第16話
ジョナサン王子は喋り終えると剣を抜いて構えた。
俺の口を封じて終わるような状況ではないのだが、そっちから来てくれるのなら遠慮はいらないだろう。
王子はランタンを置いて、両手で剣を構えている。俺は石を拾うとランタン目掛けて投げ、灯りを消した。
「何をする!くそっ、逃げるつもりか」
もちろん逃げる気などさらさらない。暗視スキルを使って静かに近寄ると剣を無茶苦茶に振り回しているのを避けながら、腕に蹴りをいれた。
「ぐわっ、腕が。どこにいる、正々堂々勝負しろ」
それには答えず、腹を思いっきり殴ると、王子は吹っ飛んで墓場をゴロゴロと転がっていった。
「ぐはっ、い、痛い。なんなんだお前は、俺はこの国の王子なんだぞ」
「王子だったら1人の女性の生命を奪ってもいいのかよ、きっと彼女の痛みはこんなもんじゃなかったぞ」
「平民の女1人の生命と王族の生命が一緒な訳がないだろう、当たり前の事だ」
「俺は裏ギルドが本当に国を乱そうとしているかどうかなんてわからない、だけどあんたをこの国の王にしちゃいけない事くらいはわかる」
「黙れ、私はこの国の次期国王。この国で、いやこの世界で最も価値ある血を引く人間なのだ、誰も余の邪魔などさせぬ」
「……こいつの言っていることは本当に正しいのですか、国王陛下」
今までの会話を聞いていた国王が、暗がりから出てきた。その表情は苦しそうで、そして息子を憐れむような感情が滲み出ていた。
「陛下、父上どうしてここに!お助け下さい、この下賤の者に裁きを」
「もうやめよ、ジョナサン。全て聞かせて貰った。お前はこの王国の王子には相応しくない、ただの罪人よ」
「何を仰っているのですか、国を乱す裏ギルドの回し者のことを信じるのですか」
「お主自身の口で民を害したと申したではないか」
「それがなんだと言うのです?国を率いる者が民の1人や2人をどうしようと勝手ではないですか!それよりも王子である私の生命が脅かされているのですぞ!」
「……もう口を開くでない。どうしてこの様なことに……」
国王はそう呟き、一息つくと今度は威厳に満ちた声を出した。
「近衛兵、こやつを捕らえよ」
周りから、音もなく兵士が2人現れ、あっという間に王子を捕縛した。さすが王の護衛というべきか、暗視スキルを使っても見つけることが出来なかった、かなりの手練れなのだろう。
「父上、何故この様なことを私が何をしたというのです」
俺は辺りを見渡して、声をかけた。
「ジュリ婆、見てるんだろう。あんたは何も言わなくていいのか?」
気配を感じることが出来た近衛兵とは違い、ジュリ婆は突然隣に現れた。
「私に何を言えと言うんだい」
「何って言われても」
いきなり現れたジュリ婆に驚きながらも、国王が声をかけてきた。
「そちらのご婦人は?」
「お初にお目にかかります国王陛下。ご婦人なんて歳ではありませんが、裏ギルドアルべトレッサ王国支部長ジュリア・モルタンドでございます」
「では今回の事件の娘のレベッカは」
「はい、私の孫にございます」
それを聞いた、国王は地面に膝を突きこうべをを垂れた。
「我が息子がしたことを父としてお詫び申し上げる。謝って許されることとは思ってはいないが謝らせていただきたい」
「国王に謝って欲しいなんてこれっぽっちも思っていませんよ」
「ジョナサンはこれから取り調べを受け、王国の法に沿って必ず罰を受けさせると約束しよう。あの様子だと他にも余罪があるだろう」
「それじゃあ、厳罰ってこともあるんじゃないですか?」
国王は寂しそうな目で俺の方を見た。
「それもあやつの運命、やったことには責任を持たねばなるまい。あやつには育て方を誤ったこの親を恨んでもらうほかあるまい」
「やった責任は本人だけが持つものだよ、親が責任を持つこともないし、私も親を恨むつもりはないよ」
「痛み入る」
ジュリ婆と国王の間に沈黙が降りるなか、俺は近衛兵に連れていかれる王子の背中を静かに見つめていた。




