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そうしてシャグラがたどり着いたのは、里の奥、ほんのすこしだけ離れた位置にある木の洞に作られた部屋だった。
部屋数は五つほどあるが、ベットが二つ並ばないくらいの狭い部屋しかない。
そして、一番左の部屋に彼女らはいた。
ベットに寝ているシェルアの意識はないらしく、近くに座っているリーゼがこちらを振り向いた。
「荷物ありがとうございます」
「どう?調子は?」
「あまり芳しくありませんね…………眠ってからも熱が上がり続けています。体力もですが、恐らく相当に魔力を消耗していたのかと」
「彼女の権能は少しだけ特殊だからねぇ」
シャグラは手に持っていた荷物をリーゼに渡すと、ベット下に置かれていた水の入った金属製の桶に気が付いた。
「水、変えてこようか?」
「お願いします。できれば、中に入っている布を洗ってくださると助かります」
一瞬シャグラの動きが止まるも、軽く返事をして部屋を後にした。
螺旋を描くようにして作られた階段を降り、すぐそばの沢で水を捨て、布を洗う。
(さて。どうやって名誉を挽回しようか…………)
再度水を入れなおし、部屋に戻ろうとしたところで声が聞こえてきた。
「だーかーらァ!コイツの仲間がいるんだッての!オレはただその案内をしてるだけだ!」
「そんなこと信用できるものか!だいたい、その男はどうやって結界を通ったんだ!」
「んなもんオレが知るわけねェだろバカが!」
「なっ…………!?貴様言い方ってものがあるだろうが!」
「テメェらが言うなテメェらが!だいたいこんな森の中で引き籠るしか能のねェ臆病モンが、いっちょ前なこと言ってんじゃねェぞ!」
「なにおう!言わせておけば貴様ぁ!」
「上等だ!この際だぶっ飛ばしてやるよォ!」
どうやら里の人同士の喧嘩らしい。
よそ様の喧嘩を仲裁するほどのお人よしではないものの、その後ろでアワアワしている、特徴的な髪型の盾を背負った人物に気が付き、苦笑いを浮かべた。
(彼もまた、随分と厄介な星の元に生まれたのかもねぇ)
シャグラは手に持っていた桶を部屋のある木の麓に置くと、やや急ぎ足で騒ぎの中心へと向かった。
騒ぎはどうにもこうにも収まる気配がなく、周囲の木々が一気に騒めき出した。
お互い権能を使おうとしているのか、額を負いつけ合いながらにらみ合いを続けている。
「ちょ!ちょいタンマ!流石に待って!」
すると、そこの間に割って入る人物がいた。
盾を地面に捨て、無防備の状態でにらみ合う二人の間に入ると、宥めるように何度も振り返る。
「都合悪いなら外でいいし、なにもこんなことで喧嘩しなくてもいいから!つーかヴァンもそんなにムキにならなくてもいいじゃんか!」
「ムキになってねェ!」
「なってるんだよ!」
いつの間にか止めに入った青年と、ヴァンという少年の睨みあいに移行しており、ヴァンと睨みあっていた人物が怒声をあげた。
「…………無視を、するなぁ!」
「え?」
その人物はグンと腕を振り下ろし、その動きに合わせるようにして風の塊が彼に振り下ろされた。
風の権能で作られたそれは勢いよく青年へと向かうと、直後に土煙と轟音が響いた。
「…………いくらなんでも、それはやりすぎじゃない?」
直後土煙からシャグラが姿を現した。
地面は大きくへこんでいたものの、青年もヴァンも傷一つ負っていない。
シャグラが二人の前に割り込み、迫るそれを消し飛ばしたからだ。
ヴァンという青年は一瞬訝しそうな表情を浮かべるも、誰なのか気づいたらしく、慌ててその場からいなくなった。
一方、当たると覚悟して頭を抱えしゃがんでいた青年は、その攻撃から身を守ってくれた人物に気が付いた。
「シャグラ……!?」
「随分無茶するねぇ、サトー隊長」
隊長、と呼ばれたことで周囲にいた人たちからどよめきが起こる。
どうやらシャグラよりも偉い、もしくは強い人だったかもしれない。
そんな相手に対し失礼にあたる態度をとってしまった、そんな反応だった。
シャグラはそれを見逃さずに確認すると。
あっけにとられているサトーに視線を向けた。
「いや隊長ってお前…………」
「いいからいいから。それで、ここの長はいるかな?」
すると、人ごみをかき分けるようにして、一人の老人が姿を現した。
それは先ほど、シャグラ達を迎えてくれた人物であった。
「彼は僕らのリーダーでねぇ。滞在許可が欲しいんだけど?」
「分かりました。お仲間であればなおさらでございます」
先ほどの人物はどこか気まずそうにすると、やがて早足でその場から離れてしまった。
それを見届けたシャグラはにっこりと笑みを浮かべ軽く会釈する。
「ありがとうございます。それじゃ」
「いや、ちょ、どうなって…………」
説明を求めようとするサトーに近づくと、ぐっと顔を近づけ耳打ちする。
「ここだと人目が多すぎる。話はそこで」
小さく、それでいて素早く伝えると、シャグラはサトーの肩を組みながら、ひらひらと群集に向けて手を振りながらその場を後にした。
老人を囲う連中は、それをただじっと見つめ続け、二人が部屋に入るのをきちんと確認してからその場を後にしたのだった。




