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ダンジョン『螺旋楽園』
第1層。
呼称『始まりの間』
暗く長い階段を進むと、開けた場所に出た。
「ひっろ…………」
「ここが第一層の中央よ」
最初に思い浮かんだのは巨大な立体駐車場だった。
壁に沿うように作られている階段の先に、三か所に繋がっている踊り場が存在する。
二つは上下に続く階段で、もう一つは規則性のない方向に続いていた。
道は人が数人通れる程度の幅があるものの、下に支えがなく割と薄そうに見えることから見ていて不安にしかならない構造をしている。
「凄い…………」
「めちゃくちゃデケェな、コリャ…………」
下を眺めながらシェルアとヴァンが感嘆した。
踊り場の隙間から下の方が見えるが、底の方がかなり下の方に見えた。
落ちたら即死だろうな、と他人事のように感じる程度に高い。
一瞬、落下するイメージしてしまって、全身がぶるりと震えた。
「てかこれ階段も怖いな…………気をつけろよ、シェルア」
「うん。ありがとね、サトー」
階段の幅は人が三人通れる程度しかなく、向こうから来る人と通り抜けられるのか心配になるレベルだった。
手すりなんてものは存在しないので、ほんの僅かにでも態勢を崩せば真っ逆さまに落ちる可能性が高い。
「これ、下まで真っすぐ繋がってるわけじゃねェんだな」
ヴァンがそう呟くと、エティが呆れた様子でそれに反応した。
「当たり前でしょ。そんなことしたら、簡単に下まで行けちゃうじゃない。ショートカットされないように層ごとにきちんと区切られているのよ」
「随分と面倒な造りだな…………つーことは層を移動するにはどっかの部屋を通らないといけねェってことだろ?」
「そうよ。だから体力の配分が凄く難しいの。しかもここの敵の再生成時間は長くて一時間だから、行きも帰りも倒さないといけないわ」
「なんかこう、スルーするとかできないわけ?『連れなる社』だとできるって聞いたけど」
だからこそ、ギルド管轄の関所がダンジョン内にあるとは聞いている。
最初はあそこだけかとおもったが、ダンジョンの構造を考えればここでもできなくはないように思える。
だが、エティは振り向くことなく即、否定した。
「それは無理。一つ下の層に行ける部屋にはボスがいて、そいつを倒さないと扉が開かないの。しかもここの敵は部屋に人が侵入したことを感知して生成されるから、こっちの動向を捕捉できる仕組みがあるの」
ボスと聞くとますますダンジョンっぽいが、要するに物語におけるイベントボスみたいな扱いだろう。
ゲームっぽい仕掛けだが、何もゲームが思い浮かばないのであくまで憶測でしか考えることができない。
(てことは戦闘か。盾もって攻撃を防ぐくらいしかできないし、今のうちに敵が複数体いた時のことを考えておくか)
そんなことを考えつつ、一行はひたすらに下に下に、目が回るほどに降りていく。
層内なら階段は一直線に続いており、それが二つある構造らしい。
てっきり一つ一つ踊り場を通るのかと思っていたが、これなら多少は楽に思えた。
「ここが第一層五階の部屋よ」
「…………まァ、あんま見栄えは変わらねェな」
「当たり前でしょ、同じ層なんだから」
同じ建物内の、同じ層なのだから当然なんだが、一階からここ五階までの感じはまるで同じ。
着いた喜びよりもひたすら階段を下りている徒労感のほうが大きい。
エレベーターみたいな仕掛けが欲しくなるが、それっぽいものは見当たらなかった。
「それじゃあ、改めて配置の確認をしようか」
シャグラの言葉に、全員が頷く。
「ヴァンとリーゼが前衛で、オジサンが中衛、シェルアとエティが後方でサトーがそれの援護って感じかな」
「異論なし。まぁ正直そんなに役に立てるとは思ってないから、気休め程度に思ってて」
「はーい」
「うん、よろしくね、サトー」
援護、と言っても飛んでくる攻撃を盾で防ぐだけである。
だけ、と言っても重要な役目ではあるし、なによりそれしかできないのだから頑張る他ない。
後方から援護する二人を援護、護衛するのが自分の役割になる。
「足引っ張んじゃねェぞ、リーゼ」
「…………」
ヴァンの軽口にリーゼは何も言わなかった。
いつもなら一言二言あるはずだからか、ヴァンもどこか居づらそうに口ごもった。
やはりリーゼの様子がおかしかった。
エルフの里での一件から、どことなくリーゼの調子がいつもと違うように見える。
ここにくる途中でそれとなく聞いても、問題ない、とだけ言われて話が終わってしまっていた。
「それじゃ、行こっか」
そんな不安がないかのように、シャグラの号令で一行は扉へと向かう。
老舗のホテルにでも使われていそうな、重厚な扉だった。
長い年月が経っているのか、装飾は殆ど擦り切れていて元の絵が全く分からない。
きっとこんな風に多くの冒険者が扉に触れていたのだろう、と思うとなんだか感慨深く思うのだった。
二つ目のダンジョン。
その記念すべき最初の戦闘が、今まさに起ころうとしているのだった。




