第9話
ログインをすると酒場にジュリ婆の姿はなかった。椅子を元に戻すと、クエストに取り組むために、誰も居ない酒場を後にした。
「いってきます」
ジュリ婆が言っていた、大通りに面した酒場を外から覗くと混んでもなく空いてもいない。だが席数の半分くらいが埋まっている割には活気がない、たしかにきな臭い感じはある。
「じゃあ始めますか」
「こんばんは」
「……いらっしゃい」
きょろきょろとわざとらしく酒場を見渡してみた。
「待ち合わせかい?」
「いや、以前ここの前を通った時にかわいいウエイトレスさんが声をかけてくれてね。その時は時間が無くて入れなかったんだけど、次は寄るって約束してさ。でもいないみたいだね」
ウエイトレスの話が出るとカウンターの中にいたマスターが一瞬店の奥にいる6人ほどの男たちを見た。
「知らんな、ウチの店にそんな娘はいないな。店を間違えてるんじゃないか?」
「あれー、間違ったかな?今日休みとかじゃなくて?」
「いないな」
視界の端で奥に居る男たちがこちらを睨みつけているのがわかった。そろそろ潮時だろう。
「すまんなマスター、どうやら店を間違ったようだ。」
マスターに謝ると、銀貨をカウンターに1枚置き店を後にした。
その後、始まりの噴水がある広場を挟んだ大通りで酒場を探して入った。
「いらっしゃい」
「どうも。定食があったらそれを」
「はいよ、飲み物は?」
「酒はいいや、炭酸水で」
「なんでー、酒場で酒を飲まねー奴がいるかい?」
カウンターの隣に座っていた、ずいぶんと酒の進んだおじさんに絡まれた。
「うるさいなー、ほっといてくれよ」
「なんでーなんでー、若いのにイライラするなよ。おじさんが話を聞いてやるぞ」
「おい酔っぱらい、うちの客に絡むんじゃねー」
「なんだよ、マスターまで。話したいだろ若者」
「……話ってほどのもんじゃない。反対側の酒場に目当てのウエイトレスが居たんだけど、しばらく行かないうちに居なくなっちゃてさ」
「あぁ、あのかわい子ちゃんな。良い子だったよな」
「おじさん何か知ってんの?」
「いや、そんな詳しくはないけどな。確か、あの娘は小さい頃に両親が亡くなって、兄弟姉妹もいなくてな。ばあちゃんが1人で育ててくれたらしい。その婆さんが病気らしくてな、地元に戻って看病するんだとよ。本当に良い子だよな」
「十分詳しいよ、ありがとおじさん」
「マスターは何か知ってる?さっきその酒場に行ったら、なんか辛気臭くてさ」
「確か、暴れるでもねーがずっと居る薄気味悪い連中がいるって話は聞いたな。まぁ、そいつらのおかげでうちに客が流れてくるんだからありがてーけどな」
「おうよ、俺もそのうちの1人だぜ。マスター!ビールをもう1杯!」
「はいよ」
情報はずいぶん手に入った、ウエイトレスの娘は死んだことすら知られていないようだ。これじゃあ警吏も動きようがないだろう。その辺りのことについても、もう少し調べてみる必要がありそうだな。