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──────記憶を辿る。
スカーレットと知り合った私は。
どうしてか、王都で生活することになった。
やることは騎士団の雑用を少し手伝うだけで、スカーも王都を空けることが多かった。
ついていこうとしたら怒られたので、しぶしぶここにいる。
住処はスカーが使ってた部屋を借り、時折プレサスが人を遣って状況を確認してたとは思うが、この時の生活はあまり記憶にないのが実際のところだ。
そんな私は。
(…………次)
ばれないように部屋を抜け出し、王都をあちこち探検するなどして時間を過ごしていた。
王都の全体は六角形になっており、全ての道がレンガで舗装された、趣のある古都だった。
ただ、それほど広くないからか、一つ一つの建物がそれなりに高く。
城を頂点とする小高い丘のような立地のため、やや見通しが悪い印象を受けた。
だからか、街を歩くよりは城の敷地内や城内を歩くのが通例になった。
生憎、建物の中は複雑で、退屈を凌ぐには十分なほど見慣れないものに溢れていた。
(きょうは、こっち)
その日もまた、雑務を早々に終わらせると城内の探索を行っていた。
子供だと思って仕事の量を減らしているのだろうが、リーゼの体質を考慮すれば大人並みに働けることを彼らは知らない。
なにより。
リーゼ自身あまり人に見せびらかす類のものではないことを、このころから既に察していた。
「…………よっと」
屋根を伝って移動し、適当な部屋を覗き見る。
城内を歩いていると誰かしらに遭遇し、散策しているのがバレてしまうのだ。
故にこうやって外から部屋を覗くことで、中の様子を観察するのが最近の流儀だった。
部屋にはそれぞれテラスがあるので、適当なところで降りて中を確認する。
「…………いない」
部屋は空室だった。
王宮の部屋はどこもかしこも綺麗だが、この部屋は些か乱れているなと感じた。
毎朝一斉に清掃を行うのが決まりだが、確か事前に伝えればそこから除外されるはず。
つまりこの部屋の主は部屋を見られたくない人物、ということになる。
「…………」
別に部屋を見られることを拒む人は珍しくなく、むしろ多いくらいだった。
誰だって勝手に部屋の中に入られたくない、というのがスカーの言い分だった。
ただ、リーゼの部屋には物が一切ないので、今後理解したいと考えていた。
部屋は暗く、あちこちに本が置いてある。
本は読めるようになったが、だからといって積極的に読みたいとは思えなかった。
第一、じっとしているのがそこまで好きではなく、更に建物の中にいることもなんだか体が受け付けなかった。
「…………!?」
だからか、部屋に人がいることに気付いた時、思わず息を呑んだ。
暗い部屋に溶け込むように、ベットの上で蹲る少女がいる。
歳は自分と同じくらいだろうか。
長い髪はベットの上に流れ、その漆黒の瞳はその中でも輝きを放っていた。
着ている服は白を基調にしたもので、フリルなどがついた部屋着だろうと推測する。
以前、あんな感じの服を洗濯した覚えがあったが、随分と不要な装飾が多いなと感じたのでよく覚えていた。
ただ、その少女はあまりに様になっていた。
着ている服もまるでその人に合わせたようなデザインであり、その姿はそこらへんに飾られている絵画とやらにしか見えなかった。
「……………………だ、だれ?」
興味を持った。
そう認識した瞬間に、気が付けば窓を開けて中に入っていた。
鍵はされてたが、無理やり開ければ何も問題なかった。
少女は一瞬驚いたが、現れたのが子供だったからか安堵の表情を浮かべた。
ただ、その一瞬前に落胆しているのをリーゼは見逃さなかった。
「リーゼ。あなたは?」
そう名乗ると、その少女はおずおずとベットから降り、こう名乗った。
「わたしはシェルアって言います」
慣れた口調から、王宮の偉い人の親族か何かだとリーゼは判断する。
偉い人か否かすぐに見分ける方法は、自己紹介の慣れ方だとリーゼは勝手に思っていた。
向こうが尋ねてくるか、もしくは名乗るか。
どちらにせよ、幼いながらそれに慣れてるのは間違いなく機会が多いからだろうと考えている。
背丈は自分より少しだけ低いものの、顔があまりに小さいのでその差だろうと推測する。
昔読まされた絵本に出てくるお姫様みたいだな、とリーゼはまじまじとシェルアと名乗った少女を観察した。
「それで、その、どういったご用件ですか…………?」
そう聞かれて、リーゼは動きを止めてしまった。
用件。
そんなものはない。
前回のスカーの時は向こうから提案してくれたので、どうしていいのか考えもしなかった。
ここ数日の探索も、人を見るだけで関わったこともなければ、別段関わるつもりもないので気にもしなかった。
目の前の少女は、どこか不安そうにこちらを見ている。
沈黙、というものが困ることをこの時初めて知った。
誰かといる時は大抵黙っているし、それでも平気なのだと勝手に思っていたので正直驚いた。
考えても、とくにそれっぽい理由が出てこなかった。
適当に言葉をならべれば大抵はどうにかなるというスカーの教えはあまり意味を為していなかったし、そんな簡単に言葉が思いつくこともなかった。
「ついてきて」
「え、あのっ!?」
話すこともないが、ここから離れるつもりもなかった。
なのでとりあえず、外に連れ出すことにした。
「キャッ!?」
リーゼはそのまま、窓の外に出ると、一息で屋根の上に上がる。
可愛らしい悲鳴を上げながら、少女はリーゼの体を強く抱きしめた。
強く、といっても殆ど触っている感覚もないくらいにひ弱だった。
ただ、プルプルと震える腕と、ギュッと閉じられた目を見て、これが少女の全力なのだとリーゼは悟った。
「…………」
悟りはしたが、驚きしかなかった。
弱い。
力もない。
そんな存在をリーゼは初めて知った。
スカーもシャグラも、その仲間もみんな力が強い。
それは城にいるの人たちも動きが俊敏で力があるようにも見えた。
でも、抱きかかえている少女は違う。
これが全力なのかと疑うくらいに弱く、そしてあまりに脆く見えた。
そのあまりに、リーゼは自然と持つ力を緩めていた。
壊れないように慎重に、それでいて落とさないよう強く抱きかかえるのだった。




