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「アナタたち!魔術師はいらないかしら!」
白昼堂々、という表現は間違ってるだろうけど。
大きな通りの、山のように人の中からそんな声が聞こえた。
通行人は何事かと見ている者もいれば、なんだか呆れた様子で眺めている者もいた。
一つ疑問があるとすれば、どうして話しかけた相手が自分たちであるか分かったか、だが。
「アナタたち!魔術師はいらないかしら!」
一言一句、まるで同じ。
通りの真ん中に、腕を組んで仁王立ちをしている少女がこちらを見ているのだ。
しかも思いっきり進行方向である。
(…………子供?)
赤毛色の髪は身に着けているローブで隠れており、頭には三角帽子を被っている。
見るからにサイズが合ってない。
入学式で大きめの制服を買ったけど、成長期が来なかった人みたいだ。
魔術師らしく、手には背丈と同じくらいの杖が握られている。
杖は奇抜というか、明らかに不要にしか見えない装飾、もとい彫刻が施されており、かなり簡略するならデスメタルのような禍々しさがあった。
(よく考えたら、この世界って音楽とかってどうなってんだろうな。なんとなく、まだクラシックが全盛期な印象だけど。もしかしたら、死神みたいな化粧して頭ブンブン振り回すライブとかしてるグループがいるのかもな)
想像したのは手本のようなヘビメタなのだが、サトーの知識ではそれが限界だった。
そんなことを考えつつ、サトーはチラリと背後を見た。
今となっては五人もいる大所帯。
ある程度のことなら対処できる面々が揃っている。
万が一が起きるとは思わないが、それでも頼もしいのに変わりはない。
「聞いてるの?魔術師はいらないかって聞いてるんだけど!」
少女は、見た目よりも強情だった。
そもそも魔術師が欲しくなる心境になったことがないため返事に困るのを無視して、ジロリとサトーを見上げ返事を待っている。
つまりこれはあれだろうか。
仲間になりたそうにこちらを見ている状態なんだろうか。
ていうかこんな公衆の面前でいきなり聞くのがこの世界の普通なのだろうか。
そう思い、頼もしい仲間に視線を向けるが。
「えぇっと…………」
「なァ。どうすんだアレ?」
「さぁ…………」
違う。
明らかに困ってる。
それどころかドン引きしている。
一瞬また異文化交流をするのか、と不安になったものの。
それでも相手がおかしいという認識を確認できたために、サトーは一歩近づき、こう尋ねた。
「こんにちは。迷子になったの?お父さんとお母さんのお名前分かる?」
「はぁ!?アタシ、これでも十八なんだけど!子供扱いしないでくれる?」
背後から「えッ!?」という声が聞こえた気がしたが、敢えて無視することにした。
十八。
まさかの十八である。
大人なのか子供なのか極めて微妙な位置であり、本人と周囲の認識に一番ずれがある年頃だ。
記憶喪失のサトーは自身の年齢すら知らないけど、多分ここまで子供っぽくはないだろう。
帽子の天辺が丁度サトーの背丈と同じくらいだった。
(無駄にデカい服といい、絶対に見てくれにコンプレックス抱えてる感じの子だし。下手なこと言うと後が面倒になりそうなんだよなぁ。いやもう面倒といえば面倒なんだけど)
とりあえず、適当に話を進めて断ろう。
即座にそう判断し、そこに触れないよう話を進めることにした。
「それで!魔術師はいらないの?見た感じ、魔術師らしい人はいないけど」
「いや、まぁ確かにいないけども…………てかなんで必要なの?」
「はぁ?アンタそれでも冒険者なの?冒険者に魔術師は必須でしょ!」
いや目玉焼きには醤油でしょ、みたいに言うが、知らないのでまるで共感できない。
むしろ変な人に絡まれてしまい、心の扉をゆっくりと閉ざしてる最中ですらあった。
面々を見渡すと、魔術は使えても魔術師ではないシェルア、風の権能を使うヴァン、魔術ができるのかまるで分からないシャグラと、確かに魔術師は足りてないだろう。
適量があるのかすら分からないが、間に合ってるのかすら分からないのだから当然の考えである。
「…………ってか、リーゼどこ行った?」
そこで、リーゼがこの場にいないことに気が付いた。
先ほど前に行った、ということは、恐らくこの少女とすれ違ったということだろう。
タイミングがいいんだか悪いんだか判断に困るところだが、リーゼなら確実に無視してるだろうな、と容易に想像できてしまう。
「あのよォ、道のど真ん中で急に話しかけられたら誰だって困惑するだろォが」
ヴァンがポケットに手を突っ込みながら、メンチを切りそう尋ねる。
「つか、テメェの名前は?まず名乗ってから要件を言えよ」
明らかに他人に名前を尋ねる態度ではないのだが、少女も相当に気が強いのか、ヴァンを睨みつけながらこう名乗った。
「アタシはエティ。この街一の魔術師よ!」
言葉の後、一筋の風が頬を撫でる。
誰しもが言葉を失っている中、エティだけは満足そうに無い胸を張るのだった。




