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異世界に転生したら最強になって無双できるんじゃないんですか!?  作者: イサキ
第5章 白日の虎

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8

「変わらぬな、その姿」


 プレサスが声をかけた先に、シャグラの姿があった。

 膝あたりの大きさの岩に腰かけたシャグラは、手に持った酒を揺らしながらぼんやりと夜空を見上げていた。


 プレサスの来訪に、シャグラは驚いていなかった。

 その足元が届くよりも早く、シャグラは意識を背後に向けていたからだ。


「…………そういうあなたも変わらないですね」

「ふん。語らずに動く癖だけは、直すように伝えたと思ったがな」

「さぁ。もうずいぶんと昔のことですから」


 シャグラは苦笑いを浮かべると、岩から降り立ち上がる。

 プレサスは気にすることなく地べたに座り込み、それを見たシャグラも同じように地面に座り込んだ。


「それで、どういった用で?」

「先ほどから貴様の姿がなく、気になったのでいそうな辺りを散策していた。で、貴様を見つけた。それだけだ」

「その感じも、昔と変わらないですね」


 要点のみを淡々と話す。

 どこか淡白な物言いと表情は、昔と何一つ変わっていない。


 鉄人。

 鋼の騎士。


 厳格な振る舞いや口調から、世間では畏怖の念を込めてそう呼ばれていたらしい。

 聖人ということもあってか、他人と接することが容易ではなかったというのもあるだろう。


(なにより、誰よりも自分に厳しい人だった。清く正しく気高く、まさに絵に描いたような騎士道を自分に課す人だったからねぇ)


 聖人とはいえ、ただの人であることに変わりない。

 聖遺物がどれだけ優れたものであっても、扱うのは同じ人なのだ。


 だが、周囲はそうは見ない。

 怪物、と揶揄され遠巻きに見られるのが実際の所だろう。

 彼の本来の性格を知らずとも、聖人という要素は人物評を構成するに余りある要素だった。


 シャグラは酒の入ったジョッキを揺らしながら、ぼんやりとそう呟いた。


「そういう貴様は随分変わったな。昔は浴びるように酒を吞んでいた印象だったが」

「昔ってまだ騎士団の一般兵の頃ですよ?あれからかなり年も取りましたし、減るのは当然です」

「ふむ。それもそうか」


 呆れた様子で言うシャグラに対し、プレサスはすんなりと納得し黙り込んでしまう。

 こういうところも変わらないな、とシャグラは思いながら、そっと口を開いた。


「気にしてくれてるのは嬉しいですが、あなたのせいではありませんよ」

「…………」


 どうやら図星だったらしい。

 聞きたい事があるとき、そしてそれが極めて触れにくい要件だと、彼は途端に口を閉ざしてしまうのだ。


 それは彼の不器用さを表すものでありながら、同時に優しさでもあった。

 こういったところが誤解されやすいところでもあるのだが、同時に彼が好かれる要因でもあった。


「気にしてない、と言えば嘘ですが、過ぎたことを悔やむのはやめようと思ったんです。それがどんなことであれ、今できることをしなければ置いていかれてしまうので」


 そう答えたシャグラの顔には、まだほんの僅かに悔いがあるように見えた。

 それでも。


「古い友人に言われたんです」


 その瞳だけは真っすぐ前を見据えていた。


「どうせお前は、スカーレットのことを忘れられないって。だったらまぁ、時折頭の中に彼女がないことを楽しむくらいでちょうどいいのかなって思うんです。それが彼女にとっていいのかは分からないですが」

「…………そうか」


 プレサスは短くそう答えると。

 持ってきた酒瓶を一息で飲み干し、ガコンと音を立てて地面に置いた。


「それなら、いい」


 変わらず短い言葉。


(やはり、変わらないな…………)


 シャグラは知っていた。


 彼が悔やんでいることを。

 関係のない話であっても、心を痛めることができることを。

 そしてそれは、人の上に立つにはあまりに優しすぎることを。


(皮肉かもしれないけど、団長を退いて良かったと思いますよ。あと少しでも長く聖人であったのなら、潰れてたのはあなただったかもしれない)


 今の聖人は、まさに傑物だ。


 その才能も有り方も、まさに聖人に相応しいと言っていい。

 彼ならばきっと、茨が可愛く見えるほどに長い、深い孤独に耐えることができるかもしれない。


 なにより彼には、優秀な同期が大勢いる。

 今の騎士団は、シャグラがいた時よりも遥かに優秀だ。

 気に病むだけ、余計なお世話だろうとシャグラは心の中で軽く笑った。


「それにしても、あなたがまだツーク様の元にいるとは思いませんでした」


 明るく話題を変えると、先ほど以上にプレサスの空気が重くなった。

 それを察したシャグラは、少し間を置いてこう尋ねる。


「やはり、大変ですか?」

「年相応の振る舞い、という単語は彼女にはないらしい」

「大変、なんですね」

「その言葉で表現できる範疇は軽く超えておるよ」


 遠回しな言い方でシャグラは大方の経緯を察する。


 案の定というか、彼女の武勇伝は変わらずらしい。

 自分が彼の立場に立ったら過労か心労で倒れる自信しかない。


 二人はそれから多くの言葉を交わすことはなく、ただ静かに同じ時間を過ごした。

 だが、それは言葉よりも雄弁に、それでいて濃縮された時間であった。

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