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2 幼女監禁罪で死刑にだけはなりたくない


「まったく吸血鬼おっぱい幼女なんて、朝はどうなることかと思ったぜ……」


 第二管理都市『ミライ』、ニューエイジ開発第四区『青島』。その青島第三高校に俺は通っている。


 この学校は──『管理都市』と呼ばれる世界に七つの都市の『学校』と呼ばれる教育機関では、ニューエイジ……つまり『超常現象を故意に、そして科学的に発現できる人間』の開発が行われている。


 つまり……まあ、俺たちは、普通の人間ではなくなってしまっているのだ、この街の中で合法的に。


 脳はいじられ、科学者に変な薬品を飲まされ、身体に電気を流される。

 日常、などというものに価値などないらしく……痛みを教えるために殴られて、精神おかしくしてる奴もいるらしい。

 実際、力のせいで狂った人間、力を悪意で振り撒く人間なども沢山見てきたつもりだ。


 ニューエイジは超常能力者、などと呼ばれてはいるが、精神をおかしくする──つまり精神を改造しているようなものだから、言ってしまえば改造人間とさほど変わらない。肉体を改造された人間もいるらしいが、俺は見た事はない。そんなのもう、誰がなんと言おうと犯罪だろう。


 発火能力だとか、筋力強化だとか。もう何でもありのオカルティックな、超自然科学じゃなきゃ解き明かせないような強大な力を目覚めさせてられている人間もいる。


 そんな輩達を、もう人間と呼んでいいのかはわからない。だが少なくともこの街の中でなら『普通の』人間とは別種の生き物として扱われていることは事実だ。


 ただその『普通』の人間である総人口約二割の中の、八割以上が科学者だということも忘れてはならない。


 この街では、普通こそがマイノリティーで、俺たち異常者がマジョリティー……やっぱ全体的にどうかしてるわ、この街。



 閑話休題、今日は九月五日の金曜日、午後四時少し前。つまり放課後。


 ぴったり九月一日から始まった二学期も、一週間も経てば、周りの人間の変わり様みたいな目新しさも消えゆくものだ。

 だろう?



 そのはずなのに、まだ俺はクラスメイトどもに距離を置かれている。長い休み明けのいつものやつだ。


 おかしいな、一学期までは──遅刻や早退、それに欠席も少しはあったが──みんな仲良くしてくれてたのに……と、泣いても仕方がない。


 夏休みを終えて、俺を取り巻く環境は色々と変わってしまったのだろう。いや、そもそも友達なんてそんなものだ。特定の仲の良い人間以外と話す必要などない。事務連絡ぐらいがちょうどいい。


「でー? どーしておまんにはそんなに出会いが多いわけなんですかなぁ。……あれや、一週間前の電話なんだっけ?」


「──ん? トオルさんのこと?」


「そうそう、『合コン帰りみたいな酒気帯びのぐでんぐでん大学生お姉さんにホテルに連れ込まれそうになったから助けて〜!』なんて、クッソみたいに羨ましいことに本気で困って電話してくるに。何でそこで抱きにいかなかったんよ、どーてー様! もしかしておまえロリコンか? そんじゃなかったらどないしてそな奴がモテモテなん、それでもってなんでワイには出会いがこんの? おまんは簡単に多種多様バライティに富んだ女の子に出会いすぎや、人間出会い系サイトか!」


「いやそんな自慢っぽく言ってないし……てかトオルさん、お前も知ってんだろ。俺たち同じ研究室なんだしさ」


 もちろん、例外もいる。胆力があるだとか、臆さないだとか、有名だから近づきたいだとか、そんな軽い気持ちじゃない。言葉にするのであれば、『友人』と言ったところか。


 名前は桜井(さくらい)(みなと)。この学校に通う高校一年で同級生。同研究室所属のニューエイジ。

 俺と同じで、能力で見れば優等生とは言い難い。傷を舐め合う間柄、みたいなものだ。


 ちなみに、いくつかの方言が混ざったような変な喋り方は、方言モノと呼ばれる得体の知れない何かを読み漁ってた時に、方言にハマったら抜け出せなくなったらしい。……方言モノって何?


「出会いって……俺のストライクゾーンは狭いんだぞ? とりあえず頼れる姉系で、可愛くて、頭が良くて。それと、家事ができて、甘やかしてくれて、さらに寝かしつけてくれる。ああ、おっぱいが大きいも追加で。そっち系のサイト使ってでもいいから出会いたい……」


「はぁ……嶺ちんよぉ、どっかで妥協しないと、どっかで出会いがプツッて途切れちまうぞ。それに、おまんのストライクゾーンに入ってても、相手が凶悪な超常能力持ちのニューエイジだったらどうすんよ。ワイはやだなぁ、彼女が電気系統のビリビリ能力者とか、起こると噴火レベルの炎を吐く発火能力者だなんて。どしょっぱつは能力開発で身体が汚染されてない、外のめんこい生娘がいい!」


