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異世界に転生したら最強になって無双できるんじゃないんですか!?  作者: イサキ
第4章 エルフの里

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24

 その戦いは、熾烈を極めていた。


「らァ!!」


 両腕を振り下ろし、風の塊をトールに向けて放つ。

 それはある距離まで近づくと、紫色の稲妻によって防がれてしまう。


「むんっ!」


 トールは槌を握った腕を振り上げ、稲妻を風の塊にぶつけた。

 風の塊は跡形もなく霧散し、周囲の草を揺らす。


 だがその風はぴたりと動きを止め、直後生き物のようにトールにまとわりつき始めた。


 拘束するための技。

 そう理解するよりも早く、トールは両腕を振り広げ風を追い払う。


「────、」


 直後、後方に移動していたヴァンがその右手を伸ばした。

 殴る、のではなく掴む動作に稲妻は反応しなかった。

 すっと伸びる右手は腰に巻かれた綱へと真っすぐ伸びる。


「甘いわ!」


 それを見逃すトールではなかった。

 槌を握っていない手で、さながら裏拳のように拳を振るう。

 丁度ヴァンの頭部に吸い込まれるように放たれたそれは、あろうことか空を切った。


「……ッツ!」


 直後、頭上で稲妻が走る。

 ヴァンが放った右足の回し蹴りが、稲妻に防がれたのだ。


(テメェの性格だァ。露骨な罠でもきちんと反応してくれるって読みは正確だったが)


 問題があるとすれば、稲妻の防御は彼の不意を完全についていても防げるということだった。

 憶測でしかなかったそれは正解だったらしく、踵から痺れるような痛みが足を突き抜ける。


(自動防御で正解か。ったく、そうなると余計に厄介だなァ!)


 ヴァンはそこで動きを止めず、右手で風を操った。

 放たれたのは圧縮された空気砲の如き一撃。

 子供の実験で見せるようなおもちゃではなく、当たれば軽く数メートルは飛ばされる代物だった。


「はァッ!」


 トールは迷うことなく槌を振りぬいた。

 直後、周囲を飲み込むように稲妻が広がり、地面が円型に抉れる。

 その事象にまきこまれた空気の砲撃はトールに届くことなく形を失った。


 ヴァンは転がりながら距離を取り、再度仕掛けるために姿勢を低く構えた。

 トールの周囲は静電気の球体に包まれている状態に近い。

 そこに近づくことは、絶え間なく雷撃を浴びている状態だった。

 いくら攻撃の意志がないとはいえ、それを何度も浴びていればそれ相応に代償はある。


「…………チッ」


(悠長にやってる暇はねェ、か)


 構えた体が震える。


 稲妻は空気を伝線する。

 そんな当たり前の常識を体感したところで、事態は好転しない。


 いくら風を集め防御しても、稲妻は容易にそれを通過してくる。

 それは元から防御であると認識していないほどであった。


「いい。いいぞ貴様。やればできるではないか!」

「…………お褒めに預かり光栄だァ」


 ぎらついた笑みを浮かべるトールに、ヴァンはそう返すので精いっぱいだった。


 銚子を上げた様子のトールに対し、ヴァンはかなり消耗していた。

 あと少しで触れるところまで来ていたものの、それでもあと一歩が足りなかった。


 そしてそれは、あまりに高く。

 超える手がかりはまだ、見えない。


(ここまでとはなァ。流石にマズいかもしれねェ)


 撤退、という二文字をヴァンは即座に否定した。

 これほどの男が簡単に逃がしてくれるとは思えない。


 なにより、ここで引くことを体が拒んだ。


 勝てない。

 でも、逃げない。


 そんな二律背反な想いが胸の中で反芻していた。

 その時だった。


「──む?」

「…………あ?」


 トールの声に、ヴァンが反応した。

 戦っていた時とは異なる、何かイレギュラーが起きたような反応。


 感覚を解いている今、何が起こっているのかを知ることできない。


「なるほどな。流石は『鬼人』。退いてもなお、腕は健在か」


 そう呟くと、トールは手に持っていた槌を腰に収めた。

 その一連の動作に、ヴァンは疑問の声を上げる。


「おい?どういうつもりだテメェ」

「撤退だ。策が失敗に終わった今、ここに留まる理由はない」


 本気で言っているのか、トールは腕を組み、偽りの瞳を閉じた。

 隙だらけの彼に向けて攻撃する気にはなれないヴァンは、静かに風を広げた。


「一つだけ聞きてェ」

「なんだ?」

「アンタ、なんでオレにアドバイスなんてした?作戦ってのに支障が出ねェとも言い切れねェだろ?」


 相手を強くする必要なんてどこにもない。

 楽に勝てるのならそれに越したことはないはずだ。


 ましてこの男は、どこかの組織に所属し、何かの任を帯びている。

 その任が失敗する確率を上げる行為は、はっきり言って理解が及ばなかった。


 するとトールは鼻で笑った。


「作戦など我は知らぬ。成功しようが失敗しようが、我の関するところではない」


 あまりに適当。

 その乱雑な物言いに、流石のヴァンも閉口せざるを得なかった。

 ただ、続けた言葉はそれとはあまりに異なっており、


「我には戦う以外の事柄がない。それがつまらぬものであってほしくない。それだけの話だ」


 瞳は閉じられているのに、どうしてか寂しそうな眼をしているとヴァンは思った。

 それは、まるで全てを諦めたかのような、そんな絶望に満ちた声色だった。


「ではな。また会うだろう」


 トールはそう言って踵を返す。だが数歩先でふと足を止めた。


「?どうかしたか?」

「いや、名を聞いておらぬと思ってな。我は『トール』と呼ばれている。貴様は?」

「…………ヴァンだ。トールって名前、きっちり覚えたぜ」


 敵と名乗りあう。

 そんな奇妙な行為に、ヴァンは敵意を抱けずにいた。

 トールはふむ、とうなずくと、何も言うことなくその場を後にした。


(…………ッと)


 ヴァンは風の感覚を確かめる。


 森の外を歩くシャグラがいる。

 背中に背負っているのが戦っていた相手だろう。

 

(で、他は、と)


 そして森へと感覚を広げる。


 魔獣の姿はもうなく、サトーが忙しなく動き回っていた。

 どうやら怪我をした人たちの手当の手伝いをしているらしい。

 やたら大きな盾はなく、服装も身軽なものになっていた。

 重装備だとは思ったが、別段こだわりはないらしい。


 感覚を尖らせても死んだ人や、倒れていて気付かれていない人はいないらしい。

 とりあえずは、大きな犠牲もなく収束したようだ。


「……………………ァァ」


 そこまで理解してから。


 ヴァンは白目を剥いてその場に倒れるのだった。

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