ドタ☆バタ☆部活選び 8
俺はトレーニングマシンを眺める。
それから、グラウスのギャグとしか思えない筋肉を眺める。
そして、結論を出す。
「いや、無理無理無理! ここ、筋肉を鍛えるための部活ですよね、俺とか無理無理無理!」
「そんなことはないぞ、見ろ、ミス・アレサを!」
「あれ、モブ顔なのに脱いだら筋肉バッキバキでシックスパックがゴッリゴリとかってオチでしょ!」
「まさか! 彼女はむしろ肉がポチャついてて、それはそれは極上の触り心地……」
「え、なんで触り心地とか知ってるんです?」
「あ」
「え?」
「あー」
グラウスの目が激しく泳いでいる。
これ以上の追求は可哀想だ。
それに、アレサもメガネの奥からこちらを睨みつけている。
あの眼光は「よけーなことを聞くんじゃないっス」ってことだろう。
俺は話題を少し前に巻き戻した。
「ともかく、俺は筋肉とか興味ないので、入部はできません」
アレサは軽くため息をつく。
「はあ、めんどいっス、パイセン、先にここがなんの部なのか教えちゃえばいいじゃないっスか」
グラウスの方はといえば、「うう、うう」と唸りながら何かを迷っている。
「しかし、だな、この部の秘密を教えるには、まず、入部してもらってからだな……」
「めんどいっス。まじめんどいっス。ここから自分が説明するんで、おとなしくしといてもらっていいっスか」
アレサに押しのけられたグラウスは、なんだかしょんぼりしている。
本人たちは隠したいみたいだから敢えては触れないが、完全に尻に敷かれているなーと感じる。
アレサの方は意気揚々、胸を張って話を始めた。
「脳トレ部、正式名称脳が筋肉になるまでトレーニングしよう部というのは仮の姿! この部活の真の姿は、シュタインベルク家により作られた私設護衛団っス!」
「何を護衛するんです?」
「そんなん、シュタインベルク公爵令嬢リリーナ様を、に決まってんじゃないスか、もともとグラウスパイセンはそのために養子にもらわれたんだし」
「ええ、まって、まって、俺が聞いた話と違う。グラウスパイセンはシュタインベルク家を継ぐために養子になったって……」
「あー、それ、公式設定っスね」
「公式……」
俺が驚いて顔を上げると、アレサがニヤリと笑っていた。
「公式設定っスよ」
「まさか、お前……」
「さて、アタシの正体は後でのお楽しみっス。それより、あんたのことっス、鑑定した時にめちゃくちゃ面白い特殊スキルがあったんで、利用させてもらうっス」
「俺に拒否権は?」
「ないっスね」
俺たちの会話を聞いているグラウスはキョトン顔だ。
「え、なに、公式ナントカってなに?」
「後で説明するんで、今は黙ってて欲しいっス」
「はい……」
「まあ、コイツはアタシらの仲間になるならない関係なく、間違いなくリリーナ様の味方なんで、パイセンは心配しないで黙ってていいっスよ」
グラウスを黙らせたアレサは、「はあ」とため息をついた。
どうやらこれは彼女のクセらしい。
「アンタ、いま、何ルート目指してるっス?」
ズバリど真ん中を聞かれた。
俺は戸惑いながらも答える。
「リリーナ救済ルートだ」
「ふうん、目指しているところはおんなじっスね」
「やっぱりお前も転……」
「おっと、それ以上は言わせないっス。後でのお楽しみだって言ったっしょ?」
「同じルートを目指しているから協力しろと、そういうことか?」
「そういうことっスね」
そこでアレサは、またひとつため息をついて付け足した。
「あ、でも、入部する必要はないっスよ。小柄で可愛い系枠のダレスがムキムキマッチョ化とか、見たくないんで」
グラウスが慌てて声を上げる。
「いや、入部してくれ! 貴重な新入部員が!」
「パイセン、うるさいっス」
「はい」
「ま、パイセンのことはほっといて、話を進めるっス。協力っていっても、基本、アンタは自由に動いてくれていいっス。その代わり、こちらも自由に動くけど、構わないで欲しいっス。協力というよりは不戦条約っスね」
「それだけか?」
「それだけっスよ」
俺はアレサを見た。
モブ顔、瓶底メガネの冴えない容姿だが、おそらくはコイツも転生者……だからこそ逆に底が知れない。
しかし同じリリーナ救済ルートを目指していると言っていたし、何より、害意を感じない。
次にグラウスを見る。
彼がリリーナに対して害意を持っていないことはすでに知っている。
それに、アレサがしっかりと尻にしいて……いや、手綱を握っているならばリリーナ救済ルートの邪魔をしたりはしないだろう。
「わかった、よろしく頼む」
俺は右手を差し出す。
アレサはその手にパシンと小気味良い音を立ててハイタッチをくれた。
こうして俺はアレサという新たな仲間を得たのだ。




