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里の復興が粗方終わった頃、リーゼの号令により四人は一つに部屋に集まった。
「で、話ってなに?こんな明け方に集めるなんて珍しくないか?」
時刻は明け方。
まだ里の人も起きていないらしく、森全体がまだ眠っているようだった。
四人が円陣を組んで集まるには些か狭い部屋ではあるものの、他の部屋はここよりも狭く、外で話すような内容でもない、とリーゼは事前にそう話していた。
リーゼは全員が話を聞く体勢になったのを確認して、こう告げた。
「次の目的地は、ガダル王国にあるギルド『白日の虎』にしようと考えています」
ガダル王国、という単語を聞いて、サトーは思わずシャグラの顔を見た。
確か話を聞いた限り、奥さんを殺された相手の国だったはずだ。
そんなところに行くのは、彼にとって不謹慎に思えたのだ。
だが、シャグラは何も言わず、じっとリーゼを見つめていた。
シェルアもサトーと同じ想いだったのか、心配そうにシャグラの方を見ている。
しばらくしてから、シャグラが口を開いた。
「本当に、いいのかい?」
「ええ。何も問題ありません」
そのやりとりは逆なのでは、と思ったが、恐らく二人の間に何かあるのだろう。
シャグラが異論を挟まないのなら、サトーから特に何か言うことはなく、シェルアと顔を見合わせ小さく頷いた。
「因みに、そこに行く理由は?」
一応、近くも遠くもないくらいの質問をしてみる。
シャグラのことに言及しないで、行く理由を聞くのは少しだけ骨が折れた。
「一つは今回の魔獣襲撃の件で騎士団が派遣されることになったということ。もう一つは『連れなる社』がまだ解放されていないということです。これらと現状の我々の戦力を考慮した結果、『白日の虎』が管理している『螺旋楽園』に行くのが最も適切だと判断しました」
物騒な単語と平和な単語が並ぶと、どうしてか物騒な方の印象が薄くなるから面白い話だ。
『明星の狼』でみた二匹の狼を思い出す。
ラフェールと並べれば、そこら辺の犬と大差がなくなるのと同じだ。
「でも、『螺旋楽園』って確か…………」
シェルアが言い淀むと、シャグラがその言葉に続いた。
「そう。全ダンジョンで最も戦闘が多いって言われてるダンジョン。それ故に集まる冒険者はどれも実力者揃いってのが一般的な評価だねぇ」
「レベル上げしやすいから自然と強い人が集まるのか……」
「まぁ、そんなとこだねぇ。それだから『明星の狼』とよく比較されてる。『明星の狼』で腕を磨いた初心者が、修行のために『白日の虎』に行くってのはよく聞く話だねぇ」
「現状の我々はあまりに経験不足です。それを補うのであれば『白日の虎』に行くのが適切かと」
一切の異論がないため、サトーは即座に了承の意を示した。
シェルアはやる気に満ちた表情を浮かべ、シャグラはポリポリと頭を掻いた。
「それでは、早速──」
直後、コンコンとドアを叩く音がした。
誰だろうかと待ち構えていると、ゆっくりとそのドアが開いた。
「あれ?ヴァンじゃんどうかした?」
「すんませんこんな朝早く。なんだかここを出ようとしているみたいだったんで…………」
シャグラから軽く聞いたが、ヴァンの風の権能はかなり強力らしく、里の外まで大抵のことを把握できているらしい。
そんな探知能力がメインではないのだから、世の中実に不平等である。
「それで、何か御用ですか?」
リーゼが厳しい口調でそう尋ねる。
聞き慣れた、明らかに警戒している声色だった。
立場を考えれば仕方ないことではあるが、それでも共に戦ったことがあるサトーからすれば些か過剰にも思えた。
ヴァンはもじもじと、何か言いたそうにしていたが、なんだか面倒にでもなったのか、両手に拳を作ると、地面に拳を置き、膝をついて頭を下げた。
土下座の一歩手前のような態勢に、サトーは唖然とするしかなかった。
一体全体何が起きているのか分からないまま、ヴァンはくぐもった声でこう言った。
「オレを、アンタらの仲間にしてくれねェか!」
一瞬何の冗談かと思ったが、かすかに震える体と握られた拳を見て閉口するしかなかった。
彼は本気で仲間になりたいとここに来たのだ。
「別にアンタらのためってわけでもねェ。ただ、オレは強くなりてェんだ。強くなって、超えたい壁がある。そのためには、アンタらについていくのが一番なんだ!」
「それは、ここでなくてもできるのでは?」
リーゼがそう尋ねると、ヴァンは頭を下にしたままふるふると頭を振った。
「強いって意味は今のオレには分からねェ。でも、アンタらといれば分かる気がすんだ。アンタらといれば答えが見つかるかもしれねェ!ワガママなのは分かってる!でも、どうか頼む!」
更に頭を低く下げ、ヴァンは静かに回答を待った。
ふと、シェルアの方を見ると、まるで幼子を見つめる母親のような目で彼を見ていた。
シャグラはどこか嬉しそうに彼を眺め、リーゼは小さく息を吐いた。
「…………どうします、隊長?」
「え、俺!?」
「当然です。今回の件は貴方に任せましたので」
サラリと言っているが、正直荷が重い。
サトーの一言で、人の人生を簡単に決めていいのか分からない。
きっとこれは重要で、大切な局面のはずなのに、ちゃんとしたことが言えそうになかった。
そこまで考えて、サトーは伏せた顔を上げた。
「分かった。これからよろしく」
「────ッ!ありが」
「相応しくないと判断した場合、私が対応をさせていただきますので」
「…………あァ。今は、それでいいっす」
割り込んだリーゼにそう言われ、ヴァンは複雑そうな表情をするも、それでも嬉しそうにサトーの方を見た。
サトーもまた嬉しく思いながらも、リーゼの方を見遣った。
リーゼはこう見えて優しい。
だからこういったことを判断させるれば許可を出すだろうとは思っていた。
(…………?なんだ、この違和感)
なのに、その態度はリーゼらしくないように見えた。
どこか遠く、ガラスの壁を一枚挟んだかのような感覚。
そこにいて、言葉を発しているのに、まるでここにいないような。
「それじゃ、さっさと出発しようか」
そんな思考を遮るようにシャグラがそう言うと、部屋から出るようヴァンに指示を出した。
丁度ドアを塞ぐような位置にいたヴァンは、慌てた様子でドアから外に出ると、ふと何かを思い出したかのようにこちらに振り向いた。
「これからお世話になる、ヴァンっす!不束者っすけど、よろしくお願いします。シャグラさん、リーゼさん。それに、師匠!」
「……………………ん?」
呼び止める暇もなく、ヴァンは颯爽と部屋を後にしてしまった。
リーゼは何も言わず、近くに置いてあった荷物を手に取り部屋を後にする。
「これからもよろしくねぇ、師匠さん」
「ふふふ、師匠だなんて、流石はサトーですね」
続いてシャグラとシェルアがそう言い残して部屋を後にした。
どう受け止めていいのか分からないまま、サトーはしばらく部屋で固まっていると。
「ほら!さっさと行くっすよ、師匠!」
その声でようやく現実に戻ったサトーは。
「…………絶対に、やめさせよう」
そう決意を固め、急いで合流するのだった。




