デートってこういうもんでしたっけ? 9
さて、平和を取り戻した街で……俺とリリーナはデートの続きを楽しんでいた。
ちなみにチヒロは気をきかせてくれたようで、俺たちはいま、二人きりだ。
公園の、噴水に近いベンチに並んで腰を下ろして、俺はリリーナに謝った。
「なんか、ぜんぜん役に立たなくって、ゴメン」
リリーナは一瞬だけキョトンとした顔をしたが、すぐに、先ほどの悪漢との戦いの話だと気づいたらしい。
「お気になさらないでください、適材適所という言葉がありますもの」
「君はさ、優しいよね」
「あら、もしかして慰めの言葉にでも聞こえまして?」
「完全に慰めじゃんよ、俺が役に立つところなんてないじゃん」
「そんなことはありませんわよ、ダレスさまは……」
リリーナはスッと細めた目を噴水に向けた。
夕日を受けた水しぶきがキラキラと散るのをまぶしそうに眺めて、彼女はフフと笑う。
「ダレスさまは、いつだって私に勇気をくれますわ」
「勇気?」
「ええ、勇気、自分が変わるための勇気」
俺の方を振り向いたリリーナは、きゅっと表情を引き締めた。
「きっと今までの私だったら、あのお嬢さんが悪漢に襲われることを知っても、何もできなかったでしょう。自分に累が及ぶことを恐れて、逃げ出していたはずです」
「あれはだって……チヒロの魔法があったからだろ、俺なんか何もしてないし」
「いいえ、チヒロさんはいつだって私に救いの手を差し伸べてくださいますけど、それって、今までとは違う自分になるみたいで怖い……私だけだったら、チヒロさんが差し出した手を拒んでしまうと思うんです。でも、ダレスさまが背中を押してくれるから……」
ふいっと、リリーナが目線を伏せた。
その頬がわずかに赤く見えるのは夕日のせいだろうか。
「私、ダレスさまが一緒にいてくださるから、強くなれるのですわ」
リリーナの手が、ベンチに投げ出した俺の片手に、戸惑いながら重ねられた。
「ダレスさま、私に勇気をくださいませ……」
「なんの勇気さ」
「皇子殿下に虐げられる運命から逃げ出すための勇気を……私、あの方との婚約を破棄いたします」
「!」
それこそがチヒロが言っていた『リリーナ救済ルート』の条件だ。
俺的には願ったりかなったりだが、それって……
「それで君は幸せになれるの?」
俺の不安に、リリーナは笑って答えてくれた。
「幸せになれるかどうかはわかりませんが、不幸から逃げ出すことはできますわ」
「じゃあ、いいか……」
手のひらを返して彼女の手を握り返せば、その指先は少し冷たかった。
「ごめんなさい、まだ少し怖いみたい……」
リリーナは弱々しく笑った。
「本当は、逃げ出せば楽になれることはわかっていましたの。ですが、いずれ皇后となる身としては、逃げ出すことは民に対する責任の放棄だと、なぜでしょうね、そう思い込んで自分を追い詰めていたのですわ」
「だって、小さい頃からそういうふうに王妃教育を受けていたんだろ、そう思ったって仕方ないじゃん」
「ええ、ですから、今までの私ならば、国民に対する責任を投げ出して逃げる勇気なんてなかったのですわ。でも、いまはダレス様がいてくださるから……」
俺よりも一回り小さい手が、全ての決意を込めたように力強く俺の手を握り返してきた。
俺は何もできないけれど、この手を握るだけでリリーナに勇気を与えることができるというならば、せめて……俺は繋いだ手が離れないようにと、きゅっと指先に力を込めた。
噴水の周りを走り回っていた子供達が、俺たちの繋いだ手をめざとく見つけて囃し立てる。
「あー、アベックだ、アベック!」
「イチャイチャだー」
「チューするんだー」
チューは時期尚早というか、したいけどそういう雰囲気とはちょっと違うというか……ともかく、いまじゃない。
それでも、ちびっ子たちにいくらからかわれようとも、決意に震えるこの手を離す気にはなれない。
噴水の前で、ただ無言で、俺はじっとリリーナの手を握ったままでいた。




