(酷い顔。この調子じゃ、いくら寝たって体力は回復しないでしょうね)
眉間に皺が寄り、顔には疲労の濃い色が残っている。
もう、ろくに眠れていないのだろう。
それだけで、どれだけ彼女のことを大切に想っているのかが良く分かる。
(ここまで自分のことを思ってくれる相手を放っておくなんて、一体何を考えてるんだか…………見つけたら容赦なく縛り付けてやるんだから)
そう意気込んだが、エティの知っている道は全て捜索しきっていた。
「…………んっと」
取り出したのは、使い込まれた古い地図だった。
それはエティが行きつけにしている喫茶店の店長から、金貸しの対価として受け取った代物の写しである。
(こことここは、もう行ったでしょ。んで、シェルアちゃんは多分、ここにいったはず。それでも見つかってないなら、あとは…………)
どういう経緯で入手したかは定かではないが、市販の地図とは図解があまりにも異なり、そして正確だった。
そこにインクで印を描いていくが、人が隠れられそうな場所は殆ど残っていない。
(地図に載ってない場所があるかもだけど、迂闊に踏み込むのはリスクが大きすぎる。ていうか、そんなところに迷い込んで、無事でいられるとは思えない)
この街での地図の意義は、迷わないことではなく危険を避けるためにある。
逆に言えば、記されていない箇所は、敢えてそうされている可能性が高い。
地図の精度は、その安全性に比例される。
その点だけで見れば、この地図は相当に優秀だ。
(誰が描いたか知らないけど、これ以上は探しようがないわね。最悪、街の外に出た可能性も疑わないとだけど…………)
もうこうなってくると、エティの手には余る状況だった。
あまり言いたくはなかったが、八方塞がりの所にきている。
(にしても、綺麗に整えるわよね。帰らないことの意思表示なんでしょうけど、見せられるアタシたちからすればたまったものじゃないわ)
この至近距離でも使った痕跡がまるでないベットに、思わずエティは嘆息する。
多少は整える必要があるとは思うが、だからといってここまですることもない。
明らかに度を超えているそれは、ここを出た時点で戻らない覚悟を決めていた証だろう。
恨めしく、それを眺めていたエティは。
「…………ん?」
ふと。
視界の端に何かが映り、疑問の息を漏らした。
枕の下、その端の方。
僅かに何かが見えている。
「……………………紙?」
それはギルドの依頼書とかで使う安いものではなく、真っ白な高級品だった。
一瞬重要なことが書かれているのかも、と躊躇うも意を決してそれを手にする。
「…………は?」
折られた紙を開き、中身を読む。
内容を読むのにそれほど時間を有しなかったが、理解するのにはかなりの時間を有した。
どうして彼女がこれを書いたのか。
なんでわざわざこんなことを記したのか。
それは分からないけど、それでも、これはアタシが読んでいいものではなかった。
(あの名前、やっぱりそういうことだったってこと!?じゃあやっぱり彼女の正体が…………って、じゃあそれを知ってここに?なんで?そんなことすれば、どうなるかくらいすぐに分かったはずじゃない!)
紙を手に持ったまま、部屋の中をうろうろしてしまう。
こんな大切な内容を、誰に伝えるべきか分からなかった。
しばらく動き続け、考えがまとまらないまま外に飛び出た。
(今はアタシの意見なんてどうでもいい。それよりも、これをまず誰かに見せないと!!)
会った人に話そう。
それだけを考え、外に飛び出る。
「うおっとすんません…………ってあれ?エティか、おはよう」
声を上げたのはサトーだった。
宿の出入り口付近にいた彼は、ちょうど帰ってきたばかりらしい。
見ると癖のある髪が汗で濡れており、背中には巨大な盾があった。
「…………めて」
「え?なにどうした?」
「今すぐ皆を集めて!手がかりを見つけたの!」
それは青天の霹靂か。
もしくは揺らがぬ必然か。
彼らがそれを知るのは、もう少し先のことだった。




