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これが……悪役令嬢……だと? 4

 チヒロは、どうやらゲームどおりの流れを再現しようと考えているようだ。

 彼女は素早く舞台に駆け上り、リリーナの足元によよと泣き崩れた。


 リリーナに演技指導をつけようというだけあって、なかなかの演技力……今にも涙がこぼれ落ちそうなほどに潤んだ瞳と、あざとくない程度に小さく震える肩は、いかにもいじめにあったばかりのか弱いヒロインの風情が溢れている。


 状況を飲み込めないリリーナが「えっ?」と奇声を上げた。

 そこに被せるようにアインザッハの声。


「答えろ、リリーナ! ここで何をしているのか、と聞いているんだ!」


 多分これ、ミララキの本来のセリフどおりなんだろうけど……なにをしてるもかにをしてるも、この行動に入ってきた時に彼はデーンとふんぞりかえって監督面していたチヒロを見ているはずで……なんだか作為的というか嘘くさいというか、いかにもセリフを喋らされている感が半端ない。


 当然だがリリーナは状況が飲み込めず、「うえっ?」と更なる奇声を発した。


 その間にもチヒロとアインザッハの茶番劇は進む。


「いくら相手が庶民だからといって、権力を振りかざし、これを貶めようなど、あまりに貴族令嬢としてあるまじき振る舞いではないか!」


「アインザッハさまぁ、これは違うんですぅ、チヒロが、あまりにも高貴な方へのマナーができてないからぁ、ご指導くださってるんですぅ」


「ああ、俺の可愛い小鳥、君はそんなマナーなどにとらわれず、小さな翼で自由に飛び回る姿を見せてくれればいい」


「ううっ、ありがとうございます、アインザッハさまぁ」


 しかしリリーナは、目の前に繰り広げられるこのやりとりをポカンと呆けて見守るだけで、微動だにしない。

 焦れたのか、チヒロが小声で叱りつけた。


「ほら、リリーナ!」


「な、なんです?」


「ここ、あんたの見せ場だから! なんか言って!」


「な、なんかって……何をです?」


「いろいろあるでしょ、アインザッハに近づくなとか、ちゃんと殿下呼びしろとか」


「ええ? いえ、その……」


 アインザッハの怒声が割ってはいる。


「リリーナ!」


 怒鳴りつけられた彼女は、舞台の上にパッと平伏し、額を床にこすりつけた。


「も、申し訳ございません!」


 ほぼほぼ悲鳴に近い声で。


「悪いのは全て私めでございます! どうか、どうかお慈悲を!」


 アインザッハが口の端をつりあげ、意地悪く笑った。


「公爵令嬢ともあろうものが、いいざまだな」


 その声は冷たく、慈悲も情けも感じられない。


「立て、リリーナ、公爵令嬢らしく!」


「は、はい!」


「そのまま胸を張って、もっとだ!」


「は、はい!」


「笑え、意地悪そうにな」


「そ、そんなこと……」


「いいから、笑え!」


 リリーナは引き攣る頬をピクピクさせながら、それでも笑顔を作った。

 しかしそれは、アインザッハの望み通りの表情ではなかったようだ。


「馬鹿が! 公爵令嬢がそんな情けない笑い方をするもんか! もっと偉そうに! お前にはプライドというものがないのか!」


 横からこそっと、チヒロも囁く。


「リリーナ、そんなおどおどしない! 悪役令嬢っていうのは、断罪されるその瞬間まで、常に余裕の表情でいるものなのよ!」


 両側から叱責の言葉を吹き込まれたリリーナは、可哀想なぐらいに狼狽えている。

 目玉なんて落ちそうなくらいにかっぴらき、キョロキョロ、ぐるぐると宙を泳いでいる。

 体だって時折大きくビクンビクンと痙攣して、今にも倒れそうだ。


 そんなリリーナにとどめを刺したのは、一際大きなアインザッハの怒鳴り声であった。


「リリーナ!」


「ひぃいいいいいっ!」


 およそ令嬢らしからぬ奇体な悲鳴と共に飛び上がった彼女は、次の瞬間、がくりと首を落とした。

 恐怖と心労によって、ついに脳のブレーカーが落ちたようだ。


 しかし、首を下げたのはほんの一瞬のこと、リリーナはすぐに姿勢を正し、グッと胸を張って舞台の真ん中に立った。

 その目は正気を失って、瞳孔が開ききっている

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