 損得とか、そんなの関係なしに、気軽に話せるような存在。俺が知ってるニューエイジの中で、一番人間な男。


「凶悪なニューエイジ、って……じゃあ湊はどうすんの?」


「うーん、しょっぱつの感覚やねんな、ファストコンタクト。嶺ちんの能力的に分かるんだろ? 直感で他人との相性みたいなのって。いいよなぁ、ワイと同系統のはずなのに、ワイはどこまで行っても自分だけ。それに変な力……『王冠』だっけか? そりゃもう有頂天やろなぁ!」


「その話はやめてくれ。そのせいで俺、何かに狙われちゃいないかって、結構ビクビクしながら暮らしてるんだぜ? それに、強い力は見せびらかすと絶対嫌われる!」


 『王冠(おうかん)』。俺が、天使と呼ばれた存在にもらった非日常。

 今まであった、超常能力の隣に立って、俺の日常のすべてを飲み込んだ、忌々しくもあり、頼もしくもある、新たな武器。

 その力も非科学的で、その力がどう働いているのかさえも、一切わからない。俺にとっての『元』都市伝説。


「嶺ちん、トランポリン作ってよ」


「ほらよ、『沈下』」


 湊の椅子の下を、王冠の力で沈ませる。


「おいおいおい! 何やってんじゃん!!! こんなされたら死にかけるっつーの!」


 原理も不明、演算の必要も無い。ただ、ある一定の【要素】を逆転させる。それが『王冠』の力。力を手に入れて約半月、未だに使い方は地面や壁などの静体に干渉するような簡単なものしか考えられていない。どこまでできて、どこまでができないのか。この能力が何に起因するものなのか。謎しかない。


 こんなやりとり、何回も続けたことだ。無論俺は飽きたりはしていない。なんかどうか言いながら、楽しいんだ。


「王冠かぁ」


 湊が不意に、口に出す。その目は、俺と湊の席の、後ろの席に向けられていた。


「それあれば、小雨(こさめ)にも勝てんのかな?」


 俺の後ろの後ろの席、つまり湊の後ろの席。そこには、俺たちと仲の良い、もう一人の女の子が座っている。本を片手に、長い髪をかき上げ、その女の子は閉じていた口を開く。


「……ん、無理。私が負けるなら、能力で嶺も負けるから。頑張れば、不意打ちでなら勝てるかもね」


 速攻否定した女、細波(さざなみ)小雨(こさめ)

 まつ毛まである黒い髪に、フレームレスの眼鏡。手には薄い文庫本と、古典的な文学女子。


 まあ、読んでるのはいつものように百合小説なんだろうけど。


 だが彼女、そんな名前と容姿(あと趣味)からは想像もつかないような、陰の雰囲気とは裏腹な、超凶悪でド派手な能力を持っているのである。


「さっすが単能最強発火能力者『緋色の大雨(フレイティア)』やね。風格ってもんが違うぞ嶺、おまんも出しやがれよ風格ってやつを」


「……支給金の少なさを考慮した上での金遣いの荒さ的に、金持ち親富豪の佇まいは滲み出てるよ、嶺」


「はいはい、どうせ俺は支給される金も少ない微能力者のくせに、万年仕送り脛齧り男ですよーだ。悪いか! ……いやこれ完全に悪役だな俺!? 大丈夫だ、五月まではバイトしてたから!」


 なんとか捻り出した言い訳も、二人の前ではチリ以下だった。


「そのバイト、受かって何日でクビになったんやっけ?」


「……四日だよね? さすがにそれでは社会についていけないよ」


「行ったのは二日だけで、そのあと四日まで女の子追っかけ回してたらしいよー」


「……あらやだ! そういえば私、女探しの言い訳に使わされそうになったんだよね〜。本当にありえない」


 おい、二人して俺を虐めるな。心が痛すぎて心臓止まりそう。


「挙げ句の果てには王冠って、わいら微能力者同盟やったやんけ!」


 『微能力者(びのうりょくしゃ)』、勝手に俺がそう名付けた、言うなれば蔑称。微妙な能力者、の短縮形。

 俺と湊は、そのどちらも微能力者に当てはまる。まあ微能力者と名付けてはいるものの、普通にあって便利な能力なのだから、本当に全然能力がない人にとってみるなら二人ともを殴りたくなるだろう。だって、二人とも手にとるような超常能力が発現させられているのだから。


 俺の持っている能力、科学者どもが名付けた名前は『電波警戒』。文字通り、危険を察知できる体質だ。

 ただし効能はご察しの通り、わりとガチで範囲(レンジ)が狭い。


 電波に直接干渉しない攻撃以外、踏み込んで斬りつけてくるナイフの間合いくらいの攻撃しかしっかりと察知してくれないから、銃などによる不意打ちは察知できない。

 まあ、肌がピリつく感覚、みたいなものを感じるくらいだ。この能力、電気系統の超常能力だけれども、電気そのものや電流、ましてや磁力を操るなんて高度なことはすることができない。


 一万円で買える程度の能力、と言っても過言ではないくらいには気休めほどの力なのだ。

 あるとないとでは大違いだけど、これよりもっと強い力が欲しいと思った瞬間がある。けれど、この力に何度も救われたことがあるのも事実。そう考えると、他のどんな超常能力よりも俺に合っている言えるのかもしれない。


 湊は『筋力強化』系統の能力。腕相撲や100m走など、一瞬だけパワーを出せばいいものに最適な能力を持っている。隣の芝生は青いのだが、正直言ってこの力、欲しい。多分、小学校低学年の頃はとってもモテるだろう、あそこは足速い子が好かれる世界だから。



 しかし小雨は『発火能力』系統でも成功例として挙げられている『爆炎砲(ばくえんほう)』と呼ばれる能力者。

 能力の概要は、文字の通りの凶悪さを持ったやばいやつ。火の玉を投げる奴。某ゲームのファイヤーボール? いやいや、亀の王様の火球レベルだ、最新作の避けるのむずい奴みたいな感じの。

 ちなみに『緋色の大雨フレイティア』は通り名みたいなもの。どんな年齢になっても、他と違うことを名前で表したいと思っている人間は相当数いるということだ。


 高位の超常能力者ってあまり大っぴらに公開とかあまりできないはずなのに、何故か彼女は有名なのだ。……まあ色々あるのだろう。近くにいる文学少女も、どこかで力を発散しているのかも知れない。


 彼女は強いから多分、怒らせたら俺らは死ぬ。まあでも、なんとかこれまで三人でやってきたのも、三人が三人こんな人間だったからだろう。俺と湊のどっちかが成功してても、小雨が微能力者だったとしても、きっとこの三人は集まらなかったと思う。


 ……三人が仲良くなった理由は、同じ能力開発施設に収容されていたからってのもあるけどね。


「いやぁ……王冠って能力じゃないし、微能力者同盟は継続でお願いします!」


「まあいいけど。別にそないなのが無くなったって俺ら友達やし、微能力者同盟やったら小雨どうすんよってことし。……それに、貰ったもんは使ってやらねーとな」


 歯を見せてキラキラ笑う湊。笑い顔だけ見ればやっぱりすごい頼もしい。


「で……今は吸血鬼が家にいるんだっけ?」


「うん、そうだよ。今日の朝から、幼女が一人──」


「監禁するな」


「……さすがに気持ち悪い」


「仕方ないだろ! お腹空いてたんだよ、面倒みてやらないと……なんか気が済まなかったって言うか」


 監禁じゃねーし! と思いきり反論してみる。が、二人のニヤニヤは止まらない。


「わりいわりい。まあなんか、おまんらしい、って感じやな。いっつも何かに巻き込まれてんのが」


「何かに巻き込まれている、ではなく女の子に巻き込まれているのね、と言いたい。……でも、その子を問答無用で追い出してたりしたら、私は嶺のこと、絶対嫌いになってたから」


 肯定的な二人で、本当に助かった。ニヤニヤも、ただ茶化しているだけだから、本当にやりやすい。


 楽しいな、今更ながら日常の楽しさを再確認する。


 が、家に帰ればすぐ非日常。動乱も、俺にとっては楽しいことの一つなんだけど、やっぱり幼女が何者かが分からないんだよなぁ。容姿的には巷で噂の吸血鬼、でも血は吸われてない。……メインディッシュはこれからって可能性もあるにはある。けど、やっぱり情報が少なすぎる。


「それにしても吸血鬼かぁ」


「私は……そんなモノ、いないと思う。このオカルトさえ数式で解き明かす街にいるとは、思えないかな。……例えば、肉体変化の超常能力者が、吸血鬼とやらで自分の蛮行を隠すために流した隠蓑の噂。みたいなものが妥当な考え、なのかもしれないね」


「吸血鬼、だと思うんだけどなぁ、あのフォルムとオーラと……あとおっぱいは」


 ボソッと言う。


「最近は目撃情報もよくあるらしいし。気ーつけてな、嶺ちん。いつ食われるか分かんねーぜ? ってかそいつ、今も家に居てくつろいでるんだろ?」


 話は最初に戻る。吸血鬼幼女を家に匿っていると言うお話だ。正直言って、俺だって怖い。もし、今日俺が普通に帰ったとして、そこであの吸血おっぱい鬼幼女に血を吸われ尽くされる可能性だってある。


「そういえばあいつにおやつ買って帰るんだったな。じゃあ湊、小雨、俺はもう帰るよ。じゃあまた月曜日に」


 素早く椅子から立ち上がってリュックを持って駆け出す。


「多分生きてると思うからー! ────幼女を監禁なんかしてないからね!!」


 手を振って返してくれる二人に笑いかけ、俺は教室を小走りで去っていった。

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