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地面を転がったヴァンは、口の中に感じる血の味を確かめつつ距離を取った。
「…………ってェな、クソが」
それは相手に対してのものであれ、自分に対してのものでもあった。
戦況は劣勢だった。
ヴァンは最初から全力で仕掛けていた。
シャグラとの一戦で、自分の実力はそれほどではないと自覚していたからだ。
それ故に、どんな相手であれ全力で行くべきだと考えたのだ。
だが。
「おやおやおやおや、威勢しか勢いがありませんが」
「黙ってろクソ野郎が」
ヴァンの全身には焦げた跡があちこちに残り、対する二人組は一歩たりとも動いていなかった。
(小さい方は何もしてねェ。問題はあのデカいほうだ)
ヴァンは再度飛び掛かると、その背後を取り右足での回し蹴りを放つ。
だがそれは。
「ッ!?」
バツン!という音と共に弾き返されてしまう。
突き抜けるような痛みを無視して、ヴァンは続けさまに左足の後ろ蹴り、更に右足での胴蹴りを放った。
「ッァ!?」
しかしそれも、バツン!という音と共に弾かれ、態勢を大きく崩す。
(まずッ!?)
直後に迫るそれを防ぐために、ヴァンは両腕を十字に組んで防御の体勢を取る。
結果は、すぐに来た。
「──────ッッ!?!?」
四度。
バツン!という音と共に、ヴァンの体が遥か後方へと吹き飛ばされる。
地面を転がりながらも、ヴァンは歯噛みしながらそれを睨みつけた。
(あの槌、魔器じゃなくて遺物の類だろうなァ…………死角からの攻撃すら防ぎやがるとか、マジで当たる気がしねェ)
二人組の周囲に、紫色の稲妻が漂っていた。
それは帯電する雷雲のように二人の周りを漂い、時折バツン!と音を立てる。
焦げた箇所から出ていた黒い煙を風で消し、再度それを確認する。
(自動防御付きの、中近距離武器ってトコだろうなァ…………風でガードしても、当たり前のように貫通してきやがる。そりゃ、落雷も空気を通って地面に落ちんだから、ある意味じゃ当然だがなァ)
突破口が見当たらない。
今の段階では、あの遺物を突破する手段が思いつかない。
それ以上に問題なのは、あの大柄の男は今のところ何もしてないところだ。
時折槌を手放した、かと思えば眼前にそれが迫っており、吹き飛ばされると槌は大柄の男の手の中にある。
風で動きは察知できても、速度と膂力のせいで対応が間に合わないのだ。
「……さーてと。どうすっかなァ」
シャグラにはあしらわれ、コイツには攻撃すらできていない。
力量差は明確だが、それにムキになって特攻するほど馬鹿ではなくなっていた。
少なくとも、以前の自分なら迷わず突貫し続けていただろう。
「そんなとこで眺めてても、こいつの防御は突破できないんじゃない?」
やたらと小柄の方が煽ってくるが、正直どうでもよかった。
むしろ下手に反応して加勢に加わられるほうが遥かにマズい。
煽るだけで済むなら、今は言わせておけばいい。
(問題なのは、風が効果的じゃねェってトコだ。動きの先読みだけはできてっから、辛うじて致命傷は避けられてるが、それも時間の問題だろうなァ)
風を使った攻撃も、それを纏った物理的な攻撃も、全てあの雷の防御に阻まれてる。
自動だからか不意を衝くことも難しいだろう。
いっそのこと竜巻を起こして閉じ込めても、その後の有効的な攻撃がないのであれば無駄でしかない。
「ほらほらほらほら、何かしないと負けちゃうよ?いいのかな?」
うるさいが、それでいい。
言っていることは間違っていないのだから、放置しろ。
今はただ、あの防御をどうにかすることだけを考えろ。
そう意識を集中させようとした、次の瞬間だった。
「な、なんだァ?」
背後。
敵と向き合っているのに、思わず振り返ってしまうほどの衝撃と土煙が見えた。
かなり遠く、ここからでは見えないくらい離れているのに、頬を叩いた衝撃はひしひしと伝えてくる。
小柄の方は器用にステッキを回すと、つまらなそうにそれを睨んでいた。
「あーあ。こりゃダメかな」
そう言うと、右手に展開していた魔術陣を消し、くるりと踵を返した。
「オイ!どこ行く気だテメェ?」
ヴァンがそう尋ねても、マジシャン姿のそいつはこちらを振り向くことなく。
「あとは任せるよ、『トール』」
肩をポンと叩くと、一瞬のうちにその場から消えていた。
感覚で捉えられないということは、転移魔術の類だろう。
あらかじめ用意していたか、魔獣を送り込むための魔術陣を自身で使ったか。
どちらにせよ、既にヴァンの感覚下からはいなくなっていた。
「…………オイオイオイ」
爆発音が連続して、絶え間なく起こる。
何かが猛烈な勢いで暴れている。
だけど、それが何で、どうしたらあんなことになるのかはまるで分からなかった。
(って、マジか。よりにもよってそういうことかよ。道理でオレの風を突き破れるわけだ)
感覚を尖らせると、片方の人物は特定できた。
今まさに相手している人物と同じ、圧倒的に強い人物。
以前戦った時は、恐らく実力の殆どを出していなかったのだろう。
明らかに纏っている空気が違った。
もし仮に最初からあぁだったら、間違いなく喧嘩なんて売っていない。
「…………」
大柄の男は隙だらけのヴァンの背中を見ても、何故か何もしようとしなかった。。
どうしてか分からないが、常に閉じられている瞳は、ただ真っすぐにこちらを見ているように見えるのだった。




