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そんな小気味いい音を聞きながら、シャグラは用意された部屋へと戻る。
「…………ま、聞いてたよりはずっとマシかな」
盗賊狩り、という名前は事前に聞いていたし、エルフの里の人間だということもナマク村で聞いていた。
仲間にしてほしい、という打診も、シャグラからすればそれほど予想外でもなかった。
エルフの里の体質を考えれば、そういう対応をすると推測するのは容易い。
なにより、タイミングがあまりによすぎる。
ナマク村の属するギルドを見れば、誰が画策したかは一目瞭然のことだ。
だが、そんなことよりも。
シャグラには気になることがあった。
(噂には聞いていたイレギュラー。思ってた以上の代物だねぇ)
風の権能。
エルフの最大の特徴であり、かつ強力な権能だ。
操るのではなく、制御する。
魔術でやろうとすればどれだけの魔力が必要か分かったものじゃない。
なにより、風を制御する権能はエルフにしか発現しない。
それこそエルフに敵が多い最大の理由である。
(権能は明確化された才能だ。だから権能の程度は、文字通り個人に依存してる。努力で多少なりとも改良はできても、目に見えるほどの変化はまず起きない)
風を制御する、言っても実に様々な程度がある。
簡単なそよ風を起こすくらいの者から、帆船を操作することができるほどの者もいる。
そしてそれは、鍛錬ではどうにもならない、まさに生まれつきの才能。
ある意味では、魔術よりも遥かに残酷な仕様だ。
(彼は多分、森全体に風を届かせることができる。それも、ただ広げるんじゃなくて、細かな制御も加える形で、だ)
あの少年は、一瞬で竜巻を起こせるほどの量を使いこなし、しかも里の連中に悟られないギリギリのラインで行使していた。
もし客人と戦っていることを知られれば、何を言われるか分かったものではない。
恐らくすぐに止めに来ていたはずだし、僅かな揺らぎでも気づかれる可能性は高い。
恐らく里の連中の動きを常に察知し、そのギリギリを見極めているのだろう。
それだけの制御ができるのなら、遠く離れた距離にいる盗賊の襲撃を感知できてもおかしくない。
ただそれは周囲数十キロが、彼の風の制御下にあるということ。
それでいて、彼の才能はまだまだ未熟。
少なくとも、生身のシャグラでも戦えるくらいには、隙も弱点もあった。
(恐ろしいねぇ…………)
だが、逆に言うならば。
彼はその状態で、それだけのことができるのだ。
はっきり言って、それは人一人の権能の限界を遥かに超えている。
(そりゃ里の連中も嫌うわけだ。粗削りで不格好、お粗末な操作でアレなら、普段から訓練しているエルフの人たちからしたら薄気味悪いだろうねぇ)
同じ風を司る権能を有しているのに、やってることはまるで違う。
同じ質と量の勉強をしているのに、テストの結果がまるで異なるのと同じ感覚だろう。
理解はできても、理屈は分からない。
ただただ、結果だけは明確に存在している。
そんな不気味な存在に加えて、そもそもエルフではないのだ。
煙たがるのも無理はない話である。
(受けた両手はまだ痺れてるな…………もう少し長かったら、負けてたかもねぇ…………)
ブランク明けで体を酷使させたからか、あちこちが悲鳴を上げていた。
シャグラはそれを検分するように、丁寧に動かし調子を確かめる。
(とはいえ、彼に構っている余裕もない。彼の処遇については、任せるしかないかな)
最大の懸念事項。
それに対応するために、シャグラは帰路へとついたのだった。




