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「あの、どこかでお会いしましたっけ……?」
首を傾げるサトーに、少年は内心でこう突っ込んだ。
(まさかコイツ、気づいてねェのか…………!?)
わざわざ森を抜けてきたということなら、理由は間違いなく仕返し。
そう思い込んでいた少年からすれば、まさか相手が迷子になって、偶然ここに来れたとは到底想像もできなかった。
少年は餌をねだる鯉のように口をパクパクとさせると、わなわなとサトーを指さした。
「てめェ…………まさか何も覚えてねェのか…………?」
「そ、そうなんだよ!実は記憶喪失でさ!」
何故かさほど興味もない個人情報を開示され、思わず少年は呆気にとられかける。
(…………いや、待てよ?)
そこで気づいた。
(コイツ、もしかして囮か?)
あまりに無防備すぎる態度に、一切の警戒心の無い立ち振る舞い。
そして、やたらと腕の立つ仲間と行動を共にしていた。
であれば、可能性は一つ。
相手はコイツを使うことで、オレの居場所を探ろうとしているのだ。
(アブねェ…………あのメイド女、見かけによらずえげつねェ作戦を考え付きやがる。その不釣り合いな盾も、自分の身は自分で守れっつゥことかよォ)
サトーの知らぬ間に、少年は同情と憐みの思いを彼に送る。
そうと分かれば、長居させる道理はない。
さっさと里に送り付けて、煮るなり焼くなり好きにさせるのが適当だろう。
「…………まァ、別にいいや。オレはヴァンってんだ。よろしくな」
「よろしく。で、俺の名前とか知らない?」
何故か期待の眼差しを向けられ。
少年はぽかんとした表情を浮かべると、こう答えた。
「あァ?んなもん知らねェよ。他の連中に聞けばいいだろ?」
「…………あ、そ、そっか。分かった。ごめん」
何故か肩をがっくりと落とすと、申し訳なさそうにそう謝られ。
ヴァンは特に悪いことをしていないはずなのに、何故か罪悪感を感じていた。
「なら、サトーで。知り合いからはそう呼ばれてるから」
(名前知ってるじゃねェか)
ヴァンは内心でそう突っ込むと、面倒なので話題を変えた。
「なんでもいいけどよォ、その濡れた服はなんとかしたたどうだァ?」
サトーと名乗った青年は、全身から水を滴らせながら立っていた。
どうやら川にでも落ちたらしく、背負ってる盾から特に水が落ちている。
そのまま連れて行ってもいいが、風邪でも引かれて文句を言われるのは面倒だ。
「それなら、どっかに干させてもらえると…………」
「あー、いいや。とりあえず脱げ」
「追い剥ぎ!?」
「しねェよ!」
ヴァンは面倒そうに言うと、掌を振って急ぐように催促してくる。
サトーは訝しいそうにしながらも、おずおずと服を脱ぎだした。
「…………あの、パンツも脱がないとダメか?」
「代えがねェならそのまましかねェだろ」
ヴァンとて、好き好んで男の裸体を見たいとは思わない。
反応から察するに最低限の荷物しか持たせてもらえなかったのだろう。
そう思うと、なんだか不憫にすら感じてきた。
(仕方ねェなァ…………)
どっちみちするつもりだったが、どうせついでだ。
ヴァンはそう考えると、右手をかざし衣類を宙に浮かす。
「おお!」
その光景に、サトーは思わず声を上げた。
確かに風の操作はエルフの特権だし、それを間近で見る機会はそう多くはない。
そう思えば驚くのは当然のことで、特に言及することもなかった。
(ちょっと、過剰じゃねェか?)
ただ、半分涙目で眺められるほどなのかは疑問ではある。
どちらかというと、驚くと言うよりも感動してると言う方が正しい反応だ。
はっきりいって、少しキモい。
「すげぇーー!!」
そうして水分が抜けきった衣類をサトーの手の上に置くと、彼は目を大きく見開きながら、乾いた衣類に袖を通してそう叫んだ。
そのあまりの喜びように、ヴァンは何故か背中に痒みを覚えながら。
「た、大したことねェよ!これくらい、里の連中でもできることだ!」
まんざらでもなさげにそう返すと、着替えを終えたサトーにこう提案する。
「時間あるなら、ウチに入るかァ?ついでだ。茶くらい出すぜェ」
ヴァンはそういうと、顎で例のツリーハウスを示した。
ここまでする間に、仲間が現れる気配はなかった。
それでも、現れないという保証はどこにもない。
なら少しでも時間を稼いで、相手を焦らす悪くない。
「それなら、ご馳走になろうかな」
サトーは一つ返事でそう答えると。
先を歩くヴァンの後を追うのだった。




