第5話
「今から行くのかい?」
「はい、ウルフ5匹ならすぐに終わると思うので」
ウルフはアルべトレッサ王国を選択したプレイヤーが最初にレベル上げを行うフィールドの夜に出てくるモンスターだ。夜の戦闘ということもあって、多くのプレイヤーは苦戦を強いられているがステータス自体はそこまで高くないのだ。
「坊やは冒険者ギルドに登録はしているのかい?」
「いや、まだだけど。何か不都合がありますか?」
「身分を証明できないと門番に止められて、王都から出られやしないよ。ここでもギルドカードは発行できるから持っていきな」
そういうとジュリ婆はカウンターに置いてあった、名刺サイズの木片を渡してきた。
「これは仮登録のギルドカードだよ、クエストをクリアしたら正式なものに作り直すから持っていきな」
「ありがとうジュリ婆、じゃあいってきます」
ジュリ婆にあいさつをして、酒場を出て地上に戻ると不思議なことに大通りがどちら側にあるのかがわかる感覚がした。
「ほんとに不思議な所だな、ここは。見つけられたのは完全に運だな。」
裏通りを抜けて大通りを出ると後は都市から出る門にむかうだけだ。ウルフは東西南北どのフィールドでも出現するのでどこから出ても良いのだ。
門にたどり着くと、門番に声をかけられた。
「外に出るのなら、身分を証明するものを出してくれ」
「ご苦労様です。仮登録のギルドカードでよろしいでしょうか?」
「うむ、構わないぞ。随分と堅苦しい話し方をするやつだな」
門番は受け取った木片を覗き込むと、訝しげな顔をして俺を見た。
「お前さん、冒険者なのか。武器になりそうな物が何もないが魔法使いか?」
「まぁ、そんな所です」
俺が言葉を濁すと、門番は納得してはいない顔で木片を返してくれた。
「まぁいい。冒険者の命は自己責任だ、精々気を付けろよ」
「お気遣いありがとうございます」
門番にあいさつをして、真夜中のフィールドに歩を進めた。
暗視スキルのおかげでフィールドの草原の様子もよくわかる。ちらほらとウルフがいるのも確認できる。
さて、なぜ俺が武器も持たずにフィールドに出てきたのかというと、もちろん魔法が使えるからという理由ではない。
プレイヤーネーム シン
レベル 1
HP 100/100
MP 60/60
STR 45
VIT 30
AGI 45
DEX 30
INT 30
LUK 50
この初期ステータスは種族がヒトのプレイヤーの約3倍あるのだ。その代わり、太陽の下ではHPとMPとLUK以外のステータスが5分の1に減少してしまう。さらには日光の下では5秒に1回、HPが10減少までする。呆れるほどひどいデメリットだが、その分メリットも凄いことになっている。バンパイアの種族特性の説明文には、HPとMPとLUK以外のステータスが月の下では5倍に上昇し、真なる闇の下では10倍に上昇すると記載されていた。
そして今のステータスがどうなっているかというと。
プレイヤーネーム シン
レベル 1
HP 100/100
MP 60/60
STR 225
VIT 150
AGI 225
DEX 150
INT 150
LUK 50
強すぎるのではないだろうか、他のプレイヤーに見られたらチートを疑われてしまう。
夜空を見上げると、今は上弦の月が浮かんでいる。半月で5倍ということは、真なる闇という中二ワードの意味は新月のことなんだろう。
「まぁいいか、夜の間にクエストをクリアしないといけないから急がないとな」
10メートル程先には体長1メートルくらいのウルフが俺の方を見ている。
「ガウッ」
ウルフが牙を剥いて走ってきたので、それを避けることもせず鼻先に蹴りを入れた。
「ギャン」
ウルフは鳴き声をあげながら、元いた場所に吹き飛んでいった。赤いエフェクトが散りHPが0になって消えていった。
「一発KOか、戦闘面はまったく問題なさそうだな。悪いが俺の経験値になってくれよ、狼くん」
そうしてウルフを乱獲するために、夜の草原フィールドに駆け出していくのだった。