12
そうして連れていかれた部屋は、想定よりも情報量が多かった。
ベットで寝込むシェルアの看病をしているリーゼがいて、ヴァンという少年がエルフではなく、更に自分たちの仲間にして連れて行ってほしいと頼まれたこと。
そしてここに来る前に自分たちを襲撃したのは彼だということで、常習犯だということ。
ひとまずそれらの情報をなんとか呑み込むと、サトーはこう言った。
「そんな理由であいつを仲間に引き入れるわけにはいかないだろ」
その発言にリーゼは静かに頷き、シャグラもまた同意の意を示した。
「そうだねぇ。彼に聞かないことには判断できないし、そもそも冒険者になりたいのかどうかすら分からない状態だからねぇ」
「つーかそもそも、なんで追い出したいんだよ?確かに外で暴れてるのはあれだけど、でも悪いことをしてるわけじゃなくないか?」
「それはあくまで彼らが悪人だと周囲が認識している場合です」
リーゼの発言に、サトーは眉を顰めた。
それを見たリーゼが言葉を続けた。
「この国での犯罪はそれほど厳しくありません。治安維持は基本的に村、およびギルドに一任しています。ですので、人里離れたところで発生した盗みや殺しを、基本的には裁くことはしません。それができるほどの規則も仕組みも持ち合わせていないからです」
「被害者が声をあげるか、よほど好き勝手しない限りは対処できないってのが実際のところでねぇ。そもそも軍隊を持っちゃいけない以上、下手に武装することも、犯罪者を裁く組織を作ることもしづらいってわけ」
犯罪者は取り締まる相手に従順とは限らない。
中には抵抗し、反撃してくる者もいるだろう。
そういった状況を対処するには、反撃されないくらい武装するか、もしくは対処できる装備を身につけておくかのどちらかだ。
ただ、それだと交易の面で不利益を被る。
治安と利益を天秤にかけ、この国では利益を優先しているのだ。
「だから、ギルド証を持ってる冒険者は安全なのか…………」
こういった事情がある以上、個人による自己防衛が基本なのだろう。
だからこそ、身分を明確にできるギルド証は価値があがるらしい。
「ですので、盗賊などの顔を完璧に覚えている人は殆どいません。覚えてもキリがなく、街中で人を襲うほど愚か者はギルド『闇夜の牛』に拘束されています。そんな彼らを狙って襲撃していても、逃げ延びるだけの技量がある連中ならば、何食わぬ顔で酒場に入り周囲に言うのです。「野盗に襲われた」と。そうすれば、彼らは襲撃を受けた哀れな被害者となれます」
集団の意識は容易く操作できる。
外で聾籍を働く者ですら、家ではその一面の欠片すら見せたことがないこともしばしばだ。
そしてそれは、閉鎖的な環境でこそ起こりやすい。
「俺らみたいに手配書が回っていたりしないの?」
「することにはしますが、それでもやはり後手なのが実際の所でしょう。なにより、そんなことに労力をかけたところで、この国の治安がそれほど良くなるとも言えません。他国から見れば我が国は『平和ボケした国』ですので、そういった悪事を働く者は少なくないのです」
本音を言えば、悪人はきちんと裁かれてほしい。
だけど、それをするのにも人手がいるし、お金もかかるのは分かる。
労力をかけても、犯罪が減る可能性は低く、実際そういった存在のおかげで冒険者の仕事が増えているのも事実だ。
難しい。
あまりに問題が山積している。
ぶっちゃけ、サトーがいくら考えても解決する手段は、ない。
「それで、エルフの里の人間を外に出すことよりも、里の汚点を排除したいってわけか。なんだか窮屈というか、居づらいとこだな」
「古くて、閉鎖的な環境だからねぇ。そのおかげで少ないながらも生き延びてるわけだし」
集団意識というものは簡単に人を変える。
その流れに抗うのは基本的に不可能だろう。
誰かが言った『価値観』がいつの間にか『常識』になっているなんてのはザラにあることだ。
例えば日本では葬式の際に喪服を着る。
これは基本的に黒一色が好ましいとされているが、元々は白一色が正装だったのだ。
これが時代を経て黒に変化したように。
常識なんてものは実に脆く、背景を見たら割となんてことなかったりもする。
だからきっと、里のメンツを保つこともそういうことなのかもしれない。
「今回の件はあなたに一任します」
リーゼがはっきりとそう言うと、返事を待たずに言葉を続けた。
「私はお嬢様の看病で手が離せません。彼を仲間にするかしないかはあなたが決めてください。判断に悩むのならシャグラ様の手を借りるといいでしょう」
「いやいやいや、こういうのって普通四人で話し合わない?それに、一度失敗してるしさ」
流石に独断で決めるのは荷が重すぎる話だった。
シャグラの意見を聞いていいとはいえ、それでも判断するのは自分がしろ、ということらしい。
「いいんじゃない?君が決めるなら、オジサンは何も言わないよ」
隣で無責任にシャグラが言うが、実際の所責任を負いたくないだけなのではと疑いたくなる。
それに、シャグラを勧誘する際に、サトー自身は何もしていないと思っていた。
それでまた託されるのは、なんていうか、不安しかない。
「ひとます、ギルドからの依頼は完了してます。あとはお嬢様の体調が回復し次第出発しましょう。それまでに答えを出しておいてください」
そうして話は半ば強引に終わりになってしまう。
リーゼはシェルアの寝ている部屋に向かい、シャグラは鼻歌交じりに外へと出てしまった。
残されたサトーは。
「…………どーすっかなー」
ぽつんと座り込んだまま、その場から動けなくなっているのだった。




