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これが……悪役令嬢……だと? 6

 こうなったらもう、やるしかない。

 俺はリリーナを後ろ手にかばって、声を張った。


「おやめください、殿下!」


 おびえて声が裏返っているのはご容赦願いたい。

 何しろ相手は俺よりもはるか高位の、この国で一番偉い王族に名を連ねるれっきとした皇子なのだから。


 このアイリス学園の中に限り、平民も王族も地方貴族もすべてが平等に『学生』という立場であると、そう決められてはいる。

 だからって生まれついての身分が消えるわけではないのだから、本気で王族に向かってタメ口をきいたりする愚か者はほとんどいない。


 特に俺はダレスとして転生してからは、地方貴族なりにきちんとした礼儀作法を躾けられている身だ。

 本来なら王族に対して範囲を口にするなど不敬だと、厳しく厳しく言い聞かせられていたのだから、どうしたって体も声も震えてしまう。


 それでも俺は震える膝を励まして胸を張った。


「か弱き女人を怒鳴りつけるなど、どういった料簡ですか!」


 その瞬間、俺はどこかで何かがちぎれるブツンという音を聞いた。

 もちろん、実際に何かが物理的にちぎれたわけじゃない。

 もっと、目に見えない別のもの――例えば、この世界を縛っている『ゲームの強制力』という鎖がほころびたような、とにかくも、なにかが引きちぎられる音を確かに聞いたのである。


 その影響が真っ先に現れたのはリリーナだった。

 彼女は足を投げ出してくにゃりと座り込んでしまった。

 首もがっくりと振り下ろして、まるで糸の切れた操り人形みたいだ。


 彼女はおそらく、ゲームの強制力という足かせから解き放たれた。

 俺だけではなく、チヒロもそのことに気づいた様子であった。


 しかしアインザッハの方は、いまだゲームの強制力の影響下にあるらしい。

 彼は俺のことなどまったく眼中にない様子だった。

 彼が見ているのは、チヒロただ一人である。


「ああ、かわいそうに、小鳥のように震えて……怖くないよ、こちらへおいで」


 リリーナに向けていた冷たい態度とは一転、理想の王子様的な優しい微笑みを浮かべている。

 おまけに舞台上のチヒロに手を差し伸べているから、ここが劇場だということも相まって芝居くさく見える。


 チヒロはそんな皇子をチラリと一瞥しただけで、あとはぷいと顔を背けた。


「ねえ、ダレス、あんた、アレをどう思う?」


「え、それを俺に聞く? 勘弁しろよ、今の俺の立場では、迂闊なことを言ったりしたら不敬罪で首ちょんぱだ」


「それもそうね、でも、私、礼儀知らずな異世界から来た娘だし、言っちゃおうかなー」


「なにを?」


「不敬ってやつをよ。あんた、その間にリリーナたんを介抱しておきなさいよ」


 チヒロはバサッと前髪をかき上げ、客席の真ん中に立つ皇子をにらみつけた。


「恐れながら申し上げますわ、殿下」


 そのまま「おーっほっほっほ」と高笑いするチヒロは、まるっきり悪役令嬢のふるまいで――正直、リリーナなんかよりも悪役令嬢の才能があると思う。

 これなら、あの人の話を全く聞かなそうな俺様皇子の相手を任せても、何の心配もいらないだろう。


 俺は安心してゆっくりとリリーナに近づき、その肩を軽く揺さぶった。


「あの……大丈夫ですか、もしもし?」


 へんじがない。

 ただの しかばねのようだ。


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