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「少しは何かを記憶していればと思いましたが、こればかりは仕方ないですね…………」
そういうと、リーゼは小さく咳ばらいをした。
「『天より四賽現れし時、神より遣われし者と龍の御子、これを討ち祓わん』」
「おお、かっこいい…………」
「これがこの世界で広く知られている神話の一文です。ざっくり言えば、四賽は厄災を振りまく存在、神より遣われし者、が聖人となります」
「その、龍の御子ってのは?」
もう中二心をくすぐるワードしかない、という単語に対し、俺はそう質問する。
「龍とは、精霊の最上位に当たる存在です。炎、水、土、風、光、闇の六つに分類され、それぞれが人の姿として転生を繰り返している、というのが通説ですね」
「はーーーーー!!なにそれめっちゃかっこいいやん!」
「ですが、その存在は秘匿されていて、実在するか真偽は不明です」
「……………………ま、そんなもんだよね」
どうやら、元の世界における神話と相違ないだろう。
というかこういった異世界にもそういう文化があることが驚きだった。
なんというか、もっとこう超常現象に近しいものに対しての印象が薄いのかと勝手に思っていた。
「次が聖人。こちらは実際に存在しており、世界に七人いるとされています。実際はそれほど多くはないとされていますが…………」
「あ、そっちはいるのか」
てっきり、そっちも神話の類で、と言われると思っていたので、少しだけ驚いた。
異世界なのだから、というフィルターを介してみると、いてもおかしくはないと感じるけども。
「我が国は聖遺物を一つ所有しており、代々、その使い手が聖人として選ばれています。これは単に武力としてだけではなく、言わば象徴としての意味が強いです」
「つまり、聖人はめちゃ強ってことですか?」
「言葉があれですが、概ね正しいです。その強さを示すには、『権能』という言葉が重要になります」
「権能?」
どちらかと言えば神様が使う力、という印象が強いが、それとはどことなく違うように聞こえる。
「権能とは、例えるなら才能を明確化したものです。ある者は料理を作るのが人より優れていたり、ある者は釣りの名人であったりと、種類は多種多様に存在するとされています」
「へー、そりゃ凄いな」
内心ウッキウキになりながら、俺はそっけなく返事をした。
ここにきて急に異世界に来たという実感が湧いてくる。
なんというか、楽しくなってきた。
「これは生まれついて備わるもので、努力では得ることも失うこともできません。また、一人に対して権能の数は必ず一つ、そして、権能を得られるのは全体のおよそ一割、とされています」
「すくなっ!?たったそんだけなの?」
「はい。あくまでおよそ、ではありますが」
なんだか、肩透かしを食らった気分になる。
それだけしかいないということは、自分がそれに該当する可能性は極めて少ない、ということだ。
確率一割は当たる気がまるでしない。
「ですので、権能を得られなかった多くの人はそれを羨ましがり、血の滲む努力の末にあるものを生み出します。それが、魔術。魔術は陣を形成することで様々な事象を発生させることができます。可能な内容は権能よりもはるかに多いのが特徴です」
「まじゅちゅ…………」
軽く噛んだことをスルーされながら、リーゼは懐からあるものを取り出す。
「これは魔術機器と言って、略称は魔器。これに魔力を込めることで様々な効果を得られます。種類は多種多様ですが、その全てを説明しているとキリがないため、今回は省略します」
「へー、これが…………」
物珍しそうに見ていたのか、リーゼがため息をつきながらそれを渡してくれた。
なんだかため息をつかれたばかりいる気がするが、気にしないことにする。
渡されたそれは、一目すればただのコインのようだった。
但し大きさは五百円玉より少し大きく、よく見れば、尖ったもので何か記号のようなものが彫ってある。
「魔器はその性能によって優劣がつきますが、一番の特徴は魔術が扱えない者でも使用できる点です。魔術適性を持つ者は全体のおよそ八割であるとされており、殆どの人が扱うことができるとはされています。一応は、魔術適性のない者への配慮としてそうなってはいますが」
八割と聞けば確かに多そうに聞こえるが、実際はそれなりの人が使えないということになるだろう。
なにより魔器の普及率を考えれば、そういった配慮をするのも当然と言えば当然ではある。
「魔器の多くは大気中に含まれる魔力を蓄えるか、人の手で魔力を込めることで効果を発揮させます。それを一旦こちらに渡してもらえますか?」
そう言われて、俺はリーゼにコイン状の魔器を渡した。
リーゼはそれを受け取ると、親指と人差し指の側面でそれを掴む。
すると、蛍のような淡い光を放ち始めた。
「おお!光った!」
「これがこの魔器の機能です。本来であれば自然に魔力を貯えるので、こういった使い方はしませんが。このお屋敷で使われているのは主にそういったタイプです」
「あ、それで浴場が明るかったのか!てっきりランプとかが裏にあるのかと思ってた」
「そんな危険でかつ不便な造りにはしません」
ぴしゃりとそう言い切られたが、こちとら記憶喪失なのだから知る由もない。
そんな風にふてくされてるのが伝わったのか、リーゼは静かに手に持つ魔器をテーブルに置いた。




