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「重ねるようで申し訳ないのですが、その魔器は殆ど効果を失っています。自然に魔力を吸収する仕組みがあるのですが、既にその効果はありません。人の手で魔力を込めれば光らせることもできますが」
「え、マジで!?」
慌てて魔器を手に取り、思いっきり力をこめて握ったりつまんだり、うなり声を出しながら全身に力をこめて全神経を魔器に注ぐ。
だが、魔器はうんともすんともせず、何も変化しないままそこにあった。
「残念ですが、魔術適性のあるものは触れた時点で光らせることができます」
「つまり、俺に魔術の適性がないってこと?」
「はい。この家にはいくつか魔術で起動できる仕掛けもありますが、あなたが触れても何も起きませんでした。そこにある平たい台、あれも魔器の一つです」
「…………ま、話聞いてて薄々そんな気はしてたよ。だって何してるか全く分からなかったし」
IHのようなもの、という認識は間違いではなかったらしい。
要は魔器を起動させることで熱が発生し、食材を調理することができる代物、ということだろう。
「ん?でも魔器って誰でも使えるんじゃなかったっけ?」
「私もシェルア様も魔術の適性があります。ですのでそういった配慮をする必要がありません」
「あ…………そうですか」
なんだろうこの疎外感。
いや元から部外者なのは知ってるけど、それでも感じずにはいられないこの感じ。結構寂しい。
「で、先ほど権能を持つ者は魔器を起動させることができないと、伝えましたが、聖人はその例から外れます」
「え、てことは魔術も使えて権能も行使できるの?」
「より正確に言うなら権能も魔力を扱うのです。魔力を操作することで権能を行使でき、魔力を消費することで魔術が使えます。権能は魔力を消費しないため、使用回数に制限がありませんが、魔術はその回数に限度があります」
少々ややこしいが、魔力は全員が有していて、それを操るのが権能。
それを消費するのが魔術、ということだろう。
操るだけなら魔力を失わないが、消費するとなれば当然限度が存在することになる。
「ですが、聖人は権能の数の制限がなく、同時に複数の権能を発動させることができます」
「え、なにそれ強すぎない?」
まさにチート、という存在である。
権能をいくつも使えて、かつ必死に生み出された魔術まで使えるとか、そんなのもはや誰も勝てない存在である。羨ましい。
「ですので、聖人や聖遺物はそれだけ注意される存在である、とされています。先ほど話した契約のことを覚えていますか?」
「えっと、確か、武装の放棄と、他国の王家の人を連れてくる、だっけ?」
指で数えながら、しどろもどろにそう答える。
「我が国で契約している精霊は、六龍より格は落ちますが、実力は同程度とされています。それに加えて聖人がいるとなれば、他国は危険視し、警戒してしまう。それでは交易を行う妨げになってしまいます。ですので」
「あくまで危険ではないよ、っていう意思表示のために、軍隊を持たないのか…………なんかすげー聞いたことがあるなその話…………」
「ただし、あくまで護衛のため、ということで騎士団は存在しますが」
「なんだろ、この圧倒的既視感…………こんなところで感じたくなかったなぁ…………」
訝しそうにこちらを見るが、いつものことだろうと言わんばかりの冷たい目で一瞥されて終わった。
流石にその態度は悲しい。
「そしてもう一つ。王家の人間を我が国で生活してもらうというものです。これもまた敵対意志がない、ということを示しています。客人を丁重に扱わなければ、それだけで国交問題になる可能性がある。逆に言えば、いつでも騒動を起こせる状態にある、ということです」
いわゆる人質、ということだろう。
他国からすれば不要な存在を送り込めるし、エルフィン王国からしたら、扱いに困る存在だ。
首元にナイフを一つ突き付けている状態と同じだろう。
「でも、これって普通お互いに送り合わないですか?そうじゃないと最悪人質に取られたりしません?」
そう、これだと送られてきた王家の人をダシにして金銭なりを要求することができる。
いくら武装を放棄しているとはいえ、契約を破られて困るのは明らかに向こう側だ。
しかし、リーゼは静かに首を振ると、その答えを言った。
「残念ながら、それは不可能なのです。なぜなら、この国の王族は一人しかいないのです」
「……………………は?一人?」
「現在王位に就かれている王女フォルティレ様。それ以外に王家の血を引き継ぐ存在はいません」




