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異世界に転生したら最強になって無双できるんじゃないんですか!?  作者: イサキ
第4章 エルフの里

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9

 時間を同じくして。

 サトーは、偶然出会ったヴァン、という人物の家にお邪魔していた。


「適当に座っててくれ。茶くらい用意すッからよ」


 そう言うとヴァンは奥へといなくなる。

 案内された部屋はお世辞にも綺麗とは言えない場所だった。

 ソファとベット、あとは小さな本棚しかない簡素な部屋には、おおよそ他人のものと思われる物品が無造作に置かれていた。


 短剣、指輪、鎧の一部に、ネックレス。

 高級そうなものから、見るからに安物のものまである。

 中には地図や本まであるのを見る限り、明らかに整理されていない。


 サトーは入り口の傍に盾を立てかけると、比較的物が少ないソファに腰かけた。


「これは君の私物?」

「そりャ戦利品だな。盗賊襲って近くの街で売ってるのさ。丁度選別してたんで、ちっとばかし汚れてるってだけだァ」


 乱雑に物を蹴飛ばすと、コップに入ったお茶をサトーに差し出した。


「ありがとう」

「味は期待すんなよ。適当に作ったやつだからなァ」


 そう言われて口にすると、世辞でもあまり美味しいとは思えない味だった。

 それでも決して飲めないほどの味でもないため、なんとか一息で飲み干す。


「んで、なんでこんなとこにいやがんだ?」


 ヴァンは床に胡坐をかくと、そう尋ねてきた。

 サトーは簡単にこれまでの経緯を説明し、エルフの里に用事があることを伝えた。

 

 ヴァンは少しだけ顔を顰めると、どこか拍子抜けした表情を浮かべる。


「そういうことか。そりャ災難だったなァ」

「まぁ勝手に行動した自分が悪いから…………」


 動かなければ合流できたことを彼は知らないものの、少なくともこんなことになっている事態を鑑みれば、動いたことが間違いだったことは明確だった。


「それで、よかったら案内してくれると助かるんだけど…………」

「そういうこったなら構わねェ、が」


 歯切れ悪くそう言うヴァンは、顔を背けつつこう告げた。


「オレ、里から追放されてんだわ」


 どういうことかと尋ねようか迷っていると、ヴァンがその間に言葉を続けた。


「オレは強くなりてェ。でも一人で鍛錬すんのは限界があった。誰かと戦いたいけど、里の規律では外に干渉するのはアウトなんだそうだ。だから、戦っても迷惑にならねェ連中を狙うことにしてんだ」


 それでも、規律を破っていることに違いはない。

 だからヴァンは、里から少し離れた位置に一人で生活しているらしい。


「オレは外れ者でな、エルフじゃねェんだわ。エルフじゃねェのに、里のどの連中よりも風を操る力が強い。だからまァ、嫌われてんのさ」


 なんてことないように語るヴァンの表情は決して明るいものではなかった。

 そのことに気付いたサトーは、敢えて違う話を振る。


「一つだけ聞きたいんだけど、風の権能と風の魔術って何が違うの?」

「…………はァ?オマエそんなのも分からねェのかよ」


 多分この世界では常識なのだろう。ヴァンは信じられない様子で口を開いている。

 きっと人と会ったら挨拶をするくらい、当たり前のことなのだろう。

 生憎そんなことを知る由もない。


「しゃーねェーな。見とけよ」


 そう言うとヴァンは右手の掌を正面に突き出した。

 するとどこからか風が集まりだし、やがてそれは目に見える形、球体へと変化する。


「よっと」


 ヴァンはそう呟くと、球体のそれを前方に射出した。

 それはややゆっくりと進むと、壁に当たった直後、突風を起こした。


「うおっ!?」

「これが魔術の場合。んで、こっちが権能の場合」


 そう言うとヴァンは近くに置いてあった甲冑の兜に手をかざす。

 すると何かに掴まれているかのように兜が宙に浮いた。


 ヴァンがかざした掌をぐっと握る。

 直後メキメキと音を立てて兜が小さく、アルミ缶のように潰されてしまった。


「これが権能。簡単に言えば、簡単だけど用途が少ないのが魔術、複雑だけど応用が利くのが権能って感じってトコだなァ。どっちが優れてるかっつーと、まァ場合によるだろなァ」

「すげー…………」


 しれっとやっているが、兜をあんな風にぺしゃんこにしているだけで十分凄かった。

 どっからどう見ても金属で作られた代物だろう。

 あれを人に向けてやるのを想像するだけで、ぶるりと背筋が震えた。


「言っとくが、こんなこと人相手にはできねェよ」


 ヴァンはそう言うと、差し出していた手を確かめるように動かす。


「さっきのは自分の家で、しかも置いてある無機物だからできただけだ。外で、しかも絶えず動く生き物相手じゃ狙いが定まらねェ」

「そういうものなのか…………」


 きっと一生分からない感覚だけに、そう適当に返事をするので精いっぱいだった。


「つか、なんでエルフの里が排他的なのか知ってんのか?」

「確か、四賽と交易のせいだって聞いたけど…………」

「それもあっけど、一番は大海に漂う霧のせいだな。その霧はちと特殊なモンらしくて、魔力を多量に帯びてるらしい。そのせいで、霧の中では魔術が使えないそうだ。ついでに、海の流れはめちゃくちゃだから流れに任せてると即大破。だから風を操る権能がどこも欲しいってわけらしい」


 そこまでして交易をする必要があるのかは疑問だが、現状風を起こす手段は権能だけらしく、それができるのはエルフの人だけらしい。

 探せばいるような気もするが、そこは多分権能の強さや内容の都合だろうか。


 だとしても、権能が使えるのであれば、海域を鎮める、例えば流れを穏やかにするといった手段を取ってもいい気がするのは気のせいなのだろうか。


「それ以外にも人以外の種族は嫌われやすいからな。エルフは特にそうらしいぜェ。ま、他の国に行ったことがねェから、そこらへんは知らねェけどよ」


 カラカラと笑うヴァンは胡坐をかいたままその場に寝ころぶ。


「オマエ、冒険者だろ?他の国には行ったことあんのか?」

「いや、それはまだ…………」


 するとヴァンの顔が見るからに曇った。

 理不尽に思えるが、なんでか申し訳ない気持ちになるから不思議な話だった。


「んだよつまんねェ。それならダンジョンはどうだ?」

「一応『明星の狼』の本部には行ったかな。ダンジョンは、まぁ、色々あって」

「確か崩落事件だったか?倒した盗賊が持ってた紙に書かれてたな」


 その当事者としてはまるで異なると伝えたいのだが、恐らく何か理由があってそういうことにしたのだろう。

 なによりサトーにとってもあまりいい思い出ではなかった。


 全体的に痛い記憶しかない。

 心なしか腹部が痛む。


「ま、いいや。それよりもなんか話しろよ」

「いやなにその無茶ぶり」

「オマエを案内するのに、気が向かねェんだよ。それまで退屈だからなんか話せ」


 中々な無茶ぶりだったが、頼みごとをしている以上断るわけにもいかなかった。

 サトーは少しだけ唸ると、これまでの道中のことを断片的に語るのだった。

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