一周目、二周目、八周目 2
「そう、あれは、俺が前世の記憶を取り戻す前のこと……」
語り出そうとする俺の言葉を、アレサが遮った。
「ちょい待つっスよ、『一周目』ってどういうことっスか!」
「えー、そっちに食いつくの? ここからさあ、ダレスの過去が語られるのに」
「そういうの興味ないんで、質問に疾く答えて欲しいっス。あんた、ループしてるんすか?」
「え、はい」
「何周目っス?」
「八周目です」
「うっわ、おんなじ世界を8回もループしてるなんて、意外と無能なんスね、アイゼル学園一の秀才なのに」
「な、なんかすいません」
「で、そのヒロインちゃんの人、その人は何周目なんスか」
「二周目……だけど前世でミララキのハードユーザーで、何周回もしたって言ってたな」
「それはそれは……そのヒロインちゃんとお話してみたいっスね」
「そのうち出会うだろ、同じ学園内にいるんだし」
「それもそっスね」
その機会は、意外と早く訪れた。
俺たちの会話にふうと一呼吸はいったタイミングで、教室のドアがバアンと音たてて開いたのだ。
はいってきたのは三人のご令嬢だった。
「ダレス=エーリア、ダレス=エーリアはいらっしゃるかしら!」
「あ、俺です」
「ふうん? あなたが?」
いちばん背の高いご令嬢が、俺の頭の先からつま先までをじろりと眺め回す。
ちょっと偉そうで、嫌な感じだ。
ちょっとムッとした俺は、わざと胸を張ってぞんざいな態度をとってみる。
「あの、どなたです?」
精一杯不機嫌な声を出したが、ご令嬢たちには通じなかったようだ。
ちょっとぽっちゃりしたご令嬢が「ふん」と笑った。
「なんだか頼りないお方ねえ、本当にあなたがダレス=エーリア?」
「そうですけど、何用です?」
最後にそばかす面のご令嬢が。
「私たち、チヒロさんから言伝を頼まれてきましたの」
彼女は少し声を落として、早口で言った。
「『リリーナたんピンチ、すぐに助けに来られたし』」
「!」
アレサもぐっと身を乗り出してきた。
「リリーナって、悪役令嬢の……ピンチってどういうことっス!」
「わからない、けど、行かなくちゃ!」
「こちらよ、ついていらして」
三人のご令嬢がパッと走り出した。
いや、令嬢たるもの人前で走ったりするわけがない。
彼女たちはすすっとすり足で歩き出しただけだ。
しかし、どうやっているのか走っているかのように速い。
「ま、まってくれ!」
「アタシも行くっス!」
俺とアレサは全速力で、三人のご令嬢のあとを追った。
ご令嬢たちはすさささっと廊下を滑るように歩き、階段を駆け下り、中庭を抜けて、俺たちを新校舎の一階へと導いた。
そこは二年生の教室の前だった。
「私たち『淑女のためのマナー講座の会』の部室ですわ」
背の高いご令嬢が言い終わるか終わらないかのタイミングで、教室内から男の怒鳴り声が聞こえた。
「往生際が悪いですよ、シュタインベルク公爵令嬢!」
俺とアレサは、ドアを蹴破る勢いで教室の中に飛び込んだ。
そこで俺たちが見たものはリリーナを後ろ手にかばうチヒロと、彼女の背中に隠れてプルプル震えているリリーナと、そんな二人を真正面からにらみつける若草色の髪をしたイケメンの姿であった。




