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異世界に転生したら最強になって無双できるんじゃないんですか!?  作者: イサキ
第5章 白日の虎

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17

 ──────記憶を辿る。


「で、これはどういうことだ?」

「連れてきちゃった」


 彼女、スカーレットと戦ってから十日が経過した頃、私は彼女に連れられて大きな街に着ていた。

 白い壁に、綺麗に舗装された街は、前いたとこよりも埃っぽくなかった。

 なにより、私と同じ人を見かけることはなかった。


 ついてきた理由は、実はそれほどない。

 ただ純粋に、彼女のことが気になった。

 初めて他人という概念を持った私にとって、彼女が唯一の観察対象だった。


 彼女に手を引かれ、入った部屋には背丈の大きな男が三人もいた。

 奥に座っている老人に、左右それぞれに立っている若そうな二人組は、私たちを見た瞬間唖然とした表情を浮かべていた。


「連れてきちゃったってお前…………」

「相変わらずというか、なんていうか…………」


 片方の男は呆れた様子で額に手を当て、もう片方の人は人の好さそうな笑みを浮かべている。

 私がいることが困ることは、態度を見れば分かることだった。

 私はスカーの背後に隠れると、老人は小さくため息をついた。


「なるほど。随分と懐かれたようだが」

「まー、結構大変だったけどねー」

「報告は貴様の部下から聞いている。問題なのは、依頼は『羅刹』の討伐だった件だ」

「えー、でもおっさんは子供殺さないじゃん?」

「それとこれは事情が違う。貴様とて、『羅刹』の話は聞いているだろう」


 羅刹、としきりに連呼する単語が、恐らく自分自身を意味するのだと察しがついた。

 だけど、幼い頃の私は、それがどんな意味を持っているのか、そもそも何をしたのかすら理解できていなかった。


 スカーは私の背中をそっと押すと、近くにあったソファに腰かけさせた。

 ソファは落ち葉の数倍は柔らかく、座った拍子に背もたれに倒れてしまう。

 それが面白かったのか、私は座ったままソファの上で跳ねて遊んでみた。


「しっかしこうみると、マジであの『羅刹』なのか分からんな」

「おじさん、だれ?」

「うぇ!?喋るのコイツ!?」

「へへん。アタシが仕込みました」


 言葉を発することはそれほど難しくないものの、新しい単語を発するたびに抱き着かれるのは幼いながら鬱陶しかった。

 そんなことをしているせいで、勉強の進みも遅かったのもあると思う。


「お名前、教えてくれるかな?」

「やだ」


 目の前にいるおじさんは、というかまだおじさんと呼ばれる年齢ではないのだけど、オールバックの髪型に老け顔だったので、どうしてもスカーと同年代だとは思えなかった。

 拒絶されたおじさんは、がっくりと肩を落とすとスカーを睨みつける。


「お前、どんな教育してんだよ」

「よーしいいぞーリーゼ。センは弱いくせに文句だけは一丁前なんだ。もっと言ってやれ」

「うるさくねぇし、お前が色々雑なだけだろうが!」

「…………なんだ、そのリーゼという名は?」


 老人がそう尋ねると、スカーは私の頭を撫でながらこう告げた。


「リゼって名前だと色々困るだろうから、アタシが名付けたんだー。なにより、間を伸ばす方が可愛いし」

「もう引き取る気満々なんだね」


 もう片方の、茶色の髪をふわりと伸ばしているおじさんがそう呟いた。


 その髪はなんだが犬のように見えた。

 のちにシャグラ、という名前があることを知るのだが、それはまた別の話だった。


「それで、許可欲しいんだけど、いい?」

「そういうことは、事前に言うべきではないか?」

「いいじゃん別に。どうせおっさんも後任育成に忙しいんでしょ?」

「…………まぁ、否定はできぬがな」

「団長、そこで負けたらダメです」


 センが小さく突っ込むが、誰一人として反応する人はいなかった。

 彼らのやりとりはどこか緊張感を欠いているように見えた。


 本気でやりあっているように見えて、ただじゃれあっている獣のように。

 口調とは裏腹に見えない何かで繋がっているように見えた。


「つか、なんでこんなフリフリした服着せてるの?スカーってこんなの持ってたっけ?」

「どーせだから買っちゃった。お金使わないし」

「お前呑みに行っても一銭も出さないだろ」

「セン?なんか言った?」

「なんでもねぇよ」


 セン、と呼ばれた老け顔のおじさんは、コホンと咳ばらいをすると改めて私の方を見る。


「はじめましてー。おじさんのなまえはセンっていうんだ。おなまえ、教えてくれる?」

「うわぁ…………」

「どうした急に?」

「貴様、何故猫を撫でるような声を出している?」

「…………」

「え、ちょっと待って!なんでリーゼちゃんまで引いてるわけ!?」


 全員からドン引きされ、必死の形相で周囲に訴えるセンの姿は、私から見てもあまりに滑稽だった。

 だからか。


「…………フフ、フフフフフ」

「お、笑った」

「セン!アンタやればできるじゃない!」

「素直には喜べねぇ…………」

「はぁ…………いつからここは談話室になったのだろうか」


 その日の事を、私は忘れることはないと思った。

 初めて見た、人と人が普通に話している光景。

 それはあの世界には存在しない、温かい場所だった。


 そしていつの日か、私はこう思うようになったのだ。

 私は、誰かのために役に立ちたいと。


 そしていつか、彼女のために何かをしたいと。

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