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一周目、二周目、八周目 6

 ダレス「俺もアレサの言葉を鵜呑みにするほど馬鹿じゃない。

 あの性格を考えれば、『いざとなったら教えてあげる』というのは、いざギリギリ崖っぷちになるまでは『教えてあげない』と言っているのと同意だ。

 つまり基本的には教えてくれる気がない、と--だから俺は、自分でスキル発動の条件を見つける必要がある」


 ◇◇◇


「なーに、一人でブツブツ言ってんのよ」


 油断していた後頭部をスパーンと音立つほどチヒロにしばかれた。

 夕日さす校庭で、鉄棒にもたれてリリーナの悪役令嬢特訓を見守っている最中のことだ。


「いてぇな、いや、だってさ、こういうモノローグあった方がゲームっぽいじゃん?」


 俺が言うと、チヒロは呆れたように「はん!」と笑った。


「そういう変な気遣い、いらないから」


「そう?」


「で、わかりそうなの? スキルの発動条件」


「んー、それがさあ……」


 俺はランニングするリリーナを眺める。

 ちなみに悪役令嬢ABCさんも一緒にランニングさせられている。

 四人はチヒロがデザインした『学校指定のジャージ』を着ているのだが、縫製は王都で一番人気の高級オートクチュールに任せたとあって再現度はかなり高い。

 袖とズボンの脇に白いラインが入っている様子といい、胸に縫い付けられたゼッケンといい、日本製だと言われても信じられるぐらいの出来だ。


 そのジャージをきっちりと着込んで、長い髪をポニーテールに結って、まじめに走るリリーナはかわいい。

 ちょっと体力がなくて、よろよろしているところも庇護欲を刺激する。


「第一の条件は、あれだよなあ」


 俺がつぶやけば、チヒロが同意してくれる。


「あれよね……その厨二っぽい名前の技、リリーナたんが一緒の時に発動しているもんね」


「『運命鎖の大切断ディスティニーディスコネクト』な」


「名前はどうでもいいわ。っていうか私、それってリリーナたんがいることにくわえて、イベント中であるって条件もあるんじゃないかと思ってるのよ」


「確かに」


 いまのところゲームの強制力から解き放たれたキャラクターは三人。

 ひとりはリリーナ、そしてあとの二人はボンクラ皇子とユーテス。

 いずれもがイベント中の出来事だった。


 逆に接触はあったけれどいまだゲームの強制力を断ち切れていない相手はグラウス。

 この時はイベント中ではなかったし、リリーナも途中で逃げ出してしまった。


「つまり、イベントが発生しているタイミングでリリーナがいれば、俺のスキルは発動するってわけか」


「それだけじゃない気もするんだけど、まあ、それが第一条件なんじゃないかな」


「じゃあ、イベントが発生しているところにリリーナを連れて行けばいいだけなのでは? 簡単簡単」


「それが、そう簡単だとは思えないのよね」


 チヒロはふっと憂いを表情に浮かべ、リリーナに目をむけた。


「ねえ、あんたは、この世界がどう見える?」


「どうって、普通にファンタジーな世界だよね。ありえない筋肉マッチョがいたり、ご令嬢がジャージを着て走っていたり、ギャグ要素はいろいろあるけど、ここがゲームの世界だと思えばそのくらいは許されるし……」


「まあ、ここが完全にゲームの中ならね。でも、これがきちんとした『私たちが生きるべき世界』だと考えたら、随分と歪じゃない?」


「いびつかなあ?」


「よく考えてみてよ、ゲームの中で起きる出来事は、この世界の中のほんのひとかけら――この学園の外には広い世界が広がっているわけじゃん?」


「ああ、まあ、『物語』なんだから、そうだろうね、世界の全てを書くわけにはいかないじゃん」


「それがおかしいんだって。あんた、この学園に入る前、この世界でそんなにへんてこな生活してたわけ?」


「いや、ここに来てからのへんてこな生活の原因のほとんどはお前じゃんか……」


「私はほら、そもそもの設定が異世界から落っこちてきた聖女って設定だし、この世界としては規格外だし、しかたないね、でも、あんたは違うんでしょ」


 確かに俺は、ダレスとしてエーリア家に生まれ、人生の途中で前世の記憶を取り戻したのだから、『この世界の人間』だ。


「そんな『普通の』ダレス君から見て、この世界は歪じゃないのかって聞いてるのよ、私は」


「いや……逆に……」


 この世界の人間として育ってしまったからこそ、俺にはチヒロの言う世界の歪みがわからない。

 言葉を失って俯いてしまった俺を見て、チヒロはどうやらそれ以上の質問は無駄だと判じたらしい。


「まあ、そのうちあんたも気づくんでしょうよ、さしあたって……私にとって一番厄介な歪みはアレね」


 チヒロが指さした先には、ボンクラ……いや、アインザッハ皇子がいた。

 彼は学校新聞を握りしめていて、チヒロを見ると嬉しそうにステップを踏みながらこちらへと近寄ってくる。

 とても将来の皇位を約束された第一皇子だとは思えないくらいの浮かれっぷりだ。


 しかもこの皇子、チヒロの目の前まで来て、とんでもなく俗なことを言い出した。


「おやおや、こんなところに、可愛らしい花が咲いていると思ったら……花ではなく乙女じゃないか!」


「うざっ」


 チヒロがガラ悪く吐き捨てるように言ったが、俺もまったく同意だ。


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