ドタ☆バタ☆部活選び! 5
ダメ皇子も良い体をしていたが、せいぜいが俺より頭一つ大きいだけ、怖かったけれど死の恐怖まで感じたわけじゃない。
しかし頭二つ分も違う相手というのは……まず、威圧感が半端ない。
おまけに相手は筋肉モリモリ肩幅ドーン、体格的に似ているキャラをあげろと言われたら戸○呂(弟)。
本気で掴みかかられたら命の危険もありうる。
なんでコレを相手に、発動条件もわからないスキルを試そうとしたのか……自分の浅薄をいまさらながら呪う。
幸いなことに、グラウスは俺を『ちょっと頭の可哀想なやつ』だと認定したらしく、プイと顔を背けた。
その後は俺のことを完全に無視して、リリーナに話しかけ始める。
「リリーナ、お前も貴族なのだから男妾の一人や二人を侍らすことはあっても良い。だが、まだ学生の身でありながら放蕩に耽るのは、さすがに……」
どうやらこの男、見た目は戸○呂弟みたいな筋肉の化け物であるくせに、脳まで筋肉というわけではないらしい。
むしろ口調は鷹揚で、実に“お貴族様”らしい言い回しをする。
リリーナは、俺の背後にしっかりと隠れたままで「キャンッ!」っと吠え返した。
「ダレスさまは私の大切な友人です! そんな邪推で私たちの友情を汚さないでくださいませ!」
犬を飼っていた俺は知っている。
これ、リリーナたんはかなり怯えている。
あれだ、小さな犬が飼い主の影に隠れているときだけ強気で、キャンキャンと吠えかかるアレだ。
その証拠に俺の洋服の肘を掴むリリーナたんの手はブルブルプルプルと震えている。
それでも、アインバッハと対峙した時の怯えが、縛り付けられて棒で叩かれた犬のように『キャインキャイン』だったのを考えれば、だいぶマシか。
リリーナは突然、懐から扇子を取り出して口元に当てた。
じつに悪役令嬢らしく、気高い様子で。
「高貴なるシュタインベルクの名につられて養子になったあなたごときが、シュタインベルクの実子である私に意見するなど、あってはならない事ですわ」
あ、これ、リリーナたん、暴走してるわ。
キャンキャン咆えているうちに興奮しすぎて、最終的に自分がなぜ咆えているのかわからなくなってしまうことがあったりするのが駄犬という生き物。
今のリリーナがまさにそれ。
彼女は自分が何を言っているのかすら理解せず、テンションの高ぶるがままに話しているに違いない。
「それに、仮にダレスさまと私が『そのような関係』だったとして、お兄様に何か不都合がおありでしょうか? ありませんのならば、放っておいてくださいまし!」
リリーナは完全にパニック状態だ。
ここまで興奮してしまったら声かけは逆効果。
飼い主は何とかしてワンコを宥めようと「大丈夫だよ、落ち着け」と声をかけたくなるだろうが、ワンコの方は怯えきって前後不覚になっているところに声をかけられるのだからたまったものじゃない。
普段どれほど大人しくて賢いワンコであっても、パニック中は下手に手を出さずに見守る、これ、鉄則。
ところがグラウスは、愚かにもこの禁を破った。
「リリーナ、少し落ち着いて、俺の話を聞け」
「いいえ! あなたの言葉など聞く気はありません! 私の耳が汚れてしまうわ!」
「リリーナ、いい子だから、落ち着きなさい」
ここで、グラウスは更なる愚を重ねた。
リリーナを宥めようと片手を彼女に向かって差し向けたのだ。
「触らないでっ!」
ギャンとひときわ高く吠えたリリーナは、その手に噛み付いた……いや、持っていた扇子でその手を打ち据えた。
「よるな触るな近寄るなですわ! お兄様なんて大嫌い!」
ギャンギャンギャンッと喚き散らした後で、リリーナはささっと身を翻して逃げ出した。
後に取り残されたのはやたらと肩幅の広いマッチョな男と俺の二人……
しかもマッチョなグラウスは小さなタンクを乗せたみたいな肩を少し落としてつぶやく。
「きらい……嫌われているのか……俺は」
ここで俺は、「おや?」と思った。
先ほどまでの自信満々な貴族らしいものいいと、自信満々な筋肉からは考えられないほどに彼が落ち込んでいたからだ。
(もしかしてこれは、キャラブレ?)
戸愚○弟に似た非現実的な筋肉を見れば、本来の彼はギャグ担当であるはずだ。
頭の中には脳みその代わりに筋肉が詰まっていて、「はーっはっはっは、マッチョでマッスール!」とか叫ぶ系のわかりやすいイロモノキャラであってもおかしくはない。
かと思えば口調は貴族的……一応は攻略対象であるということを考慮すればリリーナを虐げる側の立場であるはずだ。
だが、いまの彼は、『かわいがろうとしたワンコに嫌われた!』みたいな悲壮感をたっぷりと漂わせている。
彼の言動も、見た目も、なんだか何もかもがちぐはぐだ。
(もしかしてこの世界ではキャラブレがデフォなんだろうか)
俺がそんなことを考えている間に、グラウスは、リリーナに逃げられたショックから立ち直ったのだろう。
彼はふっと表情を引き締めて俺に顔を向けた。
「ダレス……エーリア……」
突然名を呼ばれて、俺は戸惑いながら返事をかえす。
「あ、はい、僕の名前をご存じなんですね」
「知っているに決まっているだろう、入学試験を満点で突破し、座学だけならアインザッハ皇子殿下よりも上だろうと言われている希代の天才児、ダレス=エーリアを知らない者はこの学園にはいない」
「あ、そういえば僕、そういう設定でしたね……」
「設定? まったく、今どきの若い連中はよくわからない言葉を使いおる」
「いや、二歳しか違いませんよね?」
「年の話はどうでもいいんだ、お前……」
グラウスが急に俺に顔を近づけて、地の底から響く音とはかくや、みたいな低~い声で囁いた。
「お前、何の目的があってリリーナに近づいた?」
俺の体がビクッと震える。




