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一日が経過して。
「…………よし、行くか」
サトーはひとまずヴァンに会って話すことにした。
到着した日は用意された自室のベットの上で暴れまわり、しばらくしてから自分の荷物がシジマの荷車に積んだままなのを思い出し、簡単に散策しながらそれを回収。
やったことはそれくらいで、食事は里の長老らしき小さなおじいちゃんが準備してくれたものを頂いた。
正直味はそこまでだったが、文句を言える立場ではないので勢いで完食した。
「…………で、だ」
里の中は随分とファンタジーな要素に満ちていた。
ちゃんとした道はないものの、木と木を繋ぐ釣り橋と、その木の幹に張り付くように建てれらた家の数々は、どれも個性があって見ていて飽きなかった。
食堂や、工房などの、大勢の人が集まる場所や、火を扱う仕事の家だけは地面に建てられており、それ以外には簡単な露店などもあった。
近くにシジマがいたから、きっと外で買い物をしてきたのかもしれない。
閉鎖的な環境下でも、一定周期で外と連絡を取っているらしい。
(本当はもうちょっとゆっくり観光したいけどな…………)
本来なら数日は滞在しても構わないのだが、ヴァンを仲間にしない場合、里の提案を断ることになる。
そうなると数日も滞在すれば多少なりとも情が湧いて、断りにくくなりそうというのがサトーの考えだった。
尤も、リーゼの発言を無視するほどの度胸がないだけ、というのもある。
なんだかここ数日は妙に機嫌が悪い気がする。
シェルアの看病がそれに追い打ちをかけていると思うのは自分だけではないだろう。
(一晩考えても、説得する文言思いつかなかったな…………)
人気がなくなった辺りで、大きく肩を落としてため息を吐いた。
狭い部屋で暴れ狂っていたのは、これが原因である。
(大体どう説明すりゃいいんだよ…………里の連中から嫌われるから一緒に来ない?とか不謹慎にもほどがあるだろ)
嫌われてることにわざわざ触れて説明するなんて性格がねじくれ過ぎている。
なにより、自分がされたら絶対に仲間にならないし、怒って追い払う。
でも、仲間に誘う理由もないのも事実だった。
シャグラ、という非常に頼もしい人物を仲間にしたうえで、更に人数を増やす必要があるとは思えない。
時折、まだ素行に難があるかもしれないけど、だとしてもリーゼがいれば大抵のことはなんとかなるだろう。
シェルアだって、ナマク村での一件で戦えるのは証明できているのだ。
敵襲に備える点でも戦力的に問題はないはずだ。
「はぁ、参ったな…………」
「なーに辛気臭い顔してんだアンタ」
頭上から不意に声がしたかと思うと、木の上からヴァンが降りてきた。
「うおっ!?びっくりさせんなよ!?」
「あァ?そりゃ、なんだ。悪かったな」
なんだか妙に素直というか、いやこんなこと言ったら確実に怒られそうだと考え、どうにか当たり障りのない言葉を選ぶ。
「えっと、なにしてるの?」
「なにってバトってきたトコだ。戦果はねェけどな」
見れば服のあちこちに血痕が残っていた。
相変わらず野蛮というか、よほど戦うのが好きらしい。
その感情だけは一生理解できないだろうなと思った。
痛いのも危ないのもできればごめん被りたい。
「そういや、昨日アンタんとこのシャグラって奴と話したんだが」
別れる理由もなく、サトーとヴァンは同じ方向へと向かっていると。
数歩先を歩くヴァンがくるりとこちらを振り向いた。
「アンタ、オレのことを勧誘しろって言われてんだって?」
「…………」
流石のサトーとて、今回ばかりは完全に思考が停止した。
考えるに、前もって伝えておけば話が進みやすいと考えたのだろう。
(確かに、確かにその通りだろうよ。いきなり面と向かって「仲間にならない?」なんて聞かれても、即答できる奴なんてまずいないだろうからな)
だけど。
だけど、だ。
(だからってなんで相談しないかなぁ!?俺に決定権を託してるんだったら、まず俺に話をするのが筋なんじゃないの!?つーか、そこまで話を進めてるんだったら、俺いらなくないか!?)
飄々と笑うシャグラの顔を思い出し、サトーは心の中でそう絶叫する。
そんな様子を見ていたヴァンは、呆れた様子で笑みを浮かべた。
「アンタ、嘘つくの下手すぎるだろ…………いや、そもそも隠すつもりもないって感じか」
「…………すまん」
「いいさ別に。嫌われるのは分かってっから」
軽くため息をつくと、ヴァンはサトーを自分の家に案内した。
相変わらず物が散乱した部屋だったが、前回よりは物が減っていた。
きっと整理したのだろう。相変わらず物は多いけど。
「先に結論だけ言っとくぜェ」
「、うん」
「どっちでもいい、だ。アンタらについていくのも、そうじゃなくてもな」
ソファに深く腰掛けたヴァンは、斜め上を見上げながらそう言うのだった。




