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突如現れたツークに、一同が驚き固まる中で。
辛うじて復帰が早かったのは、先ほど似た経験をしたヴァンだった。
「で、なんでシェルアの姉さんがここにいるんだァ?確かツークって言ったら」
「エルフィン王国の『外交』担当。和那の国の出身で、我が国の第五王女です」
リーゼの説明に、サトーははっとあることを思い出した。
好き勝手に外を歩き回っている姉がいる。
確か会ったばかりの時にシェルアがそんなことを言っていた気がする。
この人がその例の人ということだろうか。
ツークはニカッと笑うと。
「正解!相変わらず記憶力いいねー、リーゼちゃんは」
「有難いお言葉、ありがとうございます」
「そこはそんなことなかった気がするけど、まぁいいや」
サクッと話を切り替えると、片目を閉じてこう言った。
「君たち、ガダル王国に行きたいんでしょ?お姉ちゃんが手伝ってしんぜようではないか」
「えっ!?」
「本気で言ってるんですか?」
サトーが恐る恐る尋ねると、ツークはニャハハと照れながら笑みを浮かべる。
「そんなに畏まられると照れちゃうなー。ってか、君がサトー君かな?手配書より髪の毛少ないねー。あ、でも凄い癖っ毛だねー。これ地毛なの?」
「いっ!?」
グッと一気に近づくと、遠慮もなしにわしゃわしゃと頭を撫でられる。
背丈はサトーと同じくらいのため、その露わになった胸部が眼前に迫っていた。
記憶にある限り初めて間近に見るそれは、不思議な引力を含んでいるのか吸い込まれるように視線が外せない。
「お、お姉さま!手伝うというのはどういうことでしょうか?」
シェルアは慌ててその二人を引き離すと、無理やり話の方向を変えた。
思ってたより力が強かったのか、もしくはその行動に驚いたのか。
「…………」
少しだけ口を開いた後、思い出したかのように話を始めた。
「まー、言葉通りだよ。一応これでも『外交』担当だからねぇ。関所を超えるくらいならどうにでもできるわけ」
「お言葉ですが、そんなことすれば問題になるのでは?」
グイッとサトーを引き下げると、リーゼがそう尋ねてきた。
サトーはしばらくぼーっとしていたが、やがて顔が熱くなっていることに気が付き、慌てて手で仰ぎ冷まそうとする。
不思議そうにヴァンがサトーを見ているが、きっと知らない方がいいこともある。
「そこはほら、私が怒られるだけで済むかなって。なにより、困った可愛い妹を放ってはおけないし?そこはほら、臨機応変に対応しなきゃじゃない?」
先ほどの話にも出てきているが、シェルアは今まさに国から追われている立場にある。
そんな自分たちに、他国との関係を築くツークが手を貸すのはあまりにリスクが大きいはずだ。
だというのに、ツークの口ぶりからはまるでその気配すらなく。
むしろ手を貸すのが当然だと言わんばかりの態度で胸を張っていた。
「…………ツークお姉さまは、昔からあのような人なんです」
恐らくサトーが驚いていることに気づいたのか、シェルアがそっと耳打ちをした。
確かにあの様子であれば、城の外を歩き回っていると言われても違和感はないだろう。
ただ、シェルアが彼女を参考にしなかったことについては、言葉にするのは少しだけ憚る。
(出身が違うし、義理の姉妹ってことなんだろうな…………)
そんなサトーの感想を他所に、ツークとリーゼの話し合いは平行線を辿っていた。
今回ばかりは頼るべきではないというリーゼの意見が正しいはずだ。
彼女の手を借りてしまえば、その時点で色々と不都合があるはずだ。
サトーはそう思い、口を開こうとする。
「主殿」
すぐ後ろに立つプレサスが沈黙を破って、端的にそう告げた。
その言葉にツークはぷぅと頬を膨らませると、やがて大きく肩を落とす。
そうして見るからにつまらなそうな表情を浮かべた。
「…………はいはい。分かってますって。職務を乱用するなってことでしょ?いいよ、それならそれでどうにかなるから」
「有難うございます」
深々とお辞儀をするプレサスに対し、ツークは先ほどのハイテンションなんて存在しないかのような口ぶりでそう告げた。
なんていうか、落差がかなりあってついていけない。
「それじゃ、早速行こっか。ついてきて」
「あ、えっと、はい」
「分かりました。それであれば、異論はありません」
シェルアとリーゼは置いて行かれないようにツークとプレサスの後に続き、サトーは一瞬シャグラの方を見てから、その後を追った。
残されたヴァンはシャグラに声をかけた。
「つか、なんでさっきから黙ってんすか?」
「いやぁ、オジサンになると色々あるんだよ」
「?」
どういうわけか非常にやりにくそうにしているシャグラを、ヴァンは不審に見つめつつも、それでもツーク達を追いかけるために荷台に乗り込むのだった。




