第3話
UCは様々な生活リズムの人がプレイすることが予想されていたので、どの時間帯にプレイしても楽しめるように現実世界の8時間でゲーム世界の1日が経過するように設定されている。
ただしこの設定にも1つ欠点がある、1日ログインしないとゲーム世界で3日も過ぎてしまい流れに乗り遅れてしまうのだ。そう乗り遅れてしまうのだ。
日曜日の午後4時過ぎ、ふたたびヘルメットを被りベッドに横になった。
「ログイン」
『アルべトレッサ王国 始まりの噴水から再開します』
「おー、けっこう賑わっているな。て、当たり前かサービス開始してまだ1日だもんな。初回購入者は全員ログインしているかもな」
4度目となる噴水の周りの広場では、さっそく待ち合わせスポットにでもなったのか多くのプレイヤーで賑わっていた。
ゲーム世界では午後6時を過ぎていて、すでに日は沈んでいるのでいままでのようにダメージエフェクトが出ていないことも確認する。
「よし、これですぐに死ぬこともなさそうだな一安心だ。それにしても暗視スキルはすごいな、これじゃ昼間とあまり変わらないな」
デスペナ中はアプリでゲーム内チャットを覗いて情報を集めていたのだが、さっそく獲得したスキルを報告しているプレイヤーなども多かった。
UCは現実世界の法則を再現している所も多く、太陽が沈んで夜になると種族が人間だと光がない限り本当に周りの様子を見ることができないらしい。街のなかでは街灯があるので問題はないみたいだが、フィールドに出てモンスターとの戦闘をしようとすると現時点では松明やランタンを持つか光魔法を使って光源を確保しないと難しいらしい。
そんな中、暗闇で戦闘を続けていた猛者が暗視スキルを手に入れたことが話題になっていた、とはいえスキルレベルが1では輪郭が見えるようになった程度らしい。ではなぜ俺の暗視だと昼間と変わらず見えているかというと種族のバンパイアがカテゴライズされている不死族の初期スキルで、すでにレベルMaxになっていたのだ。どのくらいレベルアップをすればMaxになるのかはわからないが、現段階でUCの夜を楽しむことができるのは俺くらいのものだろう。チャットをみる限りでは他に不死族の種族になったプレイヤーはいなかった、バンパイアはずいぶんとレアな種族なんだろう。
やっとUCの世界を楽しめそうなので街を散策してみることにした。いろいろと歩いていたら暗視の効果で街灯もない、昼でも薄暗そうな入り組んだ裏通りに迷い込んでしまった。ゴミや壁の汚れた感じが嫌な生活感を感じさせている。
「いわゆるスラム街ってやつか?ここまでリアルにすることもないのにな」
とりあえずここから離れようと横道に入ってみた。
「あれ、ここは結構きれいだな。街灯はないから大通りに戻った訳ではなさそうだけど」
人どころか生き物の気配すら感じない不思議な空間だ。暗視がなければそれこそ真っ暗闇な空間だったろう。
「いや、壁から光が出ている?」
うっすらと光が出ている壁に近づいて観察してみると、光は線状に出ているようだった。
「これってドアから光が漏れてるみたいに見えるな」
そう認識した途端、ただの壁だったところが木製の重厚なドアに変わったのだ。
「うわっ、なんだ認識阻害の魔法でもかかっていたのか?そんな種類の魔法をプレイヤーで使えるやつなんていないだろ。という事は、この先にはNPCに関連する何かがあるってことだな」
「鬼が出るか蛇が出るか、開けてみるしかないだろ」
そう思い扉を引いてみたら、地下につながる階段が現れた。
「光が漏れる要素が一切無いのがかなり不気味だな、降りるんだけどね。ふっ、いまさらHPが0になるのを恐れる俺ではないのだ」
「……」
自虐したつもりが思わぬダメージを心に負いながら階段を降りるのだった。