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ギルド『白日の虎』の本部は、街の中央にあった。
高く伸びる三角錐の塔が寄り添うような構造のそれは、世界遺産のサクラダファミリアのようだった。
尤も、色合いが全く似てないからか、見た目以上に異なる建物にしか見えない。
だとしても、細部に施されている装飾は圧巻の一言だった。
(こうやってくると、マジで統一性がないっていうか、ギルド間の個性が強いんだな…………)
内部はパーティーホールのように広々としていた。
入口は一つで、真っすぐ向こう側に空港にあるようなゲートが見えた。
どうやらあそこがダンジョンへの入り口らしい。
ギルドの本部は『明星の狼』のように外壁に面しているのではなく、ダンジョンの真下辺りにあるらしい。
中には大勢の人がいたが、誰を見ても傷のない人はいなかった。
身に着けている武器や鎧は使い込まれているように見え、露わにしている人の顔つきは戦歴の多さを物語っているようだった。
なにより、空気感がまるで異なっていた。
ピンと張られた糸のような、ほんの僅かでも乱れてはいけないような雰囲気が漂っている。
『明星の狼』のほうがまだ和やかさがあったが、ここでは完全に空気が凍りついていた。
「ここがギルドの本部か…………やっぱ全然違ェなァ」
隣に立つヴァンが舌なめずりをする。
まるで獲物を目の前にした肉食獣のような姿は、ここにおいては頼もしい限りだった。
少なくともサトーはかなり萎縮している。
ヴァンの格好は初めて会った時と似ているものに変わっていた。
半袖の薄手のジャケットを羽織り、両手に金属製の籠手をつけている。
ダンジョンに行くための装備なのだろうが、傍から見ている分には怪我しやすそうで怖い。
「まずはここね」
エティに手招きされ、案内されたのは超巨大な掲示板だった。
十メートルを優に超える幅と、三メートルは平気である高さを誇る掲示板には、おびただしい数の紙が張り出されていた。
よく見てみるとどうやら依頼書らしく、ほんの僅かにだけど内容が読めるようになっていることに密かに感動した。
「ここじゃ、気に入った依頼書を受付に持って行って、そっから仕事相手を探すの。だから依頼ごとにチームを変えるのが普通なわけ」
『明星の狼』ではチームを組んでから依頼を受けたり、そもそも依頼を受けずともダンジョンに入ることが許されていた。
だけどここでは、依頼を受けないとダンジョンに入ることが許されていないらしい。
ここらへんはギルドによっては違うようだ。
「んで、どれがいいんだ?」
「そうね…………あそこの、ほら、上の方にあるやつ」
「どれだよ…………」
エティが奇抜な杖で示した辺りの紙がふわりと揺れる。
見るとヴァンが権能を使って目的の紙を探しているらしい。
完全にゲームセンターでクレーンゲームをしている子供の姿だった。
そうして四苦八苦している姿を眺めていると、ふと誰かとシェルアが話しているのが聞こえた。
相変わらずシェルアはモテるらしい。
イラつきつつも助け舟を出そうかと振り向くと、既に会話が終わっていたらしく、小さく会釈するシェルアの姿があった。
「あれ?なんもなかったの?」
「う、うん。見た目よりずっといい人だったんだけど…………」
離れていく後ろ姿を眺める。
鶏のトサカのような頭とスキンヘッドの二人組が見えた。
多分あれが話し相手だったのだろうけど、確実に見た目で損しているのは間違いない。
シェルアはどこか言いにくそうにちらちらとエティの方を見ると、そっとサトーに耳打ちをした。
「なんか、『エティは疫病神だから、頑張れよ』って言われたんだけど…………」
「疫病神?」
そのあんまりなあだ名は呆れるしかなかった。
そんなことを言うってことは実はそこまでいいやつではないのかもしれない。実にややこしい話である。
「だから、そんなことないって言ったんだけど」
「で、なんて言われたの?」
「笑いながら、行けば分かるって」
「はぁ」
ものすごく気の抜けた返事が出てしまった。
玄人のような言い方だが、内容が内容だ。
なんとなく、あぁそうなんですかとは言いにくい。
エティの方を見ると、どうやら上手く意思の疎通が取れていないらしく、ヴァンと言い合いになっていた。
そもそもこの掲示板の設計が間違っていると思うのだが、なんとなく簡単な依頼ほど上に押しやられている気がする。
その証拠にさっきから上の紙ばかり風に揺れていた。
「だーかーら!もうちょっと左だって言ってるでしょ!」
「すっげー左に行ってんだろうが!つーか指したとこと全然違うじゃねェかよ!」
「しょうがないでしょ!似た依頼ばっかりあるんだもん!」
「途中で見失ってんじゃねェか!」
「はいはい。一旦落ち着けって」
もはや当初の目的すら見失いかねないほどの剣幕に、サトーがやんわりと間に入った。
「もういいわ。それ取って」
「言い方考えろよこのクソアマ」
「頼むから喧嘩するなよ…………」
妥協なのか、もしくは単に適当なのが目についていたのか。
エティが指さし、ヴァンがとる。
さっきまでの時間はなんだったのかと思うくらいに全く時間がかからなかった。
「大丈夫なのか、これ…………?」
一抹の不安を胸に抱きながら、サトーは内心でそう思うのだった。




