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異世界に転生したら最強になって無双できるんじゃないんですか!?  作者: イサキ
第5章 白日の虎

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27

 サトーら一行はギルドから少し離れた位置の宿を取り、そこでリーゼを寝かせたのを確認してから、その日は解散になった。


 皆一様に疲れがあったのだろう。

 残って何かをしようと提案する者は一人もいなかった。


「…………」


 初めて、自分の意志でダンジョンに行った。


 誰かに流されたわけでもなく。

 成り行きですることになったわけでもなく。

 

 行こうと自分が思って、その通りに実践した。


「…………くっそ」


 暗がり。

 明りの一つもない狭い空間に、小さく声が細く響いた。


 ベットと机のある、かなり簡素な部屋だった。

 机の上にはいくつかの荷物が置いてあり、出入り口の近くには大きな盾が置いてある。


 時刻は既に深夜だろうか。

 あたりではまだ笑い声が聞こえてくるものの、それでも昼間ほどの活気は残っていなかった。


 ただ。

 そのわずかな名残が温かい空気に溶けているような、そんな穏やかな夜だった。


「…………止まんねぇ」


 その少年、名をサトーという。

 やや奇抜な髪型の彼は一人、実質のベットで小さく蹲っていた。


 体を横にして、ぎゅっと目を閉じる。

 だが、それでもまるで眠気は訪れず、瞼の裏に今日のことが繰り返し浮かび上がっていた。


「…………冗談きついぜ、ったく」


 怖かった。


 それほど難しい理由はない。

 ただ単純に怖いと思った。


 迫りくる大群。

 無機質に命を奪おうと近づく集団は、それだけで怖かった。


(意味が違うと、こんなに変わるもんなんだな…………)


 これまでの戦いは誰かを守るために戦いだったと思う。

 だから、引けない理由があった。

 恐怖をかき消す要因があった。


 だからこそ、戦うことができた。


 でも。

 今回は違う。


 戦いの中で、一番足を引っ張ってたのは自分だった。

 誰よりも何もできず、誰よりも結果を残せなかった。


 できたことは魔獣の一体を足止めする程度。

 それも結局、シャグラの手助けがなければどうなっていたかまるで分からない。


(呆れるほどに遅すぎるよな…………)


 怖い。

 戦うのは、怖い。


 こんな単純で、ごく当たり前のことが、今になって理解できてしまった。

 そして、気が付けば魔獣から背を向け走り出していた。


 リーゼを置いていかなかったのは、ほんの僅かに残っていた罪悪感が働いただけ。

 それも次はどうなるか、まるで分からない。


「情けねぇ」


 全身の震えが止まらない。

 一瞬でも気を緩めれば、何もかも捨てて逃げ出したくなってしまうくらいに、彼の心は恐怖に支配されていた。


 みじめだった。

 エティの事を言われ、サトーは大層かっこいいことを言ったかもしれない。

 実際はそんなことなく、ただクサいだけの台詞だったかもしれない。


 だが、現実はどうだ。

 あれだけ息まいて、できることがあるかもと盾を取り、ちょっと弱い相手に善戦しただけ。


 その結果。

 自分の実力はまるで上がっておらず、足手まといであることにすら気づけないままに、足を引っ張った。


「…………ダサすぎるだろ、マジでよ」


 苛立ちベットのシーツを握りしめ、力なく手を離す。

 軋む音を聞きながら、体勢を変えて天井を見上げた。


 何もない、木でできた簡素な天井だ。

 個性も特徴も、何もない。


 まるで自分のようだと、小さく自嗤する。


「…………できること」


 どうしたらいい。

 何ができる。

 何なら、今の自分でもできる。


「…………そんなもの、ないよな」


 何もない。

 考えたところで、己の無力さを恨むことしかできない。


 無力だ。

 それだけが彼の中に渦を巻き、潮騒のように鳴りやまない。


「そういや、リーゼはどうしてんだろうな」


 不意に思い浮かんだのは、何かがおかしな彼女のことだった。

 現実逃避に近い思考だが、それでも見えない不安から目を逸らすことはできる。


「でもま、あいつなら平気か。腕力だって並以上にあるし、怖いものなんて何もないだろ」


 友人、と呼べるほど対等な関係かは分からないけれど。

 サトーの中で、リーゼの存在は物凄く大きい。


 この世界の生き方もルールも、何もかもを彼女から教わった。

 そして彼女の隣を、運よく歩くことができている。

  

 だからこそ、力になりたいと思うし。

 こんな自分なんかじゃ、彼女の力にはなれないとも思ってしまう。


(それにしても、今日のアレはなんだったんだろうな。様子が変なのはそうだけど、態度というか、ここに来てからずっとおかしかったというか)


 いくら考えたところで、堂々巡りするのが関の山。

 ぶつかるように連鎖していた思考は、始点を忘れてしまう程度に記憶から霞んでいく。


「…………やめだやめ!もう寝よう!」


 こびりつく黒い何かを明るく振舞うことでかき消すと、サトーは力強く瞼を閉じる。


 それでも、ひたりと背中に張り付いているかのように。

 いくら念じても、それが消えることはないのだった。

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