13
色々と問題が積算している。
そう思ったサトーは、目の前にある山のような疑問を全て放り投げて話を進めた。
「とりあえず、ギルドの本部に行きたいんだけど場所知ってる?」
「なに?アンタたちそんなとこも知らないわけ?」
「え、まぁ、うん」
ジロッと睨まれるが全く怖くない。
場所が分からないなら調べるなり聞くなりするべきなのだが、いつもはリーゼがそういった役割をしてくれる。
そのせいか他人に聞く以外の選択肢が頭の中になかった。
「アンタたち、本当に冒険者?」
「…………一応?」
「なんで疑問形なのよ」
「悪いんだけど。話をするには、ちょっと人が多いんだよねぇ」
のんびりとした口調でシャグラがサトーの隣に立つと、ニコリを微笑んだ。
サトーよりも背が高く、髭まみれのおじさんは傍に立たれるだけでかなりの威圧感になるだろう。
心なしかエティの顔が引きつっているような気がする。
「できれば移動したいんだけど、構わないかな?」
「…………べ、別に構わないわよ。ついていらっしゃい」
エティはプイッっと振り向くと、トコトコと小走りで先に行ってしまう。
こうしてみれば小動物のようで可愛いものだが、なんともまぁ見ていて不安になってくる。
はじめてのおつかいを見守る親の気分だ。
(お、大人気ねぇ…………)
少しだけ不憫に思いシャグラに視線を向けると、彼は素知らぬ顔で笑みを浮かべている。
こういった部分だけは、ある意味では尊敬できる。
真似しようとは思わないが。
「んで、あのメイドはどこ行ったんだァ?」
面倒そうに頭を掻くヴァンがそう尋ねると、一瞬だけ視線である方向を示す。
見ると心底不安そうにしているシェルアの姿があった。
(まぁ、そりゃそうだわ…………)
サトーの記憶にある限り、リーゼがシェルアを放置するなんてまずあり得ない。
エルフの里で別行動はしたが、あれはあくまで緊急時だったからだ。
しかもこれだけの人のいる街で、居場所が分からなくなった。
下手すれば再会すら難しいかもしれないのだ。
「ヴァンでも分からないんだ?」
「あァ。ここら一帯に広げてッけど、全く反応がねェ。なによりこんだけ人がいると上手く感じられねェみてェで、探すのはちとキツイっすねェ」
ヴァンは眉間に皺を寄せながらも、恨めしそうに周囲を見渡した。
どうやら風の権能での周辺把握は環境に左右されるらしい。
いくら便利でもそういった制約はあるらしく、本人が一番不愉快に感じているようだった。
「どうする?一度探しにでも──────」
「まずは、エティさんの話を聞こう」
「えっ!?」
打開策の無い中で、そう提案したのはシェルアだった。
思わぬ提案者にサトーが驚きの声を上げる。
「大丈夫なんすか?」
ヴァンがそっと尋ねる。
短い間でシェルアとリーゼとの関係をきちんと把握できているのだろう。
この状況で、一番不安なのはシェルアのはずだ。
だけど、シェルアの表情は明るく、元気なものだった。
「大丈夫!リーゼなら一人でもなんとかなるし、今は冒険者としてできることをしないと」
「そりゃ、そうだろうけど…………」
「私たちはこの街の構造を殆ど知らないし、下手に探しに行って迷子になるほうがずっと危ないと思う。それなら、ギルドの本部か、ダンジョンにいるほうが再会できる可能性が高いと思うんです」
シェルアの意見は的を得ている。
ここの立地を知らない状態で、誰かを探しにいけば確実に迷子になる。
むしろここにいる何人かとはぐれる可能性の方が高い。
それなら共通の目的であるダンジョンにいる方がまだ会える可能性は高い。
目的地は一緒なら、先に行って待つ方がずっと賢明だろう。
「ほーら!何ボケッとしてんの!早く行くわよ!」
エティが人ごみを割くように声をかける。
四人は互いに目を合わせると、小さく頷きあってエティの後に続いた。
「…………なァ、シャグラさん」
「どうかしたかい?」
「アンタ、気づいてたろ?」
ヴァンの問いに、シャグラは首を傾げた。
「ごめんねぇ。オジサンにはよくわからないなぁ」
「嘘つくなよ。さっきあのエティとかいう奴に話しかけたタイミングで分かんだよ」
「…………」
「思えば色々と不自然だァ。最初こそ与太話だと思ってたが、本当なら話は変わる。アンタは一体、何がしてェ?」
ヴァンの眼差しは、真剣そのものだった。
下手に誤魔化せば、この瞬間に事を起こさんばかりの殺気を放っている。
シャグラはそれを真正面から受け止め、こう返した。
「君は、御伽話を知ってるかい?」
「御伽話だァ?それがなんか関係あんのかよ?」
「オジサンはねぇ、そういった噂話が死ぬほど嫌いなのさ」
死ぬほど、という強い言葉を使ったことに驚くヴァンに向けて。
シャグラは飄々と、何かを懐かしむようにこう言った。
「ありもしない幻想なんて、壊れてなくなればいい。それで苦しむ人がいるなら、なおさらね」
「…………意味が、分からねェんすけど」
「今は、ね。そのうち分かるよ」
そう言うと、シャグラはそそくさとエティの後を追った。
残されたヴァンは眉をひそめながらも、はぐれないようにその後を追うのだった。




