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異世界に転生したら最強になって無双できるんじゃないんですか!?  作者: イサキ
第5章 白日の虎

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9

 翌朝、ヴァンは焚火の傍で倒れるように寝ているサトーを見つけた。


「ったく、風邪ひいても知らねェぞ」


 昨日はよほど盛り上がったらしい。

 普段ならきちんとテントの中で眠る彼が、野ざらしで寝ているのだ。


 これで風邪でも引いたらどうするのだろうかと、ヴァンは思わずにはいられなかった。


(でもま、こういう日があってもいいのかもしれねェなァ)


 日は浅くとも、ヴァンは仲間たちの大体の雰囲気を理解していた。

 いくつか気になることはあるが、一番の気がかりは師匠と呼ぶサトーだった。

 

 危うい、と呼ぶほど不安定ではない。

 それは間違いないが、それでもどこか怪しい気配が彼からはしている。

 一歩誤れば戻れないような、そんな深淵が彼からは感じるのだ。

 

(つってもそんなに人と関わったこともねェしなァ。見た感じ体調に乱れがある感じもねェし、とりあえずこのままでいいだろォ…………)


 とりあえず風で様子を確認すると、荷車から適当な毛布を持ってくると少々雑に被せる。


 既に日は登り始めている。

 毛布をかけなくても勝手に温かくなるだろう。

 だとしても、この姿を見てしまった以上、何もしないのはなんだか嫌だった。


「さて、と。どっか適当なとこはっと…………」


 グン、と一息で飛び上がり周囲を見渡す。


 改めて、見れば見るほど荒野が続いている。

 その光景は些か奇妙に思えた。


 感覚的に言えばすぐそこなのに、エルフィン王国とはかなり違う。

 国が変わるだけでここまで風景が変わるのは面白くもあり、同時に驚きもあった。


(ここら一帯にオレら以外の気配はねェか。なら、無理に離れる理由もねェな)


 ヴァンは適当な空き地を見つけると、そこに降り立ち準備体操を始めた。


 なんてことない、ただの運動である。

 爺さんから教わった体術の型を一通り試し、それから自分で編み出した技を試す。

 それを何回か繰り返して、小休止。


 上記の行程を数回繰り返すだけの、なんともつまらないものだ。


「だから、見ててもあんま面白くねェっすよ」

「ふむ。流石エルフの民。見事であるな」


 岩陰から現れたのはプレサスだった。


 昨日と一切変わらない姿に、今の時間まで見張りを続けていたのかもしれないと考える。

 もしくは同じ服装を何枚も持っているかもしれないが、着替えをしている感じは一切なかった。


「つーか、オレがエルフだってよく分かるなアンタ」

「風の権能はエルフの特権。事情は分からぬが、貴様の外見はエルフではない。が、風の権能を使用しているであればエルフの里の者なのだろう」


 言い方から察するにこいつもエルフの里に来たことがあるらしい。

 そして恐らくだけど、風の感覚を広げていることにも気づいている。

 戦っているところを見せていないのに、さも当然のように風の権能を使用していると断言していることからも明確だった。


「しかし、迷いがあると見た。間違っているか?」

「合ってっけど、なんで分かんだ?」

「時折、風が薄くなっている。察するには十分であろう」


 その発言にヴァンは思わず下を巻いた。


 確かに、運動の間は風の感覚を最小限に留めていた。

 野営したとこにはシャグラがいるから問題ないだろうと考え、それこそこの空き地程度の範囲しか展開していなかった。


 だが、風の感覚の有無なんて普通は理解できないはずだ。

 旗がなびかないくらいの極めて微小な空気の流れを、プレサスは当然のように理解できているということになる。


 かつて戦ったトールもできていたが、あれは感覚を全開にしていたからだ。

 出力の程度の差を理解できている時点で、プレサスの力量がおのずと理解できてしまう。


 だからか、つい本心がこぼれた。


「アンタに話すことじゃねェんだけど、正直、どっちがいいのか分からねェ。弱めるべきか、強めるべきか。そもそも選べる立場にいるのかどうかも曖昧だ」


 両手の掌を眺める。


 自分の権能はきっと強い。

 だけど、オレ自身は相当に弱い。

 要は凄くバランスが悪いのだ。


 できるけどやらないのか、できないことをやるのか。

 どっちを選べばいいか、分からなくなっていた。


 プレサスはしばらく黙り込むと、こう答えた。


「ならば、()()()方を選べばいい。できるできないに関わらず、やりたい方を選ぶべきだ」


 ヴァンは掌からプレサスに視線を上げる。


「実行できるか否かは大した問題ではない。重要なのは、貴様がしたいことだ。できぬことなど、そのうちできるようになる。それをできないと、割り切るには少々幼すぎる」

「それで負けたり、誰かが犠牲になってもか?」

「それこそ細事だ。第一、己の力量も図れぬ者に、他者の命をどうこうできるわけがない。貴様の行動の結果、誰かが犠牲になるかもなどと、行動していない仮定を考慮するのは不毛。選ばなかった選択肢を眺めていても、起きた結果は変わらぬ」


 プレサスの言葉を、ヴァンは静かに受け止める。

 その言葉は、さながら道しるべのように一本の線を自分の内側に引くような感覚だった。


「であれば、貴様の思い描く最良の形を常に追い求めるべきだ。今はできなくとも、それを信じ努力すれば必ず形になる。それが思い描く完璧なものであるかは保証できぬがな」


 プレサスの言葉は、威厳に満ちているのにどこか不慣れさがあった。

 それはまるで語ることになれていないかのようで、ほんの少しだけ恥ずかしさも混じっているような声色だった。


(オレの、したいこと…………)


 ヴァンは真っすぐプレサスを見つめ、そして足元を見る。


 最良の形。

 目指すべき方向。

 それが何なのかは考えるまでもなかった。


 話の途中で、ごく自然に思い浮かんだのは。

 爺さんの言葉と、不思議な髪型の男の姿だった。


「…………そっか。それでいいのか」


 強者に勝つにはそれしかないと思っていた。

 自分と相手以外の物を不要のものとして、そのうえで目の前の敵のみに集中すべきだと考えていた。

 それが正解なのだと、そう思い込んでいた。


 だけど、実際は違った。

 答えなんて初めからなくて、提示された答えはトールの出した答えでしかない。


 そしてそれは、オレの答えではないし。

 今ここで、答えを出せるほどの力量は備えていない。 


「あの、プレサスさん」

「む?どうかしたか?」

「あざッす。なんとなく、分かった気がします」

「…………ならばよい。善く励め」


 プレサスはそれだけ言うと、その場から姿を消した。


 目指す方向。

 それが明確になった今、ヴァンの瞳に曇りはないのだった。

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