19
かなり苦戦したが、ようやく狙いの依頼書を手に入れたらしい。
エティはそれを一瞥すると、納得した様子で頷いた。
「ま、これが適当なとこかな。第一層の五階にいるイングタの牙を五本持ってこいだって」
「イングタってなに?」
「オレは聞いたことねェっすけど、獣っぽくねェすか?牙って書いてありますし」
「この前みたいなのならいいけどなぁ。正直倒せる自信ないし」
エティから依頼の記載された紙を受け取り、サトーとヴァンがそれを眺める。
内容は話していた通りで、報酬はそれなりに、といった感じだった。
ただし、多めに牙を持ってくれば報酬は追加で増やすらしい。
それならば魔獣の数に限りがあるわけではなく、一定の個体数を倒せば終わるタイミングは選べるらしい。
「討伐依頼か。リーゼいないけど平気かな」
「オレじゃ力不足ッスか?」
「そうは言ってないけど、でも人数が多い方がなんか良さそうじゃん」
「そりゃそうッスねェ」
ヴァンは紙を取ると、ヒラヒラとはためかせながら近くにあるカウンターへと向かってしまった。
見知らぬ環境下でも物怖じしない性格は頼もしい限りだ。
カウンターにいる受付の人の格好は、西部劇にでも出てきそうな、なんとも奇抜な恰好をしていた。
遠目からだから見てられるが、至近距離なら確実に困るだろうなと思う。
ツークのあれも相当だが、こう、制服という要素があるだけで急激にいかがわしく感じる。
「受ける依頼は決まったの?」
「イングタって奴の討伐だって。シェルアは聞いたことある?」
「確か、アリみたいな魔獣だったかな…………昔読んだ本に載ってた気がします」
流石というべきか、魔獣の名前をある程度覚えているらしい。
伊達に本を読んでないな、と思いつつも、それでもイングタに思いを馳せる。
(蟻、ね…………子供の頃とか行列を眺めてたりしてたと思うけど、あれって記憶にないくらいのタイミングでやらなくなるよな。なんか理由でもあるのかね?)
なんとなくだが、道端にいる小さいやつくらいの印象しか出てこない。
そもそもまともにアリを観察したことがない上に、記憶がないので図鑑の一ページらしき映像しか出てこなかった。
図鑑らしき光景すら、なんとなくのイメージで話しているだけで、実際に図鑑なのかすらまるで分からない。
少なくともサトーの印象としては、容姿よりも行列を眺める習慣の方が印象に強かった。
「それで、このチームってどんな編成なわけ?」
「編成?」
「そうよ。前衛、中衛、後衛って、冒険者なら特技や能力で担う場所が変わるのよ。因みに魔術師は後衛、支援とかが多いわね」
エティにそう言われ、サトーとシェルアは思わず顔を見合わせた。
よく考えたら、この面々でまとまって戦ったことは一度もない。
なんならダンジョンでまともな冒険、依頼の類をまだこなしたことがなかった。
所謂、初陣がまさにここ。
当然だが、編成やポジションのようなそれっぽい単語を思い浮かべたことがないし、正しい知識もない。
二人はしばらく顔を見合わせいると、何かを察したのかエティが額に手を当てた。
「まさかと思うけど、アナタたち本当に初心者なわけ…………?さっき冒険者の証を見せてもらったとき、ちょっとだけそうかなとは思ったけど」
エヘヘ、と笑うが可愛いのはシェルアだけである。
よくよく思い返してみると、それなりに依頼は受けていたが、そのどれもがなぁなぁというか、流れに身を任せてたら事が済んでいたことが殆どだった。
そう思うと冒険者なのか疑いたくなる気持ちにはなる。
しかも報酬を受け取った場面に遭遇してないから猶更だった。
「そう責めないでくれないかなぁ?」
「あ、シャグラ。そっちはどうだった?」
「残念だけど空振りだったよ。それはそれとして、ようやくちゃんとした冒険ができるって感じだから、あまり責めないであげてほしいかなぁ」
気が付けば近くにシャグラの姿があった。
ギルドの本部に来てから軽くリーゼのことを探ってくる、とだけ言って別行動をしていたのだが、これといった成果は得られなかったらしい。
シャグラの格好は騎士時代を彷彿とさせるものだった。
頭部を除いてきっちりと鎧を着こんでいるが、ナマク村で身に着けていたものとは別のものだと話していた。
正直鎧の見分けなんてまるでつかないので、近くでマジマジと眺めていても違いがあるようには見えなかった。
「実はそれっぽいものは決めてたことはあるんですけど…………」
「あれも結局、ザハありきのものだったし。なにより今は色々事情が複雑だからなぁ」
「一度、話し合いをした方が良かったかもですね」
リーゼがいなくて、シャグラとヴァンがいる。
勿論リーゼ抜きで話を進めるのはよくないとは思うものの、一応これからダンジョンに行くのだからそれっぽいものは作っておきたかった。
第一、適当にやっていると、どこからかリーゼの冷酷な突っ込みが飛んできそうである。
「元からザハ様はいなくなると分かっていたのでは?考えが甘いですね、あなたは」
まさに、こんな具合にだ。




