表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界に転生したら最強になって無双できるんじゃないんですか!?  作者: イサキ
第4章 エルフの里

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

117/1176

22

 その一部始終を感じていたヴァンは、唖然とその方向を見つめるしかなかった。

 動くことで切り裂かれる風で分かる。


 あれはもはや嵐だ。

 自分があの場にいて、果たして何秒持つだろうか。


 ザッ、と音がした。

 見れば大柄の男が一歩前に踏み出した音だった。


 それで今まさに対峙していることを思い出し、慌てて拳を構える。


「つまらん」


 だからこそ、その言葉の意味を理解するのに時間がかかった。

 パチパチと瞬きを繰り返すヴァンを見て、大柄の男は大きくため息を吐いた。


「聞こえんのか。つまらんと言っている」


 絶句した。


(…………コイツは、何を言ってんだ?)

 

 今は戦いの最中だ。

 その相手、すなわち敵に対して、つまらないと男は告げたのだ。


「…………?」


 見れば明らかに敵意が失せていた。

 いや、元より敵意など微塵も感じなかったそれが、明確に小さくなったと分かるほどの変貌ぶりだった。


 男は腕を組みながら、目を見開いた。


「貴様。風の権能だろう。強力、エルフに見劣りしない。実に珍しいものだ」


 赤く宝石のような瞳は、およそ生物の持つ部位の性質ではなかった。


「だが、練度が足りん。あまりに未熟、弱き者としか戦っていない証拠だ」


 その言葉を看過するほど、彼はまだ大人ではなかった。

 全身に風を纏うと、その背後を取り回し蹴りを放つ。


「なッ!?」

「…………」


 その大柄の男は、敢えて掌で蹴りを受け止めると、紙きれのように足を掴んで投げ飛ばした。

 攻撃、と呼ぶにはあまりに威力もなく、ヴァンは容易に着地することができた。


 だが、それだけで理解してしまう。

 この男、例の防御無しで自分より遥かに強いことを。

 下手すれば爺さんよりも強いかもしれないことを。


「筋はいい。だが、それはあまりによくない」


 足を掴んだ掌を確かめるように開閉すると、改めて腕を組みヴァンに問いかけてきた。

 やろうと思えば追撃できたはずなのに、わざとしなかった。

 何か理由があるのか、とヴァンは構えを解いた。


「……どういう意味だ、それは?」


 訝しそうに睨むヴァンに対し、大柄の男は鼻を鳴らした。


「言葉通りの意味だ。この場に及んでもなお、それを辞めようとしない」


 それ、と言われても心当たりがまるでなかった。


 シャグラは何かと戦っているし、里の様子も落ち着いてきたらしい。

 なんかやたら血の気が増しているのは気のせいだとしても、それが事態を好転させている。

 さっきから魔獣の追加も止まっており、この調子なら死傷者を出すことなく収束するだろう。

 あとは自分がこいつを──。


「それだ。貴様、この場に及んで全てを把握しようとしている。それでは貴様はそのままだ」

「はァ?」


 訳が分からず、そのまま聞き返してしまう。

 大柄の男は、先ほどまでの寡黙さを微塵も感じさせない調子で話し続ける。


「確かにそれは貴様の強みかもしれない。だが、そのせいで目の前の敵に集中できていない。戦っている中で、他のことまで考えているのは、複数の事柄を同時に作業しているのと同じだ」

「注意力が散漫だって言いてェのか?」

「左様。今の貴様では手に余る才能だ。弱き者と戦うのであればそれは役に立つだろう。だが、強者との戦いにおいて、それは邪魔でしかない。そんなことをしている余裕が、貴様に本当にあるのか?」


 そう言われて、ヴァンははっと息を呑んだ。


 シャグラにも同じことを言われた。

 最初、攻撃と防御の配分が良くないのだと思っていた。


 それは、ある意味では合っているのかもしれない。

 だけど、それだけではなかった。


 周囲の把握は、できるからしてきた。

 それを苦とも、面倒とも思ったことはない。

 それ故に盗賊の探知ができていたし、倒すこともできていた。


 だけど、強者とのタイマンにおいて、それは余計だった。

 周囲を把握することは重要でも、他人に気を使っている余裕なんてない。

 それは強く、力のあるやつがやることだ。


 はっきり言って、今の自分では力不足なのだ。


「…………確かに、アンタの言う通りだなァ」


 だから、ヴァンは感覚を解いた。

 全てを把握しておこうとするのを辞め、ただ目の前の相手にのみ全神経を集中させる。

 シャグラとサトーなら、なんとかしてくれると信じることにした。


 それを見た大柄の男は満足そうにうなずき、汲んでいた腕を解いた。

 手には小さな槌が握られ、その瞳は炎のような無機質な光を湛えている。


「それでいい」


 二人は、周囲を捨てた。

 その他を捨てた。

 己以外を、捨てた。


 全身全霊を持って戦う。

 そのためだけに命を注ぐために。


 彼らは世界に、二人きりになるのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
お読みいただき有難うございます
気に入ってくれた方は『ブックマーク』『評価』『感想』をいただけると嬉しいです

☆☆☆現在更新中の作品はこちら☆☆☆
墜星のイデア ~生まれついて才能がないと知っている少女は、例え禁忌を冒しても理想を諦められない~
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