一周目、二周目、八周目 5
ちなみにリリーナがいるのは当事者としてではなく、癒し要因だ。
俺とチヒロはリリーナを挟むようにして座り、その頭を存分に心ゆくまでわしゃわしゃしている。
アレサはそんな俺たちをちょっと呆れた顔で見ている。
「はあ……その子犬みたいな愛玩令嬢が、あの悪の華、孤高の悪魔と呼ばれたリリーナ嬢の正体っスか、まあ、そんな気はしてたっスけど」
ちなみにリリーナたん、転生者三人に囲まれて一人だけ会話の内容が分からずにオロオロしている。
それでも大人しく座っているところが、やはり従順な子犬っぽくて可愛い。
アレサはたぶん猫派なのだろう。
そんなリリーナの可愛らしさに惑わされることもなく、淡々と話を進めてゆく。
「まずはアタシのスキルの話をちょっとだけするっス。ご存知の通り、アタシのスキルは『鑑定』なんスけど、これはこの世界の固有スキルで、『世界の理』から外れてる情報が表示されないんすよ」
「ん? どういうこと?」
「ぶっちゃ、ゲームの強制力の影響下にある者の鑑定ができないってことっス。つまり、アタシは攻略対象キャラたちを鑑定することが出来なかったっス」
「なるほど、つまりさっき眼鏡を外していたのは、俺が『運命鎖の大切断』を使ったから、ユーテスの鑑定が可能になったと」
「どうでもいいけど、やばいネーミングセンスっスね」
「うるせえやい」
俺は腹立ち紛れにリリーナの頭をわしゃわしゃ撫でる。
リリーナは文句も言わず、こてんと首を傾げた。
「攻略……? ゲーム?」
「あー、いいのいいの、リリーナたんは知らなくて大丈夫」
さらに乱暴にわしゃわしゃすると、リリーナは「くふん」と鼻を鳴らした。
「ワンコ扱いはおやめくださいませ」
不服そうに膨れた頬が可愛い。
「やべえ、リリーナたん可愛い」
俺が言うと、チヒロも同意する。
「うん、可愛い、マジ可愛いわ、リリーナたん」
リリーナがキャンっと吠える。
「ですから、ワンコ扱いはおやめくださいと申しているでしょう!」
きゃんきゃん映える割には可愛いと言われることが嬉しいのか、頬を紅潮させてニマニマ笑っている。
きっと今、じぶんがとてつもなく嬉しそうな顔をしてることに気づいてないんだろうなと思うと、その駄犬っぷりがますます可愛く思えてくる。
「やー、可愛い可愛い」
「もー、可愛い可愛い」
チヒロと二人、右から左からわしゃわしゃとリリーナを愛でる。
存分に。
それを見ていたアレサは呆れ切ったように肩をすくめて笑った。
「アタシは何を見せられてんスか、これ」
ひとしきり笑った後で、彼女はキュッと表情を引き締める。
「さて、ここからは真面目な話っス。アタシとパイセンは、学園の中に革命派のネズミが入り込んでいると見て独自に調査をしてるっス。ところが、小鼠どもは何匹か見つけたけれど、肝心の親ネズミが未だに見つからないんス」
「親ネズミ、つまり元締めってことか」
「そうっス。で、アタシはアタシの能力で鑑定できない攻略対象の誰かが、その親ネズミなんじゃないかと睨んでるんす」
「ところが、それを見つけるためにはまずはゲームの強制力から解放してやる必要がある、と」
「そういうことっスね」
つまり彼女は革命派を見つけるために手を組もうと言っているのだ。
「なるほど、たしかにいい手だが、俺は自分のスキルの発動条件が分かっていない。つまり、思い通りにスキルを発動させることができないんだ」
「あらら、まさかっス」
アレサは、なぜかリリーナを見た。
じーっと、穴が開くんじゃないかって心配になるくらいじっーとみた。
それから、笑った。
「アタシは知ってるっスけどね、発動条件。知ってるっつーか、さっきの戦い見ただけで気づいたんすけどね」
「本当か? 教えてくれ、何が発動条件なんだ!」
「知ってるとは言ったけど、教えてあげるとは言ってないっス。もう少し、自分で考えろっス」
「でも、それじゃあ、スキルを思い通りに使うことができないじゃないか」
「ま、いざとなったらちゃんと教えるっスよ。でも、どんなゲームでだって、謎はそんな簡単には明かされないもんっしょ」
アレサは楽しそうにカラカラと笑った。
「さて、アタシは脳トレ部に戻るっス。なんかあったら呼んで欲しいっス」
ヒラヒラと手を振りながら出口に向かう彼女は、途中で立ち止まり、ふっと振り向いてリリーナを見た。
寂しさと嬉しさをないまぜにしたような、複雑な感情がその視線から透け見えるようだった。
「幸せにしてもらえっスよ」
たった一言、誰に対してのものかわからない呟きを残して、アレサは教室から出て行った。




